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6.不意打ちは困ります

 お茶会の帰りの馬車の中までフレイムはずっとユリアの手を握っていた。

 ユリアは手を離そうとするが、その度に強く握り締めてくるので途中で諦めた。

 2人の前に座っているロザリーはあの冷血漢をここまで変えるとはさすがユリア王女様と思っていたが、ふとお茶会での出来事を思い出して慌ててユリアに謝った。


「ユリア王女様。そのドレス野暮ったいなんて言って申し訳ありません。幻のドレスだなんて知らなかったものですから…」


 ユリアは手を振りながら笑って言った。


「大丈夫よ、ロザリー。あれはハッタリだから。そんな貴重なドレスわたくしが持っているわけありませんでしょう」


 ロザリーは唖然とした。


「ではもしかして他のことも全てハッタリですか?」


 フレイムがクスクス笑い出した。


「あれは全部本当のことだ」


 ユリア驚いてはフレイムの顔を見た。


「まあ、いつからいらしていたのですか!」


「だいたい始めからかな。ユリアが虐められないか気になって木陰に隠れて聞いていた」


 フレイムは大きな声を出して笑い始めた。


「皇子妃たちの慌てようや困惑した顔は見ものだった。ユリアのおかげで実に面白いものを見せてもらった」


「まあ、フレイム様ったら。わたくしそんなやわではありませんわ。それに盗み聞きなんて失礼ですわ」


 ユリアは膨れっ面をして横を向いた。


「ああ、そうだな、盗み聞きしたことは謝る。でもよくわかったよ、ユリアのことが。自分の妃になる人が君で本当に良かったと思っている」


 フレイムはユリアの手を取り甲に口付けて、ユリアを熱い瞳で見つめた。

 ユリアは慌てて手を引っ込めて、内心ドキドキしているのを隠すようにすまし顔を作った。

 ロザリーはあの第五皇子が、と驚いていた。

 誰に対しても冷たい態度で笑ったことがなく、赤い瞳はまるで死神にでも取り憑かれているように濁っていて恐怖心を煽るようにロザリーには見えていた。

 ところが今の皇子はキラキラと輝いて赤い瞳がガーネットを思わせるような透き通った深く赤い美しい色に見えた。

 ここまでフレイムを変貌させることのできるユリアに、ロザリーは羨望の眼差しを向けた。


「ユリア王女様!わたしはどこまでも王女様についていきます!」


 ロザリーは思わず叫んでいた。

 フレイムは不快そうな顔をして冷たい声でロザリーに言った。


「ユリアにはわたしがいるからどこまでもついて来なくていい。程々に侍女としての役割を果たせ」


「は、はい…」


 ロザリーは青ざめて俯いたが、内心はどこまでもついていくと誓っていた。

 ユリアはどっちもちょっと厄介だわと思っていた。


 馬車がフレイムの邸宅に着いた。

 フレイムはユリアの手を取り中に入った。そのままユリアの部屋まで手を繋いだまま行った。

 フレイムは部屋のドアを開けユリアを部屋に入れると、後から入ろうとしたロザリーを睨みつけ制止した。

 ロザリーは慌ててお辞儀をして去って行った。

 フレイムはロザリーが去ったのを見届けて部屋に入った。

 ユリアはフレイムが入って来たのでギョッとした。


「あの、ロザリーは?」


「侍女なら階下に行った」


 フレイムは目を細めてユリアを見つめながら言った。


「まあ、どうしましょう。ドレスは一人で着替えられないわ。今すぐ呼んできます」


 そう言ってユリアは部屋から出ようとしたが、フレイムが止めた。


「わたしが手伝うよ」


 フレイムの目がギラギラ輝いているようにユリアは見えた。

 ユリアは焦った。初日に回避して以来、それらしい行動は今までなかったから安心していたのにまさか、今から?


「そ、そんなことフレイム様にさせられません!」


 ユリアはフレイムから距離をとった。


「ユリア、それぐらいのこと気にしなくていいよ」


 フレイムはユリアに近づき、肩に手を置いて背中を向けた。そしてドレスのボタンを一つずつゆっくりと外していった。

 ユリアの肩と背中が露わになった。フレイムはユリアの白く美しい肌に見惚れていた。


「フレイム様?」


 フレイムは我に返った。


「ああ、すまない。ドレスのボタンは全部外れた。コルセットの紐も緩めるよ」


 ユリアは困ったが、コルセットの紐は緩めてもらわないと一人では脱げない。


「…お願いします。コルセットの紐を緩めてくださったらあとは自分でできますので」


 ユリアはそう言うとフレイムは部屋から出てくれるだろうと思った。

 コルセットが緩んだのをユリアは感じたが、フレイムの気配はそのままだった。

 ユリアの背中に温かい柔らかいものを感じた。ユリアは驚いて振り返ろうとしたが、フレイムが後ろから両手でしっかりと抱きしめたので動けなかった。


「今日は投げ飛ばされないよ」


 フレイムはユリアの耳元で囁いて、耳に口付けた。そしてその唇はすぐにユリアの首筋を捉えた。


「フレイム様、待ってください…そのわたくしたちはまだ正式婚約もしていませんし、まだ心の準備も身体の準備もできていません!」


 フレイムはユリアの言葉を聞き、ため息をついた。ユリアを抱きしめていた手を離し、そのまま黙って部屋を出ていった。

 ユリアはその場に座り込んだ。


「後ろからの突然の攻撃、油断していましたわ。今までそんな素振りを見せずに不意打ちをかけるなんて、フレイム様は策者ね。わたくしも対策を練らないといけないわ。わたくしは何としてでも婚儀が終わるまでこの操を守ってみせますわ……でもフレイム様が物わかりの良い人で良かった。わたくしの言葉を聞いて部屋から出て行ってくださったもの。これが熊なら完全にやられていましたわ……熊じゃなく狼ならわたくしの方が勝てるかしら?いや、でも猪ならどうかしら?うーん武器次第よね………」


 ユリアはブツブツと独り言を言っていたが、だんだんと内容が戦いに変わっていった。

 部屋を出たあとドア越しで聞いていたフレイムは笑いを堪えるのに必死だった。


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