天才
「なぁ、悠馬。天才ってどういう人のことだと思う?」
高校の休み時間。
廊下側の最後尾にある席に座っていると友人の秀矢から問いかけられた。
「頭がいい人……なんじゃないか? まさにお前みたいな学年トップの成績を誇る奴だろ」
足を組みながらスマホをいじっていたオレは顔を上げてそう答える。
天才とは成績がいい人。テストで高い点数を取れる人。
それがぱっと浮かんだ答えだった。
「はぁ……分かってないな」
秀矢はため息をつき首を振る。
ドラマなんかで優等生がやりそうな仕草だなと思った。
「毎回平均点が九十点越えのお前が天才じゃなかったら、この世に天才なんて存在しないだろ」
「僕が毎回高得点を取れるのはな、それだけ勉強しているからだ。当然のことを言うな」
秀矢はそう言って、人差し指で眼鏡をクイっと上げる。
オレはからかわれている気分になってきた。
勉強してそれが結果に出るのなら、まさに天才と言っていいだろう。
オレなんかは頭が悪いから、テストの出題範囲に山張って赤点だけは回避しようと必死だというのに。
「それは成績が悪いオレへの皮肉なのか?」
「いや、つまりだな。天才というのは先天的だと言うことだ」
「それは努力できる才能のことだろ? 結局、お前が天才ってことになる」
「僕が本当に天才だったらよかったんだけどね。結論を言おう。天才とは……」
その時、黄色い声がオレたちの会話に割り込んできた。
「ねぇ、悠馬君。こっちきて私たちとおしゃべりしようよ~」
声がした方へ振り向くと、窓際の席に座る三人の女子グループがオレを見て微笑んでいた。
太陽の光が彼女らの顔を照らして、女神のようだ。
「悪いな。オレは友人より女を優先する男なんだ」
そう言って席を立ち、オレは窓際の席にいる女子に向かって右手を上げた。
「きゃー、カッコいい」
「こっち、こっち。私の横に座って!」
「だめ! 私の隣だよ」
天は二物を与えない。
勉強ができないオレは代わりに女にモテる才能をもらったのだ。
そう考えると、なるほど世の中上手くできている。
「それじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
あくびをしながら言うオレに秀矢は、
「ああ、僕のことは気にしなくていいよ」
「そういや、さっき何を言いかけたんだ?」
「僕が言いたかったのは悠馬がその天才だってことさイケメン君」
何やら腑に落ちた顔で一人笑みを湛えている秀矢に、
「なんだルッキズムの話だったのか」
天才って陳腐な言葉だなとオレは心の中でそう呟いた。




