13、今昔
「・・・異世界人」
頭を抱えるサンファルさん。
ですよねー。
わたしも一緒になって頭を抱えたい。
あれから三人雁首あわせて話を続けている。
もちろん、わたしについてだ。
人気者は困るね!
サンファルさんは顔をあげて陛下に向き直る。
「それで、陛下はそれを納得なさったのですか」
「まさか」
あ、そうなの?
「だが、全く否定もできんだろう」
「正気ですか?!」
え、サンファルさん。その言い方だとさっきまで異世界云々、懇切丁寧に説明していたわたしがまるで、俗に言うちょっとかわいそうなひとみたいではないかい?
「さっきまで確かにいなかったのに瞬きひとつで木の上にいた。シエル・ガーデンの、だ」
「・・・それは」
威勢が良かったサンファルさんがそこで急に口ごもる。
・・・シエル・ガーデン?
「あとは、この古語か」
「・・・・・」
陛下がわたしを指して言った言葉にとうとうサンファルさんは沈黙する。
陛下!ひとに指を向けちゃいけません!
ところで
「こご?」
首を傾げると陛下が答えてくれた。
「おまえが今話している言語だ」
ご丁寧にどうも。
だけど教えてもらって悪いのだけど、ますますわからんよ。
「え、みんなこの言葉を話しているんじゃないんですか?だって、サンファルさんだって」
「カミュは高位の貴族だ」
どういうこと?
眉を顰めて考えてみるけど、わたしにはさっぱりだ。
情報が少なすぎるよ。
陛下はそんなわたしに観察するような視線を向けて、ゆっくり口を開いた。
「古語は皇族の言葉」
「こうぞくのことば」
ってなんぞ?
「そう言われている。といっても古語の存在自体知る者は限られる」
「どうしてですか」
「古語は口頭のみで親から子へと伝えられていく。文字がない言語だからだ。幼いときから大陸共通語と古語の両方を家庭で使い、そうやって自然に身に着けていく。」
バイリンガルみたいに?
陛下は続ける。
「そして使い分けるように強く教えられる。重要なことを皇族間で話すときだけに古語を使うように。皇族にしか古語を伝えないように。だからこそ皇族の血を引く限られた範囲の者しか古語は話せない。」
「な、なるほど」
わかったような、わからんような。
「おまえのように、淀みなく紡ぎだせるものではない。まるまるひとつの言語だ。訛りもなく習得するのは容易ではない」
だけど皇族の子供は赤ちゃんの頃から古語も大陸共通語も聞いているから、いずれ両方喋れるようになるってことだよね。つまり。
中国人と日本人の子供が、毎日毎日中国語と日本語を聞いて育って、気づいたら二ヶ国語喋れるようになってたぜ!みたいな。
ええっと。古語っていうのは表音文字のない言語で、口伝でしか残せない。
だから古語を学ぶためには絶対古語を話せる人に教えてもらわないといけない。
その肝心の古語を話せる人は全員カサランサス皇族の血を引いている。
でもって古語を話せる人は、おいそれと古語を話さない。外部に漏らさない。っと。
「だから古語は皇族の言葉。皇族の人間しか話すことができないから?」
「古語はもとを辿ればカサランサス祖皇帝から始まったらしい。それから延々、その血と共に受け継がれてきた」
カサランサスの最初の王様の血を引く子孫だけに?
「つまり、古語はカサランサスの一番はじめの皇帝が、身内で内緒話をするために作った言語ということですか?」
暗号とか秘密基地みたいなもん?
これ、おれとおまえだけのだかんな!秘密だかんな!って。
それが、古語?
「内緒話、な。・・・祖皇帝が作ったかはわからん。ただ、祖皇帝の時代から突如、皇族に伝えられるようになった」
どっちにしろわざわざ誰かが作ったんだよね。
大陸共通で言語が統一されてるってことは。
人工言語?エ、エスペラント・・・。
すごい労力だと思うのだけど。
ひとつの言語を作りあげるってよっぽど暇だったかよっぽど才が長けてたのか。
変わった趣味を持ってたのか。
差し迫った問題があったのか。
あ、これひょっとして、カサランサス皇族の七不思議のひとつじゃないかい。
なんにしろ、ここまで説明してもらえればわたしにもわかったよ!陛下の言いたいこと!
「皇族しか知らないはずの古語をさらさら喋れるわたしはおかしいってことですか?」
サンファルさんは皇族の血が入った貴族ってことかな。
「おまえは皇族か?」
「いいえ、まったく」
皇族どころか、この世界のどの国の血一滴たりも入ってないよ!
「だとしたら、おかしいことなんだろうな」
「でも、わたしが今話している言葉は日本語といってわたしの国で一番一般的な言語です」
日本の公用語が日本語なのは法律上ではなくて慣例上なんだって!
みいこちゃんが言ってた!
なんかほかにも色々曖昧なのが多いとも言ってたけど詳しくは覚えてないや。
浅学なわたしは単純に、「でも曖昧なの、日本らしくていいと思う!」って言っちゃう!
日本は日本!
あれこれデジャヴ!
「だそうだ、カミュ。突拍子もないが筋は一応通るだろう?」
「・・・・・・・」
陛下が話を振ったけど、サンファルさんは考えるのを放棄したようでさっきから続けている沈黙を貫いた。
「あの、陛下。大陸共通語をちょっと試しに話してもらえませんか?」
陛下たちの口の動きが日本語に伴っていたから可能性を捨ててたけど、もしかしたらトリップには付き物、翻訳機能が発動しているのかもしれない。
そして、陛下の口から発せられた音にわたしは思わず叫んだ。
「えーご!」
大袈裟かもしれませんが、気になさる方がいらっしゃるといけないので一応明記しておきますね。
作品の傾向上、なにせ普通の日本女子高生が異世界へ行く物語なもんで。
日本についての表記がしばしばありますが、あくまで、はしお個人の意見に過ぎず、主張するものでもなければ、私の不勉強で正確とは言えないものですら時にはあるかもしれません。もちろんないようにと努めますが、自信はちょっと足りない。
はしおはここで右翼の賛否を明言する気は到底ありません。
政治に絡めず、ただの物語としてその本質を楽しんでいただければ幸いです。
長々、失礼しました。