表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/59

17、シキの確率

「陛下、わたし現行犯逮捕!署まで連行!とかいう展開はいやです」


え、え、だってまずくないか?そんな限られた範囲の人間しか入れないって。

また古語と同じパターンかよ。


ってこっちは問題じゃない。


そんな、世界遺産だって観光客がたむろしてるってのに!

国の収入になってるってのに!


わたしの顔は青くなっているだろう。

一方陛下は聞き慣れない単語のほうに興味が向かったようで


「しょ?」


と呟いた。


いまはそんなのどうでもよろしい!


「えっと、捕まえられるのは状況的に妥当としてですね、それから悲惨な牢獄とかそういう類の劣悪な環境に放置されて問答無用で首ちょっきんとか、ものすごくいやです」


や、現代は取調室とかだけどね。

幸いお世話になったことがないからドラマでしか情報はないけど。


知らずに、かつ不本意極まりない状況だったとはいえ立ち入り禁止区域に入ったのは動かしようのない事実で。

捕まえられるのは百歩とあと17歩くらい譲歩しよう。


だがしかし!


わたしの話に耳を傾けてください!

ぷりーず情状酌量!


あれ、でも王宮ってだいたい全体的に立ち入り禁止区域?


「それはおまえが決めることではないな」

「・・・ぜひ、み、人道的なご判断を」


あっぶねえ。

民主的っていうところだったよ!

ここが絶対王政とか独裁的な場所なら反乱分子でちょっきんされるわ!


でも、なんとなく陛下は偏った独裁はしないような気がする。

なんとなく。


わたしのよく当たらない感だけど。


ああ、だめだ。やっぱり眠い。頭がぼおっとしてきた。

わたし、徹夜ができないタイプなんだ。逆に効率が落ちてしまう。

3時間以上眠れないんだっていえる人には尊敬と共に嫉妬してしまうよ!

食欲より睡眠欲が勝る人間としては!


「シキ」

「はい」


うつらうつらしていると、陛下がわたしを呼ぶ声がなんとか耳に届いたので咄嗟に頷き返した。


あれ?なんか、違和感


「へ、陛下!」


眠気も飛んだ!ような気がする!

少なくともこの一瞬は!


「なんだ」

「わたしの名前!もう一度呼んでください!」

「シキ」


わ、わ、わ、


「陛下、なんで?」

「何故って、なにが」


シキって!


「サンファルさんは何回かシキって呼ぶ練習をしてくれたんですけど、正しく発音するのは難しかったみたいで」


なのに、なんで陛下はあっさり、それこそ「識」の発音で呼んでくれるの。


ああ、となんでもないことのように陛下は頷く。


「一番純粋な古語を話せるのは最も祖皇帝の血が濃い直系の人間だ」


どういうこっちゃ。


わたしの顔を見て理解していないことを悟ったのか陛下は付け加えて教えてくれた。


「皇族の血といっても様々だ。直系の皇族と傍系とでは古語の発音が違ってくる」


んんっと、標準語と方言みたいな?

世代を繰り返していくと言語は正しく伝わりにくいってこと?

伝言ゲームみたいなもの?傍系の回り道を経るより、直系の近道のほうが大元により近くなるのかな。そうなの?

言語学者でもなければ人文学者でもないからわからないよ!


でも、どっちにしろ、陛下はわたしを識と呼べるんだ。



識、ってわたしを呼んでくれる人がこの世界にもいるんだね。


そっか。

うん。そっか。



ついつい、口元というか、顔全体が緩んでしまう。にこにこだ。


「随分、嬉しそうだな」

「うれしいですからね!」


そりゃあもう!


はじめに言った。

わたしは自分の名前をそれなりに気に入ってる。

それを呼ばれなくなることを思えば意外に寂しかったし、呼ばれるのは意外に嬉しかったって遅ればせながら知ったよ。


意外や意外。

たいせつなことだったんだね


佐藤 識は佐藤 識だったんだ。


「シキ」

「はい!」

「眠いのならばそこのベッドで寝ろ」

「はい!」


陛下ありがとう!

やっぱり横になって寝たかったんだ!ソファでも問題ないけどベッドがあるならそれに越したことはない。


いそいそと、キングサイズなんてレベルじゃないんじゃない?って様相のベッドに潜り込んだ。


言い訳をさせてほしい。


さっきは吹っ飛んだと思っていた眠気も気のせいだったみたいに再来し、半分眠気眼だったわたしの頭は、もともと緩いのかもしれないけれど、さらに輪を掛けて緩くなっていたのです。


上質の肌触りにうふふと眠い頭で微笑んで、そこでやっとわたしははっとした。


ちょっと待てわたし。

ここ、陛下の私室だよね。


どういうことなの


「陛下はどこで寝るんですか?」


陛下は書類と向き合うのを再開したようで、がばっと上半身を起き上がらせて問うたわたしには目もくれない。

ひらひらと片手を振って、またもやなんでもないことのように言った。


「どうせ徹夜だ、今日は。私は使わない」


・・・それは、つまり


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ