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9、略して琴売り

顔を上げて陛下の目を覗いてみたけど、何を考えているのかやっぱりわからなかった。


よし!言った。

言ったからあとは言い逃げに限る。


スマイルアゲインでもう一度軽く頭を下げてカミュさんのところへ戻る。

わたしが振り返ったときには、陛下の背中がだいぶ遠くに見えた。

けっ。足が長いこって!


「まったく陛下、なにを考えてらっしゃるのかしら」


ん?

中性的なお声が上から落っこちてきたぞ。


見上げれば、見下ろされる綺麗な碧眼とぶつかった。


ああ。カミュさん。


「女性でしたか」

「残念。男」


と、ぱちっときれいなウィンクをこちらにくださるカミュさん。


・・・んん?


どういうこっちゃ。目が見開いちゃうぜ!


「ああ、驚いた?わたしね、これが素」

「す」


どれが巣?酢?

自己破産した脳みそで一生懸命「す」の変換をわたしが試みているとカミュさんはふふ、と口元に笑みを浮かべ


「普段は、いわゆる女言葉って言うの?」


首を軽く傾げてみせる。


ああ、素。これか。

ふむふむ。カミュさんの標準装備は女言葉。

ふむ。


こ、これは、俗にいうオネエキャラ!?


キャーッ


日頃あげない可愛らしい悲鳴もあげちゃうよ!心の中で!

わたしは叫んだ


「待ってました!!」



思わずわたしが叫んでしまってからカミュさんはくすくすと笑い続けている。

なにがツボに入ったし。

カミュさん笑い上戸か。箸が転がるのもおかしい年頃か。


がっつくように叫んだのはまずかったかな。しかしいたしかたあるまいよ。

わたしの「こんな人が友達にいてくれると嬉しいなリスト」の一人なのだ。略して琴売り。ちょっと無理がある。


まさか異世界に来て叶うとは思わなんだ。

だってずっと思っていたのだ、こんな人が友達にいてくれると嬉しいなって。

ほら、さっきすれ違った素敵な人の名前はなんなのかなとか、自分の好きな本を読んでいる人を見かけてちょっと気になったりとか、いつも同じバスに乗っている名前も知らない人に親近感があったり、少し話しかけてみたかったり、そんな感じで。


ちなみにリストにはバスの運転手さん、教師、お医者さん、舞台役者、宇宙飛行士、ケーキ屋さん、花屋さん、ファミレスの店長さん、喫茶店の初老マスター、大食いで太らない美女、売れない画家、アクティブな作家、人間じゃないだろってくらい腹が黒い政治家、箒で飛ぶのが嫌いな魔女、温和な宇宙人、エトセトラエトセトラが肩を並べている。


カミュさんがひとりで笑っているので、わたしも勝手にさせてもらおう。


ここでちょっとカミュさんの描写といこう。


カミュさんは整った顔立ちをしています。

金髪に碧眼の典型的な白馬の王子さまルックスです。

長めの金糸のような髪を左側に一つにまとめて括っています。


以上


・・・あああああ!わたしの語彙力のなんと少ないことだよ!

この美しさをたった三行にしか費やせないとか!

陛下の時も思ったけど、こんなことなら広辞苑読みあさっとくんだった!


「あー笑った」


お、やっと笑い尽くしたか。


「ごめんなさいね、つい」


つい、なんぞ。


カミュさんは目じりを長い指で拭っている。その涙、地面に落ちたら真珠になったりせんだろうな。

しかし、どんだけ笑い上戸だ。そんな笑える発言ではなかったはずだぞ。


「・・・いえ、お気に召されたなら良かったです」


美人の笑顔の種になれば本望さ!

カミュさんはまた微笑んで、くっ眩しいぜ、わたしと向き合った。


「第一騎士団団長、カミーユ=サンファルよ」

「・・・きしだん」


一気にファンタジック!


「そう。騎士団」


どうかした?と、力なく呟いたわたしの目を覗きこんでくるカミュさ、じゃない、サンファルさん。カミュは愛称でしたか。


は!わたし、案内をしてもらう身なのに、どこに案内されるかわからないけど!相手に先に挨拶させちゃったよ。

これではお母さんと兄さんの教育が泣く!


「さ、識、佐藤です。あの、お世話になります?」


何をお世話になるのかといわれると困るわけだが、そもそもこれからお世話になると決まったわけでもないし、でも案内はしてもらうわけで、咄嗟に出てきたのがこの言葉しかなかったのだよ!


と些細な戸惑いが挨拶を疑問系で終結させてしまったのだけど、サンファルさんはそんなことは気にせずにわたしの名前に興味を持ったようで小さく呟いた。


「スィキ・サトー?」


うん?


「識、佐藤」


今度はゆっくり、口の動きを見せるように、首を傾げるサンファルさんに伝えてみる。

サンファルさん!リピートアフタミー!


「シーキ・サトゥ」


発音しにくいのかな。

ま、よく耳にする話ではある。


「あー。はい、呼びやすいように呼んでくださって結構です」


サンファルさんは何度か繰り返して、結果わたしはシーキに収まったらしい。


「さて、自己紹介も済んだことだし。シーキはおんぶとだっこどっちがいいかしら」

「え?」


なんだその究極の二択は。


「あなた、裸足でしょ」


ああ、すっかり忘れてた。カミュさん強烈だぜ!


「大丈夫ですよ。よっぽどでなければ歩けます」


小学校中学校高校と運動会はだいたい裸足だった。

組体操系は特にね!

人間の足を舐めたらだめだよ。皆!原初に還るのだ!ってわたしが高校一年のときの三年生応援団団長が言ってた。叫んでた。


そういえばわたしの高校は体育祭ではなくなぜか運動会という名前にこだわっていた。どうも「体育祭」にはない魅力が「運動会」にはあるらしい。校長先生が言ってた。叫んでた。


ほんとうに平気なのに、というかおんぶやだっこをされるくらいなら少々痛くても裸足で歩きたいと思うのは年頃の乙女として間違ったことだろうか。


が、しかし、サンファルさんは首を振る。


「だめ。譲れないわ、騎士としてね」


それ、陛下に言ってあげてください。あ、あの人はおーさまか。

そう言われると、断りにくいじゃないか。


おんぶとだっこか。


よし。


わたしは小学一年生と張れるくらい背筋と右手をぴんと伸ばした。

「じゃあこの問題わかる人!」「はーい!はーい!」の挙手である。



「じゃあおんぶで!」


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