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15、あなたの手

アメリアちゃんが入ってきたとき、わたしは嬉しさのあまり飛び上がった。

わあ!って声をあげた。

両手を一回叩き合わせた。

もしソファが生きてたらびっくりするだろうなってくらいの勢いで立った。

サンファルさんに叱られた。


アメリアちゃんとはなんとさっきの出来る子だったのです!


そうだったらいいなって思ってたけど、そうだった!

夢だけど、夢じゃなかった!


「アメリアと申します」


そう言って彼女に優雅な一礼をされたらもう、緊張しちゃうよ。


「識、佐藤です!」


てお辞儀を返したときは声裏返っちゃったよ。

それを嫌味なく小さな笑顔で流してしまうアメリアちゃん。


か、かわいいは正義!


それからいろいろとアメリアちゃんにはしてもらった。


いや、ほんとうに申し訳ない。ありがたい。


客人用のお風呂に連れて行ってもらって、同伴は丁重にお断りし、え、なになに。

トリップの定番?知りませんそんなの。目指せフラグクラッシャー。

ひとりでゆっくり浸からせていただきました。


不思議なのはここの水道とかどうなってるんだろう。ってとこだ。

でも、ローマには水道が通っていたらしいし、ギリシアには公衆浴場があったっていうからそんなものなのかな。


それからこちらではパジャマらしい楽なワンピースと靴も用意してもらい、食事も準備されていた。


え、なにこの好待遇。怪しすぎるだろ。


食事、さすが王宮だけあって豪華でしたよ。ここはフランスか!っていう。


これも血税かと思うとなかなか手を出せなかったけど、アメリアちゃんに「お気に召しませんか?」なんて困ったように言われたら、ねえ。


大変おいしゅうございました。おごちそうさまでした。


っていうかなんなのアメリアちゃん

こんな出来た子いるの。天使もかくや!

あの人間壁三人衆に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい!悪魔もかくや!


しかしまあ、さっきの会話は肩透かしだね。

結局わたしの身の振り方がよくわからなんだ。

このあと陛下に会うらしいから、それが第二関門?


と、もんもんしながら食後の紅茶を飲みしばらくぼーっとしていた。


アメリアちゃんに一緒に座ってお茶しないかい?と誘ったけど驚いた顔のあとに笑顔で断られてしまった。

ふられちった。


彼女は仕事に忠実に壁際で、すっと立っている。

サンファルさんとしたような当たり障りのない会話をアメリアちゃんに付き合ってもらって、気づけば結構な時間が過ぎていたようで。

サンファルさんに促されてソファを立った。


お、このソファともお別れかな。達者でね。


サンファルさんの後について扉を抜けると、アメリアちゃんがそこで立ち止まって頭を下げた。


え、


「アメリアさんは一緒に来てくれないの?」


年が近いと思われるから内心ちゃん付けだけど口には出せないわたしのチキン!


「アメリアとお呼びください、スィキ様!わたくしが申しつけられましたのはここまででございます」


アメリアちゃん困った顔もかわいいね!


呼び捨て許可貰っちゃったよ!

もうちょっと調子に乗っちゃってもいいのかな。


「あ、じゃあ、アメリって呼んでもいい?」

「・・・はい」


いいね!そのはにかみ!なんども言うよ、天使もかくや!

思わず手を握っちゃう!


「アメリ、いろいろありがとう!」


ああ、この手を放したくないなあ


同年代のおんなのこがいてくれるのはそれだけで心強い。


「それから、言い忘れてたんだけどお昼にもお茶持ってきてくれたよね?おごちそうさまでした。おいしかった!」


ほんとうに美味しかった。

お礼をずっと言いたかったんだ。


わたしが緊張のあまり手に持っただけでかたかた音を立ててしまうあの器たちを、彼女は音もなく動かし、あんなに美味しいお茶を入れ、見苦しくないようにその一連の行為を優雅であるかのように見せてくれる。


この手は、なんてうつくしい手だろう


「じゃあ、いってきます。アメリ」


名残惜しくもその手を放して、サンファルさんについていきながらやっぱり気になって振り返る。

小さく手を振ると、アメリは音は出さずに唇の動きだけで「いってらっしゃいませ」と言ってくれた。

それからまた見惚れるくらい丁寧な一礼をしてくれる。


わたしと、同じくらいの子が、あんなふうに凛として働いてる。

世界が違うから観念も違うのかもしれないけど。わたしには、その姿は鮮烈だ。


よし。ありがとう、アメリ。


緊張とか諸々で弱気になってきそうだった心を叱咤された気分だ。


だけど、アメリ、あのね。


わたしに様はいらないと思うんだよね。


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