26、宇宙も跨いで手をつなごうとする力のこと
にへら、
と笑った後のみなさんの反応といえば、それはもちろん各々それぞれだったのだけれど、大体にして、やはりざわめきとなって議場を駆けていった。
なんなのさあ
どうしろっていうんだよお
もう半ば自棄になってわたしが顔を顰めると、上から小さく噴出すような音が落ちてきたので、顔を上げてみれば、なんと。
ことの原因といっても過言ではない皇帝陛下が、自らの片手で口元を覆いながら、密やかに笑っていらっしゃったのである。
ええぇ
なにこれえ
なんか癪にさわるなあ
釈然としないよ
明記しておくけど、前述の通り、にへら、という間も気も抜けた笑顔は、それでもわたしの最後の力を振り絞って描き出したものなわけで。
そもそも衆人環視、環視も環視。
数多くの目に睨まれるなんて経験をそんなにたくさん積んだはずがないわたしは、にへらと笑ったあと、広がる囁き声と共に急激に手足が冷たくなっていった。
というのも、ざわめきのあとわたしに向けられた視線が、不快だといわんばかりにより強烈なものへと進化していたからである。
勘弁していただきたい。
とうとう堪えていた膝が小刻みに震えだしたころ、
唐突に、軽く覆われていた手が掴まれて、ぐい、と引っ張られた。
突然のことにわたしは足を踏ん張ることも出来ずに慣性の法則に従って引っ張ったほう、つまり陛下の方へよろめいてしまう。
かくも重力は偉大であった!
ニュートンさん!異世界にも万有引力はあったよ!
それもそうか。
思い返せば林檎ではないけれど、わたしもしょっぱな、木から落っこちたのだ。
でもって、そのよろめいたわたしの肩に片手を回し軽く抱きとめる形で支えてくれたのも、言うまでもなく陛下なわけで。
・・・なにがしたいの陛下。
このひとが考えていることはわたしにはさっぱりだ。
サンファルさんじゃないけど、
まったく陛下、なにをお考えなのかしら!
と、陛下はそのままの姿勢で議場の隅まで響き渡るように声を投げた。
「どうやら、これは人に中てられて気分が優れないらしい。悪いが一度中座する。朝の議会はそれから始めるとしよう。・・・すぐに戻る」
・・・ああ。
そういう口実。なるほど。
わたしは具合が悪く見えるように俯いたまま、陛下に寄り添い、寄り添われるようにして騒がしい議場を後にした。
背中にも刺さりそうな視線たちと、耳障りな囁き声に知らず足を少し急かされ、大扉が閉じる音を背にして、そこでようやくわたしも安堵の息をついたのだった。
同時に離れてく陛下の体温。
議場とは打って変わって、しんと静かな廊下で
「やけにしおらしかったな」
と言ったのは陛下。
けっ。人の気も知らないで!
「わたしはいつもしおらしいじゃないですか」
「異世界では単語の意味が違うらしい」
「しおらしい。おとなしく、慎み深く、ひかえめで従順である。同じですか?」
指を折りながら殊更丁寧に数え上げて言ってみる。
陛下、聞いてください。
わたし、いま、虫の居所がよろしくないのですよ!
「同じだな」
しかし陛下は例の如く知ったこっちゃねえと言わんばかりに気も漫ろにそう言いながら、ふと視線を持ち上げていった。
わたしもそれを追って陛下の顔から陛下の目線の先を辿り、行き着いたのは
「サンファルさん!」
壁に凭れるようにして立っていたカミーユ=サンファルさん。そのひとだった。
タイトルセンスの無さに諦めという悟りを開きつつあるはしおです。
閲覧、評価、お気に入り小説、ユーザ登録、しまいには「かたみ」にまで目を通してくださっている方もいらっしゃるようで、ほんとうにほんとうにありがとうございます。
・・・みなさん、はしおを甘やかしすぎですよ。