32.とうとう結婚しました
フレイムが帝国に戻って来て、トワイト国王は自国の王城内の塔に幽閉となった。
ユリアはリンドバード公爵家の事情を話し、エレノアの協力のもと、トワイト王を捕まえることができたことを理由にお咎めがなしを訴えた。
フレイムは悩んだが、皇后に脅されてやったことなので密輸で得た利益の没収と謹慎三ヶ月という沙汰を下した。
ユリアはエレノアから頼まれていたフレイムが皇太子の側近になって欲しいという話をフレイムにしなかった。
もともと皇太子にだけ都合のいいそんな話をする気はなかったが、公爵邸の間取りを聞き出すため仕方なく受けたのだ。しかし、今回の件で逆にユリアが恩を売った形となったので、文句は言わないだろうと思った。
トワイト王国の王が捕まったことで次期王を選出しなければならなくなった。
トワイト国王には三人の王子がいたが、三人ともまだ未成年だった。
皇帝は自分の皇子に継がせたいようで、皇太子を除く四人の皇子に剣術の試合をさせて勝った者にトワイト王国の国王を戴冠させると公言した。
だが、どの皇子もフレイムに勝てるわけがないと辞退した。半分は面倒ごとに巻き込まれたくないというのが本音だ。帝国でぬくぬくと守られて生きていく方が楽だと第二皇子も第三皇子も思っていた。
第四皇子だけは少し違っていた。フレイムに勝てるなら一国の王にはなりたいと思っていた。
結論が先延ばしになったまま、ユリアとフレイムの結婚式が行われた。
二人は一緒にバージンロードを歩いて教会奥の壇上に上がった。
ユリアは三ヶ月前にここでウエディングドレスを着て幽霊になったんだわと思い出し笑いをした。
フレイムは笑っているユリアを見て声をかけた。
「ユリア、何を笑っているんだい?」
ユリアは慌てて真顔になったが、フレイムを見て、フレイムの幽霊姿を思い出し笑いを堪えることができなかった。
「ごめんなさい。ここでの幽霊姿を思い出して……」
ユリアは笑いを止めようと必死になった。
「大丈夫。笑っていていいよ。前回の幽霊のユリアも素敵だったが、今日のユリアも一段と美しい。やっと一つになれるんだな。どんなにこの日を待ち侘びたか…」
フレイムはユリアの頬に手を当てて真っ直ぐに見て言った。
ユリアは顔を真っ赤にして照れた。
「うぉっほん!」
司祭が咳払いをして祝福の言葉を述べた。
その間も二人は顔を見合わせて笑っていた。
「では誓いの口付けを…」
司祭が言い終わるか終わらないかでフレイムはユリアに口付けをした。
長い長い口付けだった。
参列者が呆れ始めたころ、司祭が咳払いをして中断させた。
ユリアは息が止まるかと思ったのでホッとした。
「チッ」
フレイムが舌打ちしたのを司祭は聞き逃さなかった。
「これで晴れて二人は夫婦になりました。続きはどうぞ寝室で!」
「言われなくてもそのつもりだ」
フレイムはユリアの手を引き出口に向かって早足で歩いた。
参列者はどよめいた。
「フレイム様、参列者が先に教会を出てわたくしたちは後から出る予定でしたわ」
「予定変更だ。この後遠回りせずにまっすぐ王城に戻る」
フレイムは教会前に止めたあったオープンの馬車にユリアを抱きかかえて乗り込んだ。
「まっすぐ王城に向かってくれ。なるべく速く」
フレイムが御者に言うと、御者は戸惑いながら馬車を走らせた。
街頭では民衆が二人を祝福するために集まっていたが、予定の街路を通らず早足で通り過ぎるのでみんなポカンとしていた。
「フレイム様、せっかく街の人がお祝いに駆けつけてくださっているのに失礼ではありませんか?」
「大丈夫だ。どうせわたしは後継でもない第五皇子だ。野次馬程度に集まっているだけだ。それより今は一刻も早く二人になりたい」
フレイムはそう言ってユリアの顔を見つめながら、ずっと握りっぱなしのユリアの掌に口付けた。
ユリアはこの後のことを考えると心臓の高鳴りに倒れそうだった。
馬車は王城に入るとそのままフレイムの邸宅に向かった。
邸宅に着くとフレイムはユリアを抱きかかえ中に入った。
侍従長が慌てて迎えに出て来たが、フレイムはユリアを抱きかかえたまま寝室に直行した。
出迎えの準備をしていた使用人たちは呆気にとられた。
ユリアの部屋が二人の寝室になり、続き部屋のフレイムの部屋は二人の居間になっていた。
ベッドには花びらが散りばめられ、サイドボードにワインが準備されていた。
フレイムはユリアをベッドの上に寝かせて、ユリアの上に覆いかぶさった。
「ちょ、ちょっと待って!」
ユリアは焦って言った。
「もう待てない」
フレイムはユリアの頬に口付けた。
「いやいやいや、フレイム様、披露宴、披露宴をお忘れでは?」
「大丈夫だ。パレードを省略した分時間ならある」
ユリアは思いっきりフレイムの頬を叩いた。
「わたくしにとっては初めての行為です。そんな空き時間にちょこっと済ませようみたいなこと酷いですわ!」
フレイムはユリアの目に涙が光っているのを見て冷静になった。
「すまないユリア。やっとこのときがきたと嬉しさのあまりユリアの気持ちも考えずに冷静さに欠けていた。本当に申し訳ない…」
フレイムは本当に反省しているようだった。
ユリアは起き上がり、項垂れているフレイムの頭を抱きしめた。
「わかってくれればいいんです。披露宴の衣装に着替えましょう」
「ユリア、ありがとう。今晩を楽しみにしていてくれ。思い出に残る初夜にするから」
フレイムはユリアのおでこに口付けをした。
ユリアは思い出に残る初夜って何なのと考えていた。
披露宴はダイアナを立てて皇宮の大広間で行われた。
トワイト王国の制圧やリンドバード公爵家での捕物の話が貴族の中で広まっていたので、ユリアを馬鹿にしたり見下してくる貴族はいなかった。
ダイアナは鼻高々に息子自慢嫁自慢をしていた。
ひと通り挨拶が終わると大広間に音楽が流れた。
「我が愛しの妻、踊っていただけますか?」
フレイムがユリアに手を差し伸べた。
「喜んで」
ユリアはフレイムの手を取って踊った。
二人が踊り始めると周りも踊り始めた。




