第14話 結婚式
青空の下、広場には花があふれていた。
人々の祝福の声に包まれながら、聖女は白い衣を揺らして歩く。その隣には、いつも剣を握っていた護衛騎士が、今日は同じく純白のタキシードを纏い、立っている。外で行われる盛大な結婚式は、二人の新しい始まりを確かに告げていた。
「ルイ殿下、マティス様、本日はお忙しい中ご出席いただきありがとうございます。」
美しい花嫁が丁寧に挨拶をする。その姿は、誰もが見惚れるような、この国の聖女らしい出で立ちだった。
「優愛、そんなに畏まった話し方をしなくてもいいよ。疲れただろうし、いつもの君を知っている身からすると、なんだか変な感じだ。」
そしてその挨拶に答えるのはこの国の次期国王。こちらもまた、王子にふさわしい佇まいであったが、彼女の挨拶を見て緩く苦笑を漏らした。
「そうですか? では遠慮なく……。
いやぁあ、貴族社会って憧れありましたけど、階級とかマナーとか正直面倒くさいですね!!」
だははと淑女らしくない笑い方をする花嫁を花婿が小突く。
「こら、いくら許可を得たからって飛ばし過ぎだぞ」
「えへへ!でも王子は懐が深い御方なんでこのくらいで処罰しませんよね?」
「やけに調子がいいな?」
軽い様子の聖女に、ルイは笑いながらやれやれという仕草をした。しかし、その動きとは裏腹に、彼の表情はとても暖かかった。
「今日は無礼講だ。」
ワッと聖女に笑顔の花が咲く。ですよね!と明るく言う彼女は、何故か憎めない。
小説では、王子としてお固いルイの対として描かれていた聖女は、貴族界の恐ろしさを知らない無邪気さを持っている。その幼さが危うくもあり、時に誰かの心を救う無垢さでもあった。彼女は気安いが、他人を不快にさせるような踏み込みはしない。根から明るく、またコミュニケーション能力が高いのだろう。ルイの隣に並ぶと、やはりしっくりくるように思った。
しかし今世のように、友人のようなルイと彼女の関係性も、また同様に悪くないとも思うのだった。
「花嫁姿も素敵だよ。」
「あはは、ありがとうございます。マティス様のウェディング姿には及びませんけど」
「当然だ」
もーこの嫁バカ王子!と優愛がツッコミをいれると、花婿が仲裁に入る。言葉では喧嘩のようだが、三人とも笑い合い、とても楽しそうだった。
魔王退治の旅の道中も、こんな感じだったのだろうな。
容易に想像が膨らみ、笑みが溢れる。
「マティス、何を笑っているんだ。」
ルイの瞳が真っ直ぐにこちらを向く。当然談笑中だった3人に注目され、パチパチと目を瞬く。
「あ、えっと、素敵な関係だな……と思っていたんです。」
数年前に抱えていた不安はもうない。聖女と騎士がお互いを想い合っているのは伝わってる。
そして、何よりルイの隣に立つのは自分だと自信を持てるようになったのだ。
「……マティス様は私が召喚されたばかりの頃、王子と浮気でもしてるんじゃないかって心配されてたんですよね。」
聖女が眉を下げて聞いてくる。その通りなのだが、明言するのは憚られるため曖昧に反応するしかできなかった。俺の様子から察したのか、聖女は更に眉を下げ謝り始めた。
「改めて、本当にごめんなさい。もっと早く、王子様は全く私のタイプではないとお伝えできたら良かったんですけど。」
「いや、本当に俺が勝手に思ってたことだし、優愛さんは悪くないですよ。」
それに、俺は前世の記憶ばかりを気にして、ルイの事を信じることができていなかった。例え聖女にそのようなことを言われても信用はできなかっただろう。情けない話だ。
「本当に申し訳なくて。そもそも勘違いのことを知ったのも、卒業式が終わった後だったんです。まさかそんなことになってるとは思いもよらず……。改めてお伝えしますが、私は王子のような裏の読めない機械人間ではなくて、人間味があって男らしい人が好きなんです。」
ぎゅっと花婿の腕を抱きしめて笑ってみせる。なんと清々しい程の笑顔だった。ルイはため息を吐き出すが言葉自体に否定はしない。自然に王子に軽口を叩ける優愛は大物である。
その様子を見て俺も苦笑を漏らし、そしてルイの手を取って言った。
「そうかな?俺は王子としての責任感と能力を感じるから、むしろルイの良いところだと思うけど」
ドヤ顔で告げると、優愛は一瞬ぽかんとした後、思わずといった様子で破顔した。
ルイは「マティス……」と感動した様子でキスしようと迫ってきたため、しっかりと手で拒否をする。聖女の結婚式でそんな事はできない。するなら帰宅後だ。
「マティス様には勝てませんね。は〜面白い!
その調子で、末永くラブラブでいてくださいね?」
「当然そのつもりだよ」
キスを拒否されて拗ねているルイが俺の肩を引き寄せながら答える。王族の執務に関わる事はしっかりしているのに、俺とのイチャイチャに対する欲が我慢できないのはなんなんだ。
俺が長年待てをしてしまっていたせいでもあるかもしれないので、責任は感じているが。
「王子ってば、口を開けばマティスがマティスが〜って煩いんですからね。マティス様も安心して、この調子でお願いしますよ。」
聖女はパチリとウィンクして俺に告げると、他の出席者に挨拶をしに去っていった。
優愛と騎士の結婚式は、3年前に行われた俺とルイの結婚式を見本にし、盛大に開催された。俺達の結婚式で得られた反省点を踏まえているため、スムーズな運営など、全体的に今回の方が良い出来だ。
俺は、聖女達の結婚式に参列しながらも、自分たちの時を思い出し懐かしい気持ちになっていた。
「僕にとってはマティスとの結婚式が一番だよ。」
デレデレのルイを見て、微笑んだ。
「悪いけど、俺もそう思う。」
ルイの隣に俺がいること、それが認められた正式な日を忘れることはない。これからも、この場所は誰にも譲らない。強く決意すると、ルイの手を握ったのだった。
これにて本編終了です!
明日はおまけで2人の結婚式当日の様子が上がりますので、もう少しお付き合いください。
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