おまけ 結婚式(3年前)
俺とルイの結婚式は、それはもう派手に行われた。
国で一番大きな教会をこれまた盛大に飾り付けた様子は、神聖な儀式というよりも前世で見たイベント会場のようで少し笑ってしまった。
挙式の後は披露宴の代わりにパレードをやったし、まさか自分が馬車の上でキスするなんてびっくりである……人気のネズミカップルじゃあるまいし。
大勢の前でキスさせられた時のことを思うと、顔から火が出るほど恥ずかしくなるが、これでルイは俺の物なのだと国中に知らしめられたのなら、それでも良いのかと思ってしまった。
そして国民向けのパレードが終わった後。
日が沈み夕食の時間である現在は、学園の生徒や世話になった方々を招いた立食パーティーの真っ最中である。
挨拶の波が落ち着きルイと談笑していると、美しい令嬢に声をかけられた。
真っ赤な赤髪と揃えられた深紅のドレスは、彼女の美しい美貌をぼやかせることなく引き立てせている。
キリッとした目元は強気にも理知的にも見えるのに、その瞳の奥はどこか優しげに見える、不思議な女性だと思った。
「ルイ殿下、お久しぶりでございます。
マティス様ときちんとお話するのははじめましてですね。お二人とも、無事ご結婚おめでとうございます。」
「お忙しい中ありがとうございます。」
挨拶に来てくれた見目麗しい彼女は、ドミナイト公爵家のご令嬢である。
俺とは領地が離れていたため直接顔を見たのは学校に入学したのが初めてで、特別会話をすることもなかったが、高位貴族であり目立つ彼女の姿はもちろん知っている。
やや緊張しながらも参列に対する礼を告げると、彼女はびっしりと生えたまつ毛を瞬かせ、ニッコリと微笑んでくれた。
「わざわざ御足労いただき感謝するよ。最近はドミナイト家も婚姻だなんだと忙しいと聞くからね、出席は難しいかと残念に思っていたんだ。」
「こんな素敵なパーティー、何をおいても馳せ参じるに決まってますわ。」
「それは嬉しいよ。」
俺はドミナイト家とあまり関わりがなかったが、ルイはパーティーで話したりもするだろう。貴族の中でも親しい方なんだろうか?
魔王退治のパーティーメンバー程ではないが、ルイが気安く会話している様子である。
「お二人は仲がよろしいんですね。」
思わず口に出すと、彼女はキョトンとしたあと、扇で口元を隠しながらもニタリと笑って見せた。
「あら、それはもうねぇ。
わたくしだって、ルイ殿下の婚約者候補でしたのよ?」
「そうなんですか!?」
笑った彼女は、喋る前の厳しそうな印象と一変して、茶目っ気たっぷりの女の子という感じだ。
その顔と、発言の内容に驚いている俺の横で、ルイはなんとも気まずそうな、微妙そうな表情をしていた。
「ええ。殿下は幼少の頃から素敵な方でしたし……女性なら誰しもがお姫様に憧れるもの。婚約者候補になったと聞いて、わたくしはもう、ドキドキしながら会いに行ったものです。」
他にも婚約者候補がいたらしいという話は聞いていたが、実際に誰がそうだったかとかは知らなかったので、へぇという気持ちになる。
まぁ、公爵令息の俺が選ばれているのだから、同じく公爵家の彼女が王太子妃候補に選ばれているのは、至極真っ当である。
俺は王城に呼び出しの命が下った時は緊張のあまり別のドキドキでいっぱいだったため、彼女は心臓が強いんだなと思った。
「さて、マティス様。ドキドキしながら殿下にご挨拶に伺ったわたくしに、ルイ様はなんと言われたと思います?」
「えっ!」
急にクイズ形式!?とびっくりしていると、特に答えを焦らす気もないのか、彼女は苦笑しながら教えてくれた。
「ルイ殿下は、謝罪したんです。折角来てくれたのに申し訳ないと。それ以降、マティス様が正式な婚約者として発表されるまで、一度だって会うこともありませんでしたわ。」
どういうことだ?候補の一人だったから分かるが、婚約者候補の中から一人を選ぶために、それぞれと親密な時間を過ごす必要があるはず。
実際に俺は、その旨の呼び出しでルイと何度も食事やデートを重ねたのだ。
「頑張って着飾って来た令嬢を振るなんて、なんて失礼な方だと思いました。当時のわたくしはもちろん納得できませんでしたし、無理矢理にでも一度押し掛けてやろうかとも考えました。
うふふ、しかし王城勤めの父が言うんです。どのみち殿下との結婚は無理だから潔く諦めなさいと……。その意味は、学園に入学してお二人を見て理解しました。」
話の内容に合わせて、寂しそうな顔をしていた彼女は今度はまるで母親のような、慈愛を感じさせるような暖かい笑みを見せた。
「仲睦まじい様子に妙に納得してしまいまして。マティス様のつんでれ?が発動している時期もございましたが、お二人は相思相愛の仲なのだとすぐ分かりましたわ。こんなに誰かを好きになれるなんて、羨ましく思ってしまいました。」
予想外の話の展開に、顔が赤く火照った。彼女からはそんな風に見えていたのか……
隣のルイをちらりと見ると、彼もまたなんだか恥ずかしそうにしていた。
「それからずっとお二人のファンでした。
応援する生徒は学内に山程いたそうですが、わたくしもその内の一人です。
なのに聖女様が発見されて……殿下がマティス様以外と結婚するのではないかと噂された時は我が事のように腸が煮えくり返りましたわ。マティス様の表情も心なしか暗くて、まさか噂が真実なのではないかと疑ってしまいました。」
彼女は公爵令嬢らしからぬ表情で持っていた扇を震わせたが、最終的には寄り添っている俺達の方を再び見て、しっかりと微笑んだ。
「全くの杞憂で安心しましたわ。あのままではわたくし、家の力を使ってクーデターでも起こしてしまうところでした。」
「冗談になりませんよ……」
「あら、冗談ではありませんわ。」
思わず突っ込みを入れたが、けろりと否定されてしまう。本当に冗談では済まなそうなので、ルイが俺を選んでくれたことに改めて感謝する。
「長々とお話してしまって、申し訳ありません。
マティス様も、わたくしのことは気にしないでくださいね。ルイ殿下のわがままがあったからこそ、王族に貸しができたというものです。困ったときはお互い様ということで、何度かお仕事の手助けもしていただいてますの。我が家は労せず、得しかしていませんわ。」
うふふふと笑う様は、可憐な顔に似合わない強者の風格を纏わせている。
俺達は2人して赤くなりながらも、彼女に再三とお礼を告げた。この後のパーティーも楽しんでほしいと伝え、別れた頃、俺はルイに気になっていた事を聞いた。
「ルイは、俺以外の婚約者と会ってなかったってこと?」
それを聞いたルイは暫く気まずそうに視線を彷徨わせた後、覚悟を決めたように俺の方を見る。
「マティスの事が好きになっちゃったから。」
真っ直ぐとした言葉に胸がどきりとする。
言われてみれば確かに、ルイは幼い頃から忙しい筈なのに、他の候補がいるにしては多すぎる時間を俺と過ごしていた。イベントの日だって毎年俺と一緒である。
当時はルイと一緒にいれるのが嬉しくてそこまで考えが至っていなかったし、前世の記憶を思い出した後も、原作でルイの婚約者になるのは俺だったためそういうものだと気にしていなかった。
それでも、ルイが確かに俺のことを好きになって、俺を選んでくれていたなら。
それは原作にあったことなのか、それとも小説とは違う、彼と俺だけの時間なのか。
マティスとしての俺にはもう知る由もないけど、もしそうなのだとしたら、こんなに嬉しいことはないと思った。
「ルイはそんなに前から俺のこと好きでいてくれたんだ。」
俺が告げると、ルイは少し驚いた後、確かに頷いてくれる。
「そうだよ。
もちろん僕は、国の皆が幸せであるように願っているし、そのために有りたい。だけどね、自分の好きな人と一緒にいたいと願う事くらいは許してほしいんだ。」
ルイは嬉しそうに俺の頬を撫でると、その手で会場に飾られていた、花瓶に生けられたチューリップを愛おしげに触った。
それらは俺達が王城の庭園で一緒に育てた思い出の花で、ルイが希望して少しだけ飾ることになったのだ。
「紫のチューリップ。花言葉は“不滅の愛”だよ。永遠の愛を誓って、マティスと育てたかった。」
微笑みながら花にキスをするルイはどこか色気があって、深く落ち着いた色のチューリップに引けを取らない美しさだった。
俺も真似するように花に唇を押し付けると、ルイに伝わるように思いを込めて言った。
「ありがとう。これからもずっと隣にいてください。」
ルイは嬉しそうに笑うと、その腕の中に俺を閉じ込めたのだった。
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明日からは「魔力ほぼゼロの俺は、毎週幼馴染に注いでもらわないと仕事すらままならない」という今回より少し長めの異世界BL(R18)の連載を始める予定です。またしても幼馴染、溺愛モノです笑 興味ある方は是非、よろしくお願いします!
改めて、本当ありがとうございました!




