8.第六皇女が邸宅に来ました
ユリアがフリージアに手紙の返事を書いた翌日の午後、フリージアがユリアを訪ねてフレイムの邸宅にやって来た。
「ユリアお姉様、早々の手紙の返事ありがとうございました。早速お邪魔させていただきました」
フリージアは屈託のない笑顔で挨拶をした。フリージアは濃い紫の生地に淡い紫のレースで包まれたドレスにアメジストのネックレスとイヤリングを着けていた。
ユリアはフリージアの笑顔が可愛すぎてついフリージアをギュッと抱きしめた。
「ユリアお姉様…?」
「ああ、ごめんなさい、フリージア様が可愛くてつい…応接室へどうぞ」
ユリアはフリージアを応接室に案内した。応接室は紫のフリージアの花をメインに紫の花がたくさん飾られていた。
「ユリアお姉様、もしかしてわたくしが紫を好きだと気づいていらしゃるのですか?」
フリージアが聞くとユリアはにっこりと笑った。
「さあ、フリージア様、お座りになってください。お茶にしましょう」
ユリアは侍女にお茶とお菓子を運んで来るように告げた。
侍女はすぐにお茶とお菓子を持って来た。
用意されたお菓子を見てフリージアは喜んだ。
「いつでもとお返事に書いてあったので突然お邪魔してしまいましたのに、わたくしの好きなものばかり用意してくださってありがとうございます。わたくしの好みをどなたかに聞いたのですか?」
「いいえ。フリージア様のお好みにあったものが用意出来てよかったですわ」
ユリアは微笑んで言った。
フリージアはお茶を一口飲んだ。
「まあ、とてもフルーティで美味しいお茶だわ」
「お口にあって良かったです。アップルティーと言います。故郷の特産品のお茶ですの。りんごを乾燥させて茶葉と混ぜてありますのよ」
ユリアは他にも色々な果物を混ぜたお茶があることをフリージアに話した。
「美味しそうですね。飲んでみたいです」
フリージアが言うとユリアは侍女を呼んで一通りの茶葉を持って来させた。
「ピーチにレモンにオレンジとアップルです。持って帰って飲んでください」
「わあ、ありがとうございます!」
ユリアとフリージアはその後も楽しく話をした。
「フレイムお兄様がユリアお姉様をお迎えしてくださって良かったです。フレイムお兄様はとてもモテるんですけど、女性が近寄るとそれはそれは恐ろしい目つきで睨みつけて寄せ付けませんの」
「そうなのですか?」
ユリアはフレイムのことを噂では聞くが実際にそのような姿を見たことはなかった。
フリージアは頷いて話を続けた。
「それがこの間のお茶会のときお迎えにいらしたお兄様のユリアお姉様に対する態度やお顔が見たこともないお姿だったのでビックリしましたの。わたくしだけでなくお姉様方も皆さん驚いていましたわ」
「まあ、わたくしも冷たいフレイム様を見てみたいものです」
ユリアがそう言うとフリージアは驚いた顔をして言った。
「ユリア様は冷たい方の方がお好きなのですか?」
「そういうわけではないのですが…何と言いますか…甘々なフレイム様しか見たことがありませんので、いろんなフレイム様が見てみたいなと…」
ユリアはまさか虐められて生きがいを感じるとは言えなかた。
「まあ、ユリアお姉様ったら惚気ですか?」
フリージアは少し頬を赤らめて言った。
ユリアはとんでもないと言いかけて笑って誤魔化し、話題を変えた。
「フリージア様のご趣味は何ですか?」
「趣味っていうか、今刺繍を頑張っているんですが、なかなか上達しなくて……どうしても建国記念祭までに仕上げたい刺繍があるのですが……」
ユリアはピンときた。
「お渡ししたい方がいらっしゃるのですね?」
フリージアは恥ずかしそうに頷いた。
「彼の家紋がライオンに剣が交差されているのですが、ライオンの立髪が難しくて」
「そうですわね。柔らかい雰囲気を出すのは難しいと思います。ちょっと待っててくださいね」
そう言ってユリアは自分の部屋に行き刺繍道具を持ってきた。
ユリアはフリージアの隣に座ってライオンの立髪の刺繍をして見せた。
「ああ、なるほど!ここをこのように交差させて少しずつずらすと立髪が柔らかくなびいてるように見えますね。ありがとうございます!ユリアお姉様」
フリージアはユリアに抱きついた。
「コホンッ」
咳払いの声が聞こえて二人は振り返った。入り口近くにフレイムが立っていた。
「おかえりなさいませ、フレイム様。もうそのようなお時間ですか?」
ユリアは慌てて立った。
「お兄様、ごめんなさい。ユリアお姉様に刺繍を教えていただいていて、夢中で気づきませんでした」
フリージアも立って謝った。
「邪魔して悪いな。ノックをしても返事がなかったから入ってみたら、二人が抱き合ってたもので…」
フレイムは少し機嫌悪いように言った。
「それではわたくしはこれでお暇致しますわ。ユリアお姉様本当にありがとうございました」
フリージアは慌てて応接室を出た。ユリアがフリージアの後をついて行こうとしたらフレイムが腕を掴んで止めた。
「フレイム様。フリージア様のお見送りをしませんと…」
ユリアがそう言うとフレイムは侍従を呼んでフリージアの見送りをするように頼んだ後、応接室のドアを閉めた。
「ユリア、まさかとは思うが…君は同性愛者なのか?」
フレイムは苦しそうな表情で言った。
「はあ〜っ⁈」
ユリアは驚いたというより呆れて声が出た。
「違いますわ!フリージア様は妹のように可愛いだけです」
ユリアがそう言うとフレイムの顔は綻んだ。
「そうか、良かった…」
フレイムはユリアをギュッと抱きしめた。
ユリアはフレイムのがっしりした胸と腕に触れられて、以前よりドキドキしていることに気づいた。このままこの胸抱かれて眠ってもいいかもしれないと思ったが、守られる人生何てありえないと思い直した。
「フレイム様、苦しいです。離してください」
ユリアがそう言うとフレイムの腕が少し緩んだ。ユリアはその隙にサッとしゃがんで腕をすり抜け、フレイムから離れた。
「ユリア……」
フレイムは目を細め悲しそうな顔をした。
ユリアは一瞬その顔に同情心が湧いたが、気を取り直して言った。
「わたくし、婚姻を結ぶまではこの身は誰にも捧げません!」
「この間は正式に婚約したらと言っていなかったか?」
フレイムは少しおどけたように言った。
「あれはそれすらもしていないと言いたかったのです!わたくしが欲しかったら、早く婚姻を結ぶか、わたくしを参ったと言わせるぐらいの策略を繰り広げてください!」
フレイムは驚いた顔をしたがニヤリと笑った。
ユリアは言ってからフレイムの顔を見て気づいた。
相手は戦いにおいては一流の策士だった。だからこそ、フレイムが参戦すれば必ず勝つと言われていることを思い出した。
なんということを言ってしまったのだろうとユリアは思ったが、フレイムはどんな手を使ってくるだろうとワクワクもしてきた。




