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24、きっと彼はここから遠くのあの星で元気だよ

特一級?



と、わたしが首を傾げる暇もなかった。


あっというまのあ、の部分。っ、までいかないくらい。


冗談ではなくそれくらいの速さでもって、議場にどよめきは広がっていった。



議場に集まった人たちはもう憚ることも忘れたようで、口々になにかを発したり、逆に口を引き結んだり、とにかく、平静でないことはわたしにもわかる。


わたしが陛下と議場に足を踏み入れたときのざわめきが囁き声だったかのようだ。




なんなの


特一級・・・?




陛下、と口を開きかけたのを、喋るなと言われていたのを寸前で思い出し、なんとか声を飲み込んで。


代わりに陛下を見上げてみれば、




うわあ。

なんだか陛下、とっても愉快気!




動揺している臣下たちを眼下に、陛下は口元に微笑を浮かべていらっしゃった。

その、貼り付けたような冷笑ともいえる笑みとは対照的に、双眸の楽しげなこと!


角度によって色を変える瞳が、愉快愉快といわんばかりの輝きを秘めている。

目は口ほどに語るね。



陛下!まるでいたずらに成功した子供のようですよ!

右往左往する大人をせいせいしたようなわくわくしたような気分で見てるような!



嫌な予感がするなあ


陛下は騒がしい眼下を眺めていて、こちらに目もくれないので、話のネタに勝手に祭り上げられたわたしとしては大変面白くない。


おもしろくない。


陛下、あなたとは違って!


一切説明もなく衆目に晒された挙句、いたずらの種にされたようだから、わたしも少し腹が立つってもんだ。


なんせ、この佐藤 識、注目を浴びるのが無意識のレベルで好きじゃあ、ない。


軽く、足を踏んでやるか、もしくは、かの弁慶さんも音を上げたとか言う泣き所を蹴ってやろうと強く考えながら、結局力いっぱい袖を引くだけに留めたのはわたしじゃなくてわたしのチキン!

知ってた?大体の人間の体内にはチキンが住んでるんだぜ。


降りてきた陛下の目線に自分の目を合わせて、眉を寄せて無言の訴えを試みると、陛下はぽんとわたしの頭を軽く一度叩いてみせた。



だれが!頭を叩けと言ったか!

伝われ、わたしのアイコンタクト!行け、行くのだ、眼力!



が、どうもわたしの眼力は修練が足りなかったらしい。

陛下はすぐにまた元の位置に視線を戻した。


これは、日課トレーニングが必要だね。

毎日毎日、来る日も来る日も眼力の修行を積めばいずれ千里眼が使えるかも!

やったね!


でも、見えなくていいこともきっと世の中にはたくさんあるのかな!



そう。まさしく、今わたしに向けられている、睨んでいるといってもいいほどの強烈な視線とかね。



陛下の特一級発言以降、議場に集まる人たちの視線は一変した。


最初は何かわからないものにどう対処すべきか手を付けかねているような、見極めているような、まあこれでもあまりいい視線ではなかったけど、少なくともいまの視線よりはずっとマシだったはずだ。


彼らの視線には煩わしいものを見るような、不躾さが、隠されもせずに強く込められていた。

そういうものに、がらりと変わってしまったのだ。


想像してほしい。

大勢の知らない年上の人たちに、覚えもないことで非難されるような視線を向けられるのだ。

どんなひとも、少なくともいい気分ではないはず!イマジン!


さすがは政治に携わる者というのかなんなのか、走った動揺は少しずつ緩やかになっていき、またもや一番に声を発したのはトルナトーレ公爵だった。


「恐れながら申し上げます」


頭を浅く下げながらの公爵の発言に、対して陛下は憮然とした声を投げた。


「なんだ」

「そちらの方を、わたくしどもは存じ上げません」

「いま話した」


陛下、それ横暴だと思う!


とか


だいじょうぶなの。そんなぞんざいに臣下に接したら後々響くんじゃないの。


とわたしは心で唱えたのだけれど、どうも陛下には陛下の言い分があるらしい。


わたしが考えるようなことを陛下が思いつかないとか先々を考えないなんてことはたぶんないんだろう。

一国の国主なんだから。


たぶん。



なのに陛下は臣下の非難めいた声音もどこ吹く風と


「既に今朝の時点で、これはもう特一級だ。そうであろう?マルタン」


とかおっしゃる。



マルたん・・・。

なにそれ名前、ちょう、かわゆい。

そういえば、バ〇タン星人とかいたよね。

わたし、バ〇タンさんかわいいと思うのだけどいかがか。



とか!

考えたのがいけなかったんだなあ、きっと!


陛下がマルタンさんとかいう人へ呼びかけると共に視線を移動させたので、わたしも後を追ってみれば、ひとりの人にぶつかった。


たぶん、あれがマルタンさん。


マルタンさんはマルタンさんであってマルたんではないので、いま流行のゆるキャラでもなければ芸能人のニックネームでもなく、


つまり、

マルタンさんは見た目、ロマンスグレーな初老の男性だった。


彼は陛下の呼びかけに一度頭を下げると、周囲の人間に見せ付けるかのようにゆっくりと頷いてみせたのだけど。


明記しておくべきだろう。

マルタンさんの表情も周囲に負けず劣らず非常に渋いものだったということは。


「はい。今朝、陛下の命を頂きまして、ついさきほど、手続きが終了いたしました」


一礼のあと、低く議場を渡ったマルタンさんの声。



ところで何故わたしは前述で後悔をしたのか。


簡単明瞭!


陛下の目線を追って、マルタンさんにわたしの視線が辿り着いた時のことだ。


わたしはすぐにマルタンさんと目が会った。


途端、彼の目元は険しくなり、警戒するようなどこか蔑むようでもある視線をわたしに寄越したのである。



※悩んで一部伏字に変更しました。

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