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蛍雪の作家

作者: 雪柳オイル
掲載日:2026/04/14

蛍雪の功、もとい、蛍雪の本、もとい。

誰もいない。いや、『2人』しかいない学校の図書室。放課後だからか、まるで世界から切り離されてしまった空間、みたいな。静かな異世界のようで。

野球部の声や、ブラスバンド部の演奏は、聞こえてくるんだけど。それでも。


「今日は、読むか」

ボソリ、と呟く。


うん、今日は『読む』に時間をつかおう。

インプットも大切だし。『書く』だけじゃ、『夢』は叶わない。


夢。それは、叶えないといけないもの。


中学校を卒業するまでに、ライトノベル作家にならないと。




椅子に座り、本を読んでいる。


芥川龍之介の小説。


夏目漱石、森鴎外、芥川龍之介、などの昔の作家。

大体、小学生だったときに読んだ。もちろん、図書室で。


僕は、『お金』も『時間』も貧しいから。


なのになぜ今更芥川? なんて、自分でも思うんだけど。

たまたま、確認したくなったから、だろうか。

芥川龍之介はどんな書き方をしたか。

なんとなく。


ぺらり、本をめくる。


息を吐く。


「よいしょっと」

ドサリ、という音で静寂は破られ、集中も切れる。

「ふぃー、仕事終わったー」

じろり、と僕は『その人』を睨む。

『その人』は、ポケットからハンカチを取り出し、汗もかいていないのに、わざとらしく額をふく。


「今日のノルマ、これな?」

「だから、邪魔しないで下さいって、先輩」

あと、どや顔で言うな。

「えー?」

また、わざとらしい『おとぼけ顔』で。




『その人』、2年生で、女子の先輩。

髪は黒く、長い。

初めて会ったときは『賢そうな人』と思った。

雰囲気も、長く本と付き合ってきた人しか持てないような、そんな『賢そうな』雰囲気だったし。

小さい胸が、余計そう思わせて。


『何書いてるの? 感想言わせてよ、ねえ、ねえって』

ツンツン、と腕を突っついてきたり、


『この本読もうよ、ねないこは誰だって絵本。最初は私が読むねっ』

なんて意味の分からないからかいをしてきたり、


挙げ句の果てには、

『図書室にもエロ本置きたくない?』

なんて、思春期の女子から聞きたくないことを爽やかな笑顔で言ってきたり、


なぜか毎日のようにからかってくる。

この中学校に入り、2週間くらい経つ。その間、ずっとからかってくる。


僕は、中学校を卒業するまでにライトノベル作家になって、「高校には行かない、あなたたちの管理から僕は抜ける。ライトノベル作家として生きていく」と言わないといけないのに。


お小遣いはない、本も買ってくれない、参考書は買ってくるけど。僕は本屋に入ったことすらない。

中学生になったばかりなのに、最近は高3の参考書を買ってくる。中学生のレベルは小学校低学年で終わってしまっている。


『お金』は管理されている。お菓子も、服も、本も、買ったことも、買ってもらったこともない。食べたりしたこともない。


『時間』も管理されている。門限は当たり前、家にいるときはずっと勉強をしていないと叱られるし、ご飯も作ってもらえない。


そんなくそな両親から逃げ出したいと考えるのは当たり前じゃないか。

ライトノベル作家なのは、嫌がらせ。ライトノベルに対する世間のイメージは悪いから、あいつらへの嫌がらせだ。


カードを作れないから図書館も利用できない、作るのに500円かかるからだ。500円すらない。


だから…、だから、僕はこの放課後、図書室で作家になるための勉強をしないといけないのに。書いたり読んだりしないといけないのに。


「ノルマはこれだから、早く読みなよ」

「読みません」

「あるぇー?」


何でいつも邪魔してくるんだろう。分からない。からかいだけなのかもしれない。きっとそうだ。




「僕は芥川龍之介の小説を読みます」

「わかった、読み聞かせをしてあげよう。膝に乗りなさい」

「嫌です」

「あるぇー?」

「なんでいっつもからかってくるんですか?」

「…生きがい?」

くたばれ。


でも、なんでだろう。

先輩といると落ち着くし、少しだけ、本当に少しだけなんだけど、心の奥でドキドキと鳴る。


きっと緊張しているだけだ、ただ、一応先輩だから。

そう、いつも自分に言い聞かせている。


落ち着くのも気のせいだろう。


全く、こんな自由奔放でからかってくる先輩なんかに恋なんか、するはずがない。

僕には、この学校を卒業するまでにライトノベル作家になるという、叶えないといけない夢があるのに。

ありがとうございました!

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