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18、そのナイフは痛い

「監視、ですか」


それしかないよね?


陛下の私室で私が寝る理由というか、現在進行形で王宮にいる理由を考えた結果、これがわたしの頭脳で考え出し得る最適な可能性。

の限界である。


だがしかし。


「・・・皇帝陛下自ら?」

「話が早くて助かるな」


首を傾げたわたしに薄く笑う陛下。


誤魔化す素振りもなかったね!

そこで認めていいのかね!

監視されているとわかってて不貞を図る輩なんてそういないはずだよ!

それともそんなこと、わかってるんだろうか。

わかってて、わたしを泳がせてるんだろうか。


だとしたら、いろいろと不愉快極まりないね!


しかしまあ監視するにしたって人選があるだろう。なんでよりによって陛下。

異世界よくわかんない!


「危険ではありませんか?」


そう口にした瞬間風を感じた。


気づけば、間近、ほんとうにすぐ近く、互いの息が届くほどに陛下の綺麗な顔があった。


首筋の一点が、異様に冷たい。


・・・見えなかった


「過信ではないと、思っているんだがな」


目の前で陛下が言う。

わたしは、なにも言えない。


冷たいと思ったそばから一気にあてられた剥き出しの刃が熱をもっていく錯覚がする。


鼓動は異様に速かった


指先から冷えていく感覚に、そのくせ汗を握る掌


ひゅ、と震える息を吸い込んだところで、陛下はなんとも言えない顔をした。

ぐっ、とスプリングが傾くのと共に陛下がわたしから身を離す。

ベッドから降りた陛下が短刀を鞘に戻したのを目の端で捕らえてそこでようやく全身から力が抜けた。


・・・どこに短刀なんて隠してたんだこの人


大きな枕、クッション?どちらにしろふかふかだ。さすがお金持ち!王様!

とにかくそれに凭れかかって陛下に視線を投げると、同じく立った陛下に視線を投げ返された。


「・・・脅しが過ぎたな。悪い」


・・・この人、ちゃんと謝るんだもんな。


嫌になる。


「いえ。少し、驚いただけです」


予想以上だ。

刃物がこんなに怖いだなんて。


首を振ると、陛下が近づいてきてわたしの頬に手の甲を当てた。

さっきのいまだからびくってなる。

全く、体は生きることに忠実だ。


「顔色が悪いな」

「だいじょうぶです」


血の気が引いただけ。


陛下はしばらくわたしの顔を覗き込んで、あんまり見ないでいただきたい!惨めになってくるよ!溜め息をついた。


手を離して机のほうに向かうとカップをひとつ手に持って戻ってくる。


ん?カップ?


渡されたカップをとりあえず両手に抱え、気になって目を向ければ机の上にも同じカップがひとつ。


・・・ふたりぶん用意してたんだ


なんとも言いがたい気分になってわたしはカップを口に運んだ。


「おいしい」

「それはよかった。・・・カミュと同じことを言うんだな」


サンファルさん?


同じことって、おいしい、じゃないよね。危険ですってやつよね。・・・ほほう。


わかってはいたけどさあ


ぐいっといっきに飲み干してカップが空になると陛下はそれをわたしから取り上げて机の上のトレーに置く。

皇帝陛下自らありがたいこって。

そのまま陛下は座って書類を片手に取った。

ほんとに徹夜なのかな。


わたしは何回か口を開こうと思ったけど結局陛下にお茶のお礼を言えなかった。

それくらい怒っていたからだ。

なにに、といわれると、理不尽なこの状況に、としか答えようがない。


陛下は正しいのだろう


わたしはただのこどもで、国政なんて習ったことしか知らないけど、「異世界人です!」なんて言う王宮侵入者を城内にも城外にもポイ捨ては流石にしない。

それはわかる。陛下もサンファルさんも正しいのだ。


それは、わかる。


・・・ポイ捨てダメ!ゼッタイ!

ポイ捨てすると地球もきみの心も泣くんだって。校長先生が言ってた。


わかるんだよ。ちゃんと、わかるよ。うん。


自然、細い溜め息が零れた。


過信ではない、ね。


確かにそうだ。

あんなのを見せ付けられちゃあ剣にくわしくないわたしはなんにも言えない。

少なくともあの技量にわたしは逆立ちしたって対抗できやしない。


逆立ちできないですけどなにか?

組体操のときペアの子に泣かれましたけどなにか?

ペアの子はかわいい女の子で涙を流す姿も愛らしかったです。まる。

でも泣いてほしいわけではもちろんないので、必死こいて練習はしました。本番だけできました。火事場の馬鹿力は存在するんだと感動しました。今はできません。まる。


過信ではないのかもしれない。

至極冷静な判断の連立が陛下の頭にはあるのかもしれない。

と、仮定して。


でも


「それでも、陛下」


声を投げると陛下は書類から顔をあげた。


「油断は禁物だと思います」


目線を重ねて告げると陛下は目を細めて書類に再び注意を向けながら言った。


「心得ておこう」


その口元が若干愉快そうに持ち上げられているのに満足したわたしは、おやすみなさいと声をかけて、その夜、気を失うように眠りに落ちた。


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