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23、白いワンピース

全校生徒の前で一発芸をやってくださいって壇上に立たされた気分だ。


これで人が少ないだと!

嘘だ!


陛下のうそつき!


いや、流石に全校生徒という表現は大袈裟すぎるけれど、少なくとも「少ない」は適切じゃないはずだ。


人前に出慣れない人間のわたしから言わせてもらうと、目の前に立つことも憚れる程の人数がいま、わたしの眼下にいるのであって、なにが言いたいかというとわたしは激しく緊張しているのです。

飄々とした陛下を横に!


わたしがおかしいんじゃないよ。

一般市民は緊張して当たり前よ!ってくらい他人の視線が自分に集中しているんだよ。

小心者の自負はあるけど、膝が震えるわたしがおかしいんじゃないと思うのだけど!

たぶん!



議場は赤を基調とした部屋で、幾多の上品な椅子たちが整然と生真面目に連なっている。


ちらりちらりと、金の細工が自己の存在を時々主張してみせていた。


天井は高くてあまり日が差し込まないのか、隅が暗くなり、薄闇がかかってわたしのいる位置からはくわしくどうなっているのかよく見えない。


でも、そんなことは、いまはどうでもいいのだ。


問題は高貴で厳格な議場でも、薄暗い天井でも、赤でも金でもない。


むしろわたしがいま立っている、この位置である。


やっぱり、陛下が鎮座するところは議場のなかでも一段高い。

だから一斉に集まる視線から逃げも隠れもできないのだ。


というのも、先触れのあと、陛下に従ってわたしも議場に足を踏み入れたのだけど、一様に頭を下げていた人達が顔をあげて陛下に視線を向けた。


そりゃあ、まあ、老若男女も振り向く美貌をお持ちの陛下ですから、

視線が飛んでくるのは納得しますよ。


美しいものを視界に入れたいと感じる人はたぶん少なくないはず。


が、それがいけなかった。


なにがって、陛下に向けられた視線たちが、そのまま横にずれてわたしに勢いよくタックルをかましてきたことが、だ。


そうですよね!


皇帝陛下の隣に正体不明の子供が突っ立っていたら何事かと思いますよね!



たくさんの視線、それも絶対良いものじゃない類が絡みつくのがわかる。


わたしは咄嗟に陛下の背中に隠れることにした。

広い背中のおかげで、わたしの視界から大勢の人間のふたつの目は見えなくなったし、たぶん、彼らの死角にわたしはいるはずだ。


ひとまずこれでよし。


人間壁に感謝したのは初めてですよ陛下!



「陛下」


ざわめきのなか、ひとつの声が飛んできた。


もちろん英語で、だ。



ヒズ インペリアル マジェスティ



「恐れながら、発言をお許しください」

「許す」

「お尋ね申し上げましてもよろしいでしょうか」


許すって言われたんだから、ずばっとちゃちゃっと言っちゃえばいいのにね。


慇懃なひとだな。


行き過ぎると無礼になるってよく言うけど、現在まさしくそうなのかもしれない。

少なくとも陛下は好ましく思っていないんだろう、少しいらついた声を出して応じた。


「・・・なんだ、The Duke of Tornatore」


う。

上手く和訳できなかった。


とるなとーれ!

なんだか一気にラテン!


わたしからは姿が見えないけれど、誰もが聞きたくても口を開けなかった状態で先陣を切ってきたのだ、なんとかトルナトーレさんはきっと位の高い貴族に違いない。


デュークってなんだっけ。



・・・公爵じゃないか!



「そちらの方は、どなたでいらっしゃいますか」


と、トルナトーレ公爵閣下。


そちらってこちらでつまりここでどなたって、


わたしか!


やっぱり!



陛下、どうするの陛下


心で問いかけながら陛下を見上げるけど、わたしは陛下の背後にいるわけで、顔を窺うことはできない。


陛下は軽く頷いた。


「これについて、議会を始める前に皆に話がある」


その言葉に、ざわついていた一帯が、波が引くようにさあっと静かになっていく。


鶴のなんとやら!


その情景に感心するやら足が竦むやらでわたしがぼうっとしていると、陛下が振り向いてわたしを見下ろしてきた。

わたしも無言で見上げ返す。


昨日と今日で何度繰り返したかわからない動作だ。


「シキ、前へ」


囁きが降ってきて、背中を片手で支えられれば出ないわけにはいかない。

恐る恐る、陛下の隣に並ぶ。

案の定またもやタックルの嵐だ。


わたし、アメフトの経験はないのだけど!


横にしっかりと並ぶと、陛下の手が背中から離れていくのがわかった。


緊張に急かされて両手でアメリが選んでくれた、シンプルな白いワンピースをほとんど無意識のうちに握り締めて皺を作ってしまう。


なんでもいいから、揺れないで立つために、手とか背中とかどこかに支えが欲しかった。


わたしには、なんだかまったくわからないけれど、議場に陛下が爆弾を突き落としたのはちょうど、そのときである。


陛下は静かに、けれど人を従わせるのに慣れきっているのであろう声で議場の隅から隅まで響くように言った。


「これを、特一級に命ずる」



みなさん、地震の影響はだいじょうぶでしょうか


私も今日やっと仙台の知人に連絡が取れて少し落ち着きました。

被災された方を思えば胸を撫で下ろすことは全くできませんが。


ひとりでも多くの方が無事でいてくれたら、家族や知人と再会できたら、日本全体で、この苦境を乗り越えることができたら、と思います。


小さくても自分にできることを考えたいです。

やらない善よりやる偽善だ。

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