第11話 解散
「それでは、これにて卒業式を終了する。解散!」
あまりにも生徒が騒がしく収拾がつかなかったためなのか、卒業式はすぐお開きの流れとなった。
しかし俺はと言うと、周りに沢山人が居て動けない状態が続いていた。
「マティス様、本当におめでとうございます!私は長年お二人を見てたので、心配いらないと分かっていましたよ!」
「何を言っているの!聖女様がいらっしゃってから不安だ不安だと言っていたじゃない!心から信じていたのは私ですわ」
「こらこらめでたい時に争わない!マティス様、本当におめでとうございます」
「そうだぜ!俺も自分事のように嬉しいです!おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます……」
どうしよう、知らない人と知らない人が揉めて知らない人に咎められてる。
あ、最後の人は1年の時クラスが一緒だったな。
泣いて喜んでる人はパーティで挨拶したことがあるかも?意外と知っている顔も多いのか。……にしてもこれどうするんだ。遊園地の着ぐるみ達もこんな気持ちなのかというくらい入れ代わり立ち代わり、周りから人が消えなかった。とりあえずお礼を言ってみるが、それが合っているのかも分からない。
そんな中、遠くで人が左右に分かれる様子が目に入る。周りのざわめきも含め、何が起こっているのかを察してしまう。
暫く見続けていると予想通り、ルイ殿下がまっすぐこちらへ向かって歩いてきていた。生徒達は彼を通すために、さながらモーセの海のように道を作っていたのだ。
近づいてくる彼に対してなんと声を掛けるべきか逡巡したが、ルイは言葉を待つことなく俺を腕の中に収めていた。
式典のためお互い正装に身を包んでおり、体温は直接感じない。そのはずなのに、身体が火照って熱い。
「一緒に帰ろう。」
熱い抱擁に再び会場が沸く。
ルイは素早く俺の手を取ると「お先に失礼するね。みんなありがとう」などと愛想を振りまきながら出口へと向かった。当然手は繋がれたままなので、抵抗もできず俺はそれに従うしかなかった。
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そのままあれよあれよと迎えに来た馬車に乗り王城に到着すると、ルイの自室に通される。やっと人目がなくなって一息つけた俺は、半分置いてけぼりな気分で確認することになった。
「式で言ってたこと、全部本当なのか?」
「もちろんだよ。」
ルイは先程メイドが入れた紅茶を飲んでリラックスしながら答える。
「いやいや……そもそも結婚発表するなんて知らなかったし……」
「あれ?手紙は読んでない?」
やや自慢げな顔で茶を啜っていた彼は、きょとんとした顔でこちらを向いた。
「それは……」
気まずくて視線を下げると、ルイは身を屈めこちらの顔を覗き込んで微笑む。
「いや、いいんだ。正直そんな気もしてたよ?
マティスは心配性だから変な想像して落ち込んでるんじゃないかってね。それでも僕のやる事は変わらないし、まぁいいかと思って決行しちゃった。」
そのままニカッと笑うルイは、先程までの威厳を感じさせる佇まいとは真逆で、少年のように無邪気だった。
手紙に書いてあったとはいえ返事もないのによく発表したな、と自分の事を棚に上げて呆れてしまう。
「そもそも婚約者と結婚するなんていたって当然の話でしょ。王族が行う結婚式が一大イベントになることもね。ある程度は予想できてたんじゃない?」
「それはそうだけど……でも、俺は何度も拒否して逃げたし……」
それに俺は転生者である。聖女じゃなくて自分を選んでほしいと心の底で思っていても、実際にそうなるとは思っていなかったのだ。
「大丈夫。法律のことが不安だっただけで、マティスが僕のこと大好きなのは分かってるから。」
あまりにも余裕そうな顔で微笑まれるから、ドキッとした。そのまま気持ちを落ち着かせるように、俺の元にも用意されていたお茶を手に取る。
それは昔からルイと会う時によく出されていたお気に入りのブレンドで、久しく飲んでいなかったのにも関わらず、その上品で爽やかな香りと味は自然と俺の心を安心させた。
そこからも、驚きのスピードで初耳のエピソードが教えられる。
聖女召喚が弊害だっただけで俺に好かれてる自覚のあったルイは、念の為俺の実家にも手紙を送っていた。そして両親から結婚の許可と息子の状態の報告を受けていたらしい。なんだそれは。
しかも両親からは「マティスは健康に毎日学校に通っていますが、殿下がいなくてとても寂しそうです。結婚は楽しみにしていますので、どうぞよろしくお願いします♡」といった連絡を受けたらしい。 全くもって勝手且つ公爵家らしくない気の抜けた内容だった。うちの家族は昔からルイ殿下が大好きで甘々だったことを思い出し、頭を抱える。
「ではその手紙の内容については、親の一方的な見解であり、実際の君の気持ちとは相違があるのかな?」
手紙に全く身に覚えがないと言ってたら、ルイは確認するように尋ねてきた。
「……いや、寂しく思ってたのも結婚式が楽しみなのも本当だよ。」
これまでの内容を聞いて、素直に伝えてみた。どうやらこの世界のルイは俺のことが心から好きで、結婚の障害も完全に無くなってしまったらしい。そうなれば、俺としてもルイのことが大好きなのだから、我慢する必要はない。結局俺たちはラブラブ両思いだったのだ。
久しぶりの愛情表現に頬を赤くしながら答えると、ルイは顔をパァッと輝かせて俺にキスの雨を降らせた。




