1、佐藤 識より
わたしのなまえ
佐藤 識
さとうしき
すべて音読みで結構。
識の字が少し珍しいかもしれないけれど、読み方はストレートでわかりやすいと思ってる。
姓名共にわたしは気に入ってる。
小学生の頃はプリントとかテストとかに名前を書くときちょっとイラッっとしたけどね!藤とか識とか!
高学年にもなって佐藤 しきって書いたときは田中先生に赤ペンで「習ったものは漢字で書きましょう」って書かれたのもいい笑い話、いい思い出。
田中先生は美人で若くて優しい女性教師で、ませた男の子は憧れたりしてたなあ。
「どうして識はひらがなで藤は漢字なの?」と訊かれて「世の佐藤さんが今日も書いているんだわ、と思うと申し訳なくて識で妥協しました」と答えたら、そういえば佐藤さんも田中さんも多いわねえという話になって盛り上がり、なんの流れかいつのまにか「ありきたりな名字同盟」を結成していた。
特に同盟で行動するというわけでもなく、あれは自分でも未だに何をしたかったのかわからない。
あの、なんだ。
えてして、過去の自分とは難解で恥ずかしいものである。まる。
なんの話かというと、どちらにせよ付き合ってくれた田中先生がいかに大人の優しい女性であるか、という話。
そういえば、当時隣のクラスの担任だった藤春先生と結婚したってばったり会ったときに話したような。
おめでとうございます!と手を叩いたときの田中先生もとい、藤春先生といえば「藤春なんて名字、田中に比べるとちょっと変わってるから妙な感じよ。あ、でも、佐藤さんとおそろいの藤ね」と恥ずかしげに、はにかんでいらっしゃった。
くそう、最初から最後まで可愛らしい女性だ。藤春先生にはすこぶるもったいない。
藤春先生藤春先生と呼ぶとお嫁さんか旦那さんかややこしいが、佐藤だと夫婦以前に他人間でこれはわりとよくある現象なのだ。おわかりいただけただろうか。
本題に戻ろう。
佐藤 識
高校2年生、華の17歳
まあ、長い歴史、もしかしたらどこかでどこかの血がご先祖様の誰かにひょっこり混じっているかもしれないけれど、少なくとも両親とその両親つまり祖父母は純粋な日本人。
容姿、かなしいかな十人並みも十人並み
頭脳、まあそんなもんだろう程度
学校の成績はすっごい悪くも、すっごい良くもない。
勉強できる人間が必ずしも人として賢いというわけではないだろうけれど、学生のわたしには一番簡単で明瞭な判断材料なのでそれを基準にしてみました。あしからず。
家庭、一般家庭
趣味、という趣味は特になし。
強いていうなら読書が雑食傾向にあるというところが近年の女子高生には少ないかもしれない。
あ、少ないっていうのはあくまで活字離れが騒がれた現代日本社会の一般認識でね。
もしかしたら厳密に調べたらそうではないのかもしれないし、専門家によっては異なる見解っていうのがたくさんあるんだろう。
趣味は読書っていってもわたしよりもずっと膨大な量と分野を網羅する女子高生は世界もいらない日本中を探せば見つかるだろう。というかいたな、友達に。
曰く「一日に一、二冊は読むよ、え、普通じゃないの?」って。
いや、時間を有意義に使うのはいいことだけどね。
有意義な時間を生み出したり、遣り繰りするっていうのは難しいし、それを実行できる人は大体自分を律することができたりする稀有な人だ、とか思うのだ。怠惰なわたしは。
なんか校長先生の話みたいだな。
まあ、今度彼女にはスローリーディングもやってみて、と進言するとして。
・・・今度、があったらの話。
あれ?話がずれてるな。
だめだ、どうもわたしは次々と話が転がっていくことが多いらしい。
そう親愛なる都ちゃんが言ってた。
性格、・・・性格?自分の性格なんて改めて考えたことがないから正確かわからないけれど性格は、さっきからせいかくせいかく言ってるな。
「文化祭、クラスの出し物なんにしますかー?」というクラス会議に、これがいいなあと仲間内では話すけど、手を挙げて発表は苦手、な程度に内向的、寄り。
よしよし。ここまでOK。
で、だ。
家族構成は大学生の兄一人、母一人。
母子家庭ってことはあるけれど、昨今珍しくもないし、まかりまちがってもどこぞの亡国の王家だとか、今は失われし秘術を受け継ぐ一族の末裔だとか、そういうのの血が我が佐藤家に流れているなんてことは万に一つも億に一つも考えられない。
ない。
ありえない!たぶん!
殊更、わたしについては特筆すべきことはなにもない。
母校の担任が顔は思い出せても名前は思い出せないような。
佐藤さんってどんな子?という質問に、十人中八人は普通の子だよね、と答えて残り二人のうち一人が「佐藤さん?あー、あんまり喋ったことないからわからないなあ」とか、一人が「わたしはあの子好きじゃないな。なんとなく。」とか言われるような。
「普通ってそもそも何?」とか「普通なんてないと思う。」とかいう意見がマイノリティではなくなりつつある現代で、完璧な普通なんて珍しいものたりえないそこそこな普通を行く、特徴はあるけれど目立ちはしないような。
平凡も平凡。へいぼんぼんな、へいぼんぼんってなんぞ。
とにかく。
どこにでもいる地味な女子高生である。
以上、佐藤 識についての認識
佐藤 識より!
はじめまして
はしお わたるです