31.公爵邸で捕物をいたしました
ユリアとリンドバード公爵夫人は応接室に入って行った。ユリアの護衛は応接室の外の扉の前で待機した。
「ユリア様はどこまでご存知なのかしら?」
公爵夫人は応接室に入るなり聞いた。
「トワイト王国との密輸を勧めたのは皇后陛下ですか?」
ユリアが聞くと公爵夫人はうなだれた。
「なにもかもご存知なのね……」
ユリアはカマをかけただけだったがビンゴだったようだ。
公爵夫人はことの経緯をユリアに話した。
トワイト王国との密輸の話を皇后から持ちかけられたのは3年前、エレノアが皇太子と婚約した直後だった。
リンドバード公爵は最初は断ったが、エレノアが皇后に嫌がらせを受けるようになり、精神的に追い詰められてエレノアが婚約を破棄したいと言い出した。
皇后の嫌がらせはトワイト王国との密輸を断ったことが原因だとすぐに気づいた公爵は悩んだ末に、娘の輝かしい未来を選んだ。
当時公爵夫人は事情を知らず娘を不憫に思っていたが、急に皇后が態度を変えエレノアやリンドバード公爵家を大事にするようになったのを不信に感じていながらも、エレノアが幸せなら詮索しないでおこうと思った。
公爵夫人が密輸のことを知ったのは一年ほど前だった。
公爵の執務室に用事があって訪れたときだった。執務室には誰もおらず、机の上に皇后からの手紙があったのを公爵夫人は見てしまった。エレノアの名前が見えたので気になって読んだ。
内容はエレノアのことが心配なら密輸を続けるようにと命令的な文章だった。
公爵夫人はショックを受けたが、エレノアのことを思い、知らないふりをしようと心に決めた。
ところがフレイムがトワイト王国を制したと聞いて安堵と同時に密輸したことがバレないかと気が気ではなかった。
それは皇后も同じだった。公爵にトワイト国王を亡命させるように指示がきたのだ。
公爵はトワイト王国の再建のための派遣を自分の息のかかった財務省の人間を送り込み、頃合いを見てトワイト国王を皇后の縁者のいる国に亡命させる予定だったが、トワイト国王はまだ自国を治める気でいたので、皇后に皇帝を説得するように脅していた。
ところが皇后が幽閉され状況が変わった。
トワイト国王は証拠の帳簿を盾にリンドバード公爵を脅し、匿うように言った。
公爵は仕方なく公爵邸に連れてきたのだった。
公爵夫人はここまで話すとユリアにすがった。
「このことがバレればリンドバード公爵家は終わりです……どうか…どうか…内密にお願いします」
公爵夫人は泣き崩れた。
「皇后陛下はトワイト王国といつ懇意になったのかしら?帝国とは仲が悪いと聞いていたのだけど」
ユリアは不思議に思った。
「…それはわたくしも存じていませんが、皇后陛下の側近が橋渡ししているようでした」
ユリアは皇后の側近を皇帝に謁見したとき見たが、毛色が違うと感じていた。彼はトワイト王国の人間で何らかの事情で皇后の側近になったのだと思った。
「公爵夫人。トワイト国王は西の端の突き当たりの部屋の本棚の裏の隠し部屋にいますね?」
ユリアが言うと公爵夫人は目を見開いて驚いた。
「なぜそれをご存知なの⁈」
「わたくし何でも見通せる力を持っていますの」
ユリアはにっこり笑って冗談のつもりで言った。
公爵夫人はそれを冗談だと気づいていなかった。
「ユリア様!何でもしますからどうか助けてください!」
ユリアはリンドバード公爵家も皇后の被害者だと思った。もし密輸がバレたらリンドバード公爵家に全てをなすりつけるつもりだったのだろう。だから金儲けになるにもかかわらず実家の公爵家を使わなかったのだと思った。
「わかりました。ではこれからわたくしがすることを黙って見ていてくださいね。公爵夫人は何も知らないふりを通してください」
ユリアは公爵夫人に告げると応接室を出た。
ユリアは西の端の突き当たりの部屋に向かいながら、大きな声で叫んだ。
「曲者!曲者が公爵邸に忍び込みましたわ!早く来てください!」
フレイムの変装した騎士たちは屋敷の西の方を監視していたのですぐに駆けつけた。
「ここよ、この中に逃げたわ!」
ユリアはそう言って西の端の部屋に入り、本棚を動かすスイッチを探した。
スイッチは本の後ろにあった。ユリアがスイッチを押すと本棚が左右に開いた。開いた先に地下に降りるスロープがあった。
ユリアは騎士たちに目で合図をして突入させた。
スロープを降りると扉があり、騎士は扉を開けて一斉に部屋に入った。
部屋の中には食事中のトワイト国王がいて、飛び込んできた騎士に驚いて咳き込んでいた。
部屋いっぱいに金銀財宝も置かれていた。
「曲者を捕らえよ!」
ユリアが叫び、騎士たちはトワイト国王を縄で縛った。
「何だ!どういうことだ!公爵、リンドバード公爵はどこだ!」
トワイト国王は憤慨して叫んだ。
ユリアは帳簿を探しながら答えた。
「リンドバード公爵様は皇宮でいますわ。公爵邸に曲者が忍び込んだことは後で知ることになるでしょうね」
「何を言っておる!余が誰かわかっておるのか!公爵を早く呼べ!」
ユリアは帳簿を見つけた。見つけた帳簿をトワイト国王にちらつかせながら言った。
「わたくしのことをお忘れですか?トワイト王国の王城で第五皇子フレイム殿下と一緒にお目にかかりましたわよ」
トワイト国王は目を見開いてユリアを見た後、青ざめて俯いた。
ユリアはトワイト国王に猿ぐつわをかませ、馬車に乗せ皇宮に向かった。
騎士の一人には早馬でフレイムにトワイト国王が見つかったと知らせるように頼んだ。
皇宮に着くとユリアは皇帝に謁見を求めた。
「皇帝陛下にトワイト国王を捕まえたと伝えてください」
衛兵に伝えるとしばらくして謁見の許可が下りた。
ユリアは謁見室に入り、皇帝に挨拶をした。
「帝国の太陽にご挨拶申し上げます」
「ふむ、ユリアだったな。そこにいるのがトワイト国王か?」
皇帝は目を細めながら言った。
「はい。本日リンドバード公爵夫人にお茶会に誘われてお邪魔していたところ、曲者が公爵邸に忍び込もうとしているのを見つけまして、わたくしの護衛と共に捕らえました。そして顔を見てびっくりいたしました。逃亡したトワイト国王にあまりにもそっくりなので」
ユリアはわざと驚いたように言った。
「ふん、下手な芝居をしおって……その方はなぜトワイト国王がリンドバード公爵邸に忍び込もうとしていたと思う?」
皇帝は見透かしたように言い、ユリアに質問した。
「さあ、わたくしにはさっぱり。ですが、まさか帝国にトワイト国王がいるなんて誰も思わないので隠れ家を探していたのでは?金銀財宝も所持していましたので馬車に積んで持ってきました。ここに運ばせましょうか?」
「……うむ、あいわかった。金銀財宝は余の金庫室に運び入れるように。そこのトワイト国王のことはどうするかフレイムに任せる」
皇帝はそう言うとにこやかな顔で出て行った。
ユリアは大きくため息をついた。
あとはフレイムが帰ってきたらどうするかだ。公爵家にはお咎めがかからないように説得しようとユリアは思った。




