27、グッバイハローハローハロー!
サンファルさんは姿勢を正すと、陛下に一礼。
「おはようございます、陛下」
「ああ」
「・・・サンファルさん、おはようございます」
便乗して朝の挨拶をしてみたわたしに
「おはよう、シーキ」
と返してくれた。
サンファルさん、いい人!
ついさっきまで痛い視線を肌に受けていたからか、なおさら彼の笑みが心に染みる。
美女の笑み!
美女じゃないけど!
ぽん、とわたしの頭の上に軽く片手を乗せると陛下はサンファルさんに顔を向け、
「カミュ、悪いがこれを部屋まで連れて行ってやってくれ」
と一言。
陛下、それってなんだかデジャヴュー。
けれど今回サンファルさんは特になにかを疑問に思うでもなく、不可解な表情を浮かべることもなく、あっさりと頷いてみせた。
「承知いたしました」
それに陛下はまたもや頷き返すと、片手はそのまま今度はわたしを見下ろした。
「シキ」
「はい」
「悪いが私は議場へ戻る」
・・・お仕事だもんね。しょうがないよ。
「・・・いってらっしゃい」
でもいろんなことは後から問いただしますからね!陛下!
渋々見送るわたしの頭を、陛下は乗せていた片手で撫ぜて、サンファルさんに任せた、と告げると大扉の向こうへと歩いていった。
それをサンファルさんとふたりで少しの間見送っていたのだけれど、ふと頭に違和感を覚えたので見上げてみれば、サンファルさんが、たぶん、さっき陛下がくしゃりとやったので乱れたのだろうわたしの髪を手櫛で梳いてくれていた。
・・・・・。
なんというか、完璧、ちいさいこ扱いだね。
アメリ、まだわたしの実年齢、話してないのかな
「・・・ありがとうございます」
「どういたしまして」
迷ったけど、結局何も言わずにお礼だけを告げると、サンファルさんはひょいと肩をすくめてみせた。
今日も今日とてサンファルさん。
男性にも女性にも思える雰囲気が独特で不思議な魅力を放っている。
性別サンファルさんって感じだ。
ぼちぼちお互い歩き始めながら、会話をすることにした。
「で、議場でなにをしてたの?」
と世間話よろしく話を振ってきたサンファルさん。
なにを、って
「・・・全校生徒の前で、一発芸を」
アルカイックスマイリングをだな・・・
「は?」
ですよねえ。
首傾げちゃいますよねえ、サンファルさん。
でも、改めて一から詳細に説明する気力も、今のわたしにはないんです。ごめんなさい。
「なんでもないです。あ、サンファルさん」
右も左も視線たち!
なんて思い出したくはなかったので、早々に話を変えてみることにする。
「なあに」
「特一級ってご存知ですか?」
何気なく尋ねたつもりだったのに、サンファルさんには思いもつかなかった単語らしい。
彼が立ち止まったのに気づかずに、数歩先に足を進めてしまったわたしは、
「サンファルさん?」
と振り返って、彼を仰ぎ見る形になる。
サンファルさんは、驚いた、といわんばかりに目を開き、二、三回その長い睫毛で瞬きをすると、特一級?と呟いた。
「はい。特一級、です」
首肯で返せば、サンファルさんは
「え、そもそもなんでシーキが特一級を知って、あ、待って。そう、・・・そういうこと」
と、わたしには目もくれず、ひとりでぶつぶつ呟きを続行しながら突っ立ったまま着々と思考整理を行っているらしい。
ええ、サンファルさん、あなたもですか
置いていかないでいただきたい!
・・・なんか、昨日と今日の午前までに乱用しまくったような気がするよ。
この言葉にこの感情。
置いていかれまくりだね、わたし。
いや、でも、そもそもトリップして、だ。
グッバイ地球!
ハロー異世界!
ウェルカム異文化!
なんでも受け入れるぜイヤッハー!
俺の胸に飛び込んで来い未知数たちよ!
なんて懐のでかい対応、通常の神経しか持たない人間の反応であろうか。いやない。反語。
きっとそういう方は順応能力が基準値を超えているに違いない。
思うに順応能力こそが一番のチート能力ではなかろうか!
従って、状況についていけないのはきっとわたしだけではあるまい。
少々強引なようだけど、わたしの言いたいことはつまり。
とにかく往々にして、人は置いてけぼりにされると不愉快だ。
「サンファルさん!」
少し強めにわたしが声を掛けた時には、サンファルさんは全てを自分の中で納得し終えたのか、平静の態度と表情に戻っていた。
うわあ、思考処理速度が優秀だこと!
チート
Cheat。直訳すると、ズル、騙す。
転じて、日本ゲーム界ではプレーヤーが本来のプログラムを不正に改造すること、だそうですよ!
でもこれ、はしおはゲームに明るくないので、安易に信じないことをおすすめします。
ここでは反則的に強力、というニュアンスで用いています。