第10話 卒業式
ついにやってきた卒業式。俺はルイとまともに話し合いもしないまま、この日を迎えてしまった。
________本当にこれで良かったのだろうか。
考えたくないことから必死に目を逸らして、ルイはとっくに俺の事など見放してしまったのだろう。ずっと避け続けて、連絡も無視して、婚約者どころか友人として嫌われたんだとしても、彼が魔王退治を遂げ幸せになったという事実だけで心は救われた。
(これで良かった、これで良かった、これで良かった……)
二人が愛し合わないとこの世界は残虐な魔王とその部下の手によって多くが死ぬことになる。俺は間接的に民を救ったといったっていい。ここは小説の世界で、こうするしかなかった。運命は決まっていた。必死に自分を落ち着かせる。
ルイを含めた聖女御一行も既に学園に帰っているという話だ。生徒達の話題がそれ一色になっているため、嫌でも情報は入ってきた。
(成果報告と卒業挨拶をしなくちゃならないし、ルイのやることは多いだろうな。あぁ、2人の様子を見たくない。このまま帰りたい……)
気持ちは沈むが、これ以上暗くしないように努力するだけで、上げる方法は無い。卒業式に出席しなかったと伝われば家族も心配することを考え、俺は重い足をなんとか講堂に向けて動かした。
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数カ月ぶりのルイは、数多の危機を乗り越え少し男らしい顔つきになっただろうか。聖女も深く磨きがかかったように美しさを増していた。彼女の手には、愛の女神から授けられたであろう白く美しい杖が握られている。
広い講堂の椅子は魔法で出し入れしているのか撤去されており、現代で言う体育館ホールのようになっていた。日本のなりたい系小説が原作だからか、ステージなどは俺が前世で経験したような卒業式と似ている。式の内容や登壇者が前世とは全く似ても似つかないことが違和感であるが。
ステージ上の人物達に目を向けた、英雄として共に行動していた騎士や魔導士も登壇しているが、小説のメインでもあるルイと聖女の並びは、とても秀麗で様になっているように思えた。
学園長や来賓からの言葉が述べられたあと、英雄兼卒業生代表の挨拶をルイが行う。卒業式の定型文よりも魔王を倒した英雄の言葉の方が余程気になるのか、生徒だけでなく先生達ですら嬉々とした様子でルイの動向を目で追っている。
国で起こっていた魔物増加の原因、それに立ち向かった英雄達の名前、トラブルに見舞われながらも色んな人の協力のもと成し遂げたという冒険譚、感謝など。分かりやすくまとまったそれらは、俺が知っている小説そのままであった。聞いている人々はそれに感動し、涙を流し称賛している者までいる。魔王を倒すなんて小説では当たり前のように行われる王道展開の一つだったが、現実世界で行われたものは人々に心からの希望を与えるものだった。
「挨拶は以上とする。」
盛大な拍手が送られるが、ルイがステージから降りる様子はない。ルイは一つ咳払いをすると、聖女の方を示しながら再び話し始める。聖女は照れたように頬を赤く染めながらも、嬉しそうに笑っていた。
「ご清聴いただき感謝する。最後に、少々個人的な用件になってしまうのだが、この場を借りて私たちの結婚報告をさせてもらおうと思う。」
なんだそれは……?
いずれそうなるとは思っていたが、こんなにも早く婚約の発表があるとは思わなかった。特に描写はされてなかったが、卒業後に結婚式を行なっていたので時期的に不自然ではないのか……。
先程までの雰囲気とは一変、突然の知らせに講堂内がざわめいた。満面の笑顔の2人が視界に焼き付いて離れない。
素直に祝福の声を上げる人もいれば、微妙な反応の生徒もいるようだった。チラチラと哀れみの視線が刺さる。食堂などで俺達の様子を観察していた令嬢は特にショックを受けている様だ。
「静粛に!」
いっそ退席してしまおうかと思った直後、凛とした声が響く。普段は柔らかい声をしているが、公の場でのルイの声は、凛々しくてよく通る。
「まず聖女優愛。彼女は今回の旅の一番の功労者である。女神に認められ授かり受けた杖を使い治療や強力な補助魔法、そして浄化を行ってくれた。最後に魔王を祓ったのも彼女だ。優愛がこの国に現れなければ今この学園にも危険は及んでいただろう。
盛大な拍手を。」
どれだけ戸惑っていても、この演説を聞いて拍手しない選択肢はない。様々な表情をした生徒が一堂に手を叩き聖女を讃えた。
「そして、彼女は我がパーティーで一番の騎士であるジャンと婚約することになった。私も側で見守っていたが、お互いを補い合える良い2人だと思う。おめでとう。」
ポカンと多くの生徒が口を開けてその話を聞く。
俺もその一人だった。聖女が王族以外と結婚……?
そんな事を知ってか知らずか、聖女が横に立っていた騎士に笑顔で寄り添うと、頼りになりそうな彼もまた、照れくさそうに笑いながら彼女に寄り添って見せた。その姿はまるで相思相愛の恋人のようで……
「また、二人の婚約に際し、聖女に関する現行法の見直しも行った。近いうちに知らせが届くと思う。」
サラリと告げられる事実。ざわつく会場。
「それから、私は以前より婚約していたマティス公爵令息と正式に籍を入れることになった。この学園には応援してくれていた生徒も多くいたようで、感謝の意味も込めてこの場で発表した。卒業式という場を借りてしまい申し訳な__」
立て続けに発言したルイの声は、会場からの大歓声により見事掻き消される。
悲鳴のような雄叫びのような絶叫は、いくらよく通る声でも押し返すのが難しいようだった。俺はというもの、周りに座っていた生徒におめでとうだとかやったなとか、もう無理だと思ったとか自由な感想を浴びせられていた。何が起こったのか分からない俺は正気を失ったかのようにただ頷くしかできなかった。周囲の反応は段々とエスカレートし、バシバシ背中を叩かれたり、手を握ってブンブンと振られたり、終いには感極まったクラスメートにハグされながら祝福された。いやなんだこれ。仮にも公爵令息にしていい方法なのかそれは。周りもハイになっているのか中には全く面識のない生徒もいて、精神的にも物理的にももみくちゃにされた。
「静粛に!!!」
キーンと響くような声。聞いたことのないような叫びに辺りは従うようシンと静まる。
「私達は卒業後すぐに結婚式を行なう。日程は後ほど発表するが、生徒であれば参加可能な公開ウェディングを予定している。希望の生徒は国からの知らせをよく確認するように。あと、マティスに抱きついている男子生徒は今すぐ離れること。」
事務的な言葉とは裏腹に、なんだか嬉しそうな笑顔だ。あまりにも輝かしい王子様スマイルに胸を打たれた生徒達が、バタバタとバランスを崩している。
「それでは、これにて卒業式を終了する。解散!」




