5.皇族のお茶会に参加しました②
「そういえば、皇宮を出入りしている仕立屋がまた新しく店舗を構えるらしいですわ」
セレスティアが言った。
「そうなの?あそこのデザイン素晴らしいものね。少しお高いですけれど帝国の貴族がこぞってあそこを利用していますもの」
イザベラが言った。
「エレノア様のお召し物も全てあそこの仕立屋であつらえていらっしゃるのよね。さすがですわ」
フローラが言いながらユリアを蔑むような目で見た。
(はい、第二ラウンドの始まりね)
ユリアは先ほどのように早々とリタイアしないでねと思った。
「ユリア様のドレスはなんというか、年代ものですわね」
フローラが言った。その言葉に乗っかるようにソフィアが言った。
「古着屋からお買いになられたのかしら?」
ユリアは微笑んだ。
「そうなんです。よくお分かりになりましたね。古着屋で買ったんです」
一同の者がどよめいた。そして口々に言った。
「まあ、一国の王女が古着だなんて」
「よほど国が貧乏か、大事にされていなかったかですわね」
「どうりでみすぼらしいドレスだと思いましたわ」
ユリアはしばらく飛び交う言葉を聞いてから言った。
「このドレスはシルクの中でも特に貴重なミカドシルクが使われていますの」
「ミカドシルクですって⁈」
セレスティアが驚いた。
「ご存知ですの?セレスティア皇女様」
エレノアが聞いた。
「はい、幻のシルクと言われ滅多に手に入らないものです」
一同がざわめいた。
「さすがセレスティア皇女様。よくご存知で。どこかの国の王妃様が着ていらした物で、なかなか手に入らないものですわ。たまたま古着屋で見つけまして、デザインが古いのと古着屋が無知だったので安く手に入りましたの。良いものはデザイン関係なく長く着れますもの」
後ろでロザリーが驚いていた。そんな高級なドレスを野暮ったいなどと言ってしまったと気が沈んだ。
ユリアのドレスについて誰も何も言わなくなった。
(第二ラウンド終了かしら。あっけなかったわ)
「ユリア様、もうすぐ帝国の建国記念祭が行われるのだけれどご存じ?」
エレノアが言った。
(いきなり第三ラウンドの始まり?)
ユリアは笑顔で答えた。
「はい、存じております」
「あなたは帝国に来たばかりだからご存知ないと思うので教えて差し上げますが、毎年この時期に記念祭が行われますのよ。今年は特に五百年ということもあって、盛大に行われる予定よ」
エレノアが言うとフローラがここぞとばかりに言い出した。
「ユリア様は帝国の歴史をご存知かしら?記念祭には帝国の歴史にちなんだ行事が行われますわ。皇族男子は初代皇帝や帝国建国に携わった勇者たちになって首都を凱旋しますの」
「ええ、存じております。皇族女子たちは建国の際、力を貸したという女神様とその眷属の妖精になって凱旋に参加なさるのですよね。ちなみにその女神様が初代皇帝に寄り添ったことで、女神様のことを密かに慕っていた男神のお怒りになったことはご存じですか?」
ユリアはにっこりとして言った。皆は顔を見合わせて首を横に振った。
ユリアは驚いた風にわざと言った。
「まあ、ご存知ないのですか?男神はお怒りになって初代皇帝の子孫繁栄のためにはなくてはならないものを切ってしまわれたそうですよ」
一同顔を真っ赤にしながらそんな話は知らないと言った。
「初代皇帝の恥なので、ほとんどの文献には書かれていません。ただ一つだけ真実をありのまま書き留めた文献が残っています。皇族でしたらお勉強なさると思うのですが?」
ユリアはさらに驚いたと言わんばかりの顔をして言った。
フリージアがそっと手を挙げた。
「この間、その文献を勉強しました。確かに書いてありました」
セレスティアとリリアーナもその文献で勉強した覚えがあると言った。
「さすが皇女様。直系の子孫なので勉強なさったのですね。皇子妃様たちは元は皇族ではないので知らなくても仕方ありませんわ」
ユリアはにっこり笑って言った。
皇子妃たちは黙り込んで静かにお茶を飲んだり、お菓子を食べた。
(もう終わりかしら。張り合いがないわ)
ユリアは自分から仕掛けてみた。
「そういえば、帝国の北の領地では広大な土地を生かして畜農が盛んだとか。特に牛をたくさん飼っているとお聞きしましたわ。帝国では牛をどのような商売に利用していますの?帝国の財源ですもの皆様ご存知ですよね?」
みんな困惑した顔をして目を逸らした。
「エレノア様は次期王妃ですから帝国のことでしたら当然ご存知ですよね?」
ユリアに言われてエレノアはビクッとした。
「も、もちろんですわ。牛…ですよね…あ、そうそう、お肉、お肉がとても美味しいんですの。各国に輸出していますわ」
「黒毛の牛がジューシーで柔らかくて美味しいですね。でもおかしいですね…牛肉はほぼ帝国では消費されているとお聞きしましたが?」
「えっ」
エレノアは真っ青顔をして俯いた。みんなユリアと目を合わせないように俯いていた。
「そうそう、思い出しましたわ。牛の生乳を加工してバターやチーズにして輸出しているとか。帝国の乳製品は質が良くて高値で取引されてますのよね。各国の王族や貴族が食べているバターやチーズはほとんどが帝国産だとか。素晴らしいですわ」
ユリアはまたにっこり笑って言った。
ユリアは帝国の領地の行政事情や貿易に関しての話など尽きることなく話した。
皇族一同は皆、俯いたりお茶やお菓子を食べる振りをしていた。
ただ一人フリージアだけは真剣にユリアの話を聞いていた。
ユリアがいったん話終わるとフレイムが現れた。
「ユリア、迎えに来たよ」
フレイムは微笑んでユリアに言った。
「まあ、フレイム様!わざわざありがとうございます。迎えに来なくても大丈夫でしたのに」
フレイムはユリアの手を取り甲に口付けた。
「わたしが早くユリアに会いたかったのだ」
ユリアは少し戸惑ったが、それ以上に皇子妃たちが目を丸くして呆然としていた。
「今日はありがとうございました。お先に失礼させていただきますね」
ユリアは挨拶すると、フレイムに手を引かれ庭園を出た。
皇子妃たちはフレイムが笑ったのを見たことがなかった。冷血漢と呼ばれ、誰に対しても冷たい視線しか送らなかったあのフレイムが。
もともとフレイムは精悍な顔立ちにがっしりした身体つき、皇族の中では一番良い男だった。そこにきて、あの笑顔。皇子妃たちはびっくりもしたがドキドキもした。
皆ユリアが羨ましく思った。




