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21、それが憧憬のかたちなのです

「アメリ!ただいま!」


とは、なんだか用事があるとかで部屋を出て行った陛下と入れ替わりに入ってきた彼女に、わたしが朝の挨拶もすっとばして投げかけた言葉である。


部屋に入って早々、そう言われたアメリはきょとんとしたあと、はにかんでおかえりなさいませ、と言ってくれた。


うん。ただいま。


いってらっしゃい、の返事はただいま。

これに尽きる。


いってらっしゃいはかえっておいでのおまじない。


「無事に帰ってきなさい」に「帰ってきたよ」そういう意味なんだってお母さんが言ってた。

どんなにひどい喧嘩をした翌朝でも、なるべく笑顔でいってらっしゃいを言うこと。


これ、佐藤家の家訓ね!


アメリが持ってきてくれたドレスに、手伝ってくれるというのを丁重にお断りし、ひとりで着替え、朝から!って叫びたくなるような朝食を終え、


「いらない」

「いります」

「絶対、必要ない」

「絶対、必要ですわ」


なにがというと、様、が。


「アメリ、わたし別に様とか敬称がつくような立場の人間じゃないから」

「ですが、わたくしは陛下からスィキ様のお世話を仰せつかっております」

「わたしはむしろアメリに敬語を使いたいくらいだよ!」


これの堂々巡りなのだ。


わたし別に陛下のお客様じゃないよって言いたい!

それどころか監視されている立場だってぶっちゃけたい!

でも言っていいのかわからない!

アメリ、どこまで知ってるの!聞かされてるの!


「お、恐ろしいことをおっしゃらないでください」

「そ、そこまで慄かなくても」


恐れ多いじゃなくて、恐ろしいのね。


だけどなんだろう、今までかつてないほどアメリが表情豊かでフレンドリーな気がする!

たぶん思わずの無意識で態度が最初よりずっと軟化してるような気がする!


カサランサスは身分が厳しいのかな。嫌だなそれ。

だめだ。このままじゃ堂々巡りの堂々巡りだ。勢いよくどうどう巡ってしまう。


「よし。わかった。話を変えよう」

「はい」

「アメリはどれくらいメイドさんをしてるの?」

「見習いを含めますと4年になります」

「4年!?」

「はい。12の時から王宮でお世話になっております」

「12!」


労働基準法!


あれ、でもじゃあ


「アメリ、わたしのひとつ下だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」


アメリ!間が長い!


まあ、幼く見られるってトリップの定番のひとつだよね。

覚悟も予想もしてたよ大丈夫。


「わたし、いくつくらいに見える?」

「エジャの方はお若く見えると聞いてはいたのですが」


質問の答えをぼかすくらい幼く見えたのか。そうか。

・・・八百屋の山崎さん!おじちゃんだけじゃなかったよ!なにこれ泣きそう!


あ、でも、アメリはわたしのことをエジャの人だと思ってるのかな。


「アメリ、あのね」

「はい」


わたしが真面目な顔で呼びかけると、アメリも姿勢を正してくれた。

いや、アメリ、きみいつものままでも充分見惚れる姿勢だよ。


「敬語ってね、根本にあるのは建前じゃなくて、相手を敬う気持ちだと思うの」


尊敬するひとには、このこころをなんとか伝えたい表したい、そういう敬意のあまり自然とそうなってしまうときがあって、それが敬語のはじまり。

だといいな!そうであることを願うよ!ビバ性善説!


「わたし、アメリをすごいなって思ってる」

「・・・そんな」

「あなたは立派だよ」

「・・・・」


アメリは困惑したような顔をする。


それもそうか。

でもね。


出会ったばかりのわたしが言っても、説得力ないだろうけど、

伝えたいことは伝えたい時に言うよ!いつも伝えられるとは限らないから!


「アメリはきれいよ」


アメリはきゅっと口を引き結んでいる。

心なしか、困惑から、なにを考えているのか読み取りづらい、なんとも言い表しがたい表情になっていくような気がする。


彼女がなにを思ってどう考えているのかわたしにはわからない。


無責任なのかもしれないね。

だってわたし、彼女のことなんにも知らない。


いつも歯がゆく思うんだけど、ほんとうのこころを伝えるのにこんな薄っぺらいあけすけな言葉で上手く伝わるんだろうか。

でも、残念ながら、わたしは博識ではないので、ありきたりに使い古された言葉しか知らない。


「・・・・・」

「わたし、今までちゃんと働いたことなんてないんだ」


実を言うとわたしは中学を出たら働きたかった。

それを、母も兄も信じられないくらい反対してくれた。

だから進学を選んだ。

でもその選択は、自分の意思だ。

最後は自分で決めたんだから。


「アメリの姿はわたしには、とても特別なんだよ」


短いながらに拝見した彼女の仕事について。


無駄なく美しく動く。

ほんとうに。


迷いがないように見える動作には、的確な判断と所作を体が覚えるまで繰り返した過去があるのかもしれない。

そこに至るまでを思えば言うまでもない。


働くアメリの姿はうつくしいと、わたしの目と心は感じる。


「って、突然なに言ってんだって話だね」


とわたしが苦笑すると、アメリはいいえ、いいえ、と呟きながら首を振って


「・・・スィキ様」


今までで一等華やかな笑顔をくれた。


「ですが、敬称は必要でございます」



・・・ちっ




閲覧、お気に入り登録ありがとうございます!

前話であとがき欄を利用させていただいて、「かたみ」も目を通してくれると嬉しいなあ、なんてほざいていたのですが、ほんとうに目を通してくださった方がいらっしゃったようで驚きました。

私、こんな厚かましいことをぬかして、きらわれないかしらってそればかり考えていたのに!なんてやさしいひとたちなの!

読まなくても本編に支障がないように努めていますが、読んでもらえるとやっぱりとてもうれしい。

評価もしていただいて。待って、落ち着いて、早まらないで!

感謝を伝えたいんですけど上手く伝えられなくて、私、どうしたらいいのママン。

皆さんがやさしすぎて生きていくのがつらい。

あー、また長くなったよ。すみません。失礼しました。

蛇足に、「かたみ」にもまたひとつアップさせていただいています。よろしければ。


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