30.公爵家のお茶会に行きました
リンドバード公爵家のお茶会当日。
主催はエレノアの実母、公爵夫人だ。
ユリアをお茶会に招待したのは皇后を窮地に追いやった他国の王女に興味を持ったからだ。あと、エレノアのために芽を摘む必要があるかどうかの判断のためだろう。
ユリアは公爵邸に到着すると護衛騎士三人を連れて邸宅に入った。
ユリアと一緒に馬車に乗っていた庭師と使用人に変装した騎士たちが、ユリアが邸宅に入るのを見計らってこっそりと馬車から降り、何食わぬ顔で予定位置についた。
通行人風の騎士が屋敷の周りでうろついた。
ユリアは公爵家の侍従に庭園に案内された。庭園の芝生が広がる敷地に丸テーブルが五つ用意され、それぞれ四脚ずつ椅子が置かれていた。
まだ誰も来ていなかった。
ユリアが案内されたテーブルに座ると屋敷の中から公爵夫人らしき者とその取り巻きのような婦人が二人出てきて、ユリアが座っているテーブルに近寄って来た。
ユリアは立ち上がり丁寧にお辞儀をした。
「はじめましてリンドバード公爵夫人。ユーフィラシア王国第三王女ユリアと申します。この度はお茶会にご招待いただきありがとうございます」
「まあ、あなたがユリア王女。こちらこそお茶会に参加いただきありがとう。お噂はいろいろ聞いておりますわ」
リンドバード公爵夫人はそう言うとユリアと同じテーブルに座った。
一緒にいた二人の婦人も同じテーブルに座った。
(なるほど、三人から品定めされるというわけね)
ユリアはどんな言葉で仕掛けてくるのだろうかとワクワクしたが、今日の目的は別にあることを忘れてはならないと頭の中で言い聞かせた。
「こちらはサンバレル伯爵夫人とナンデック男爵夫人です」
リンドバード公爵夫人は他の婦人を紹介した。
サンバレルといえば招待状をいただいていた家門だ。確か令嬢がフレイムに執着しているようなことをロザリーが言っていた。
「はじめまして。サンバレル伯爵夫人には招待状をいただいておきながらお断りして申し訳ありません。今回幾つか招待状をいただきまして、まだまだ若輩者ですので公爵夫人のお力添えを頂戴してからと思いましたの」
ユリアは当たり障りなくリンドバード公爵夫人を立てるように言った。
リンドバード公爵夫人は満更でもない顔をした。
ユリアはその顔を見て、持ち上げてあげればすぐになびく単純な方だと判断した。
庭園のテーブルに置かれた椅子は全て埋まった。リンドバード公爵夫人の挨拶から始まった。
ユリアは各テーブルの招待客をチラリと見ながら、さすが公爵家、お茶会といえど集まる層が違うと思った。
ユリアは終始、公爵夫人や招待客らの質問に、謙遜しながら相手を褒めるように返した。今日は良い印象を与えて行動しやすくしなければならなかったからだ。
ユリアはある程度話をするとお花を摘みに行くと言って席を離れた。
ユリアはエレノアから、フレイムに話をする代わりに公爵家の間取り図を聞き出して書き留めていた。
どうして間取りが必要なのか聞かれたが、それを聞くならフレイムに話はしないと突っぱねた。また間取りを聞いたことも誰にも言わないようにと約束させた。
その間取り図をユリアの護衛騎士たちに把握させておいた。隠し部屋の存在も聞き出していた。エレノアはその部屋を見たことはないがだいたいの場所は知っていた。
ユリアはその場所をしっかり頭に叩き込んでお茶会に臨んでいた。
ユリアはお手洗いに行くふりをして邸宅の中に入った。
ユリアの護衛三人も少し離れてついて行った。
隠し部屋は西の端の突き当たりの部屋の本棚の裏だとエレノアから聞いていた。
ユリアが廊下を西に向かって歩いていると、侍女がワゴンに食事らしきものを乗せて前を歩いていた。
ユリアはこっそりとその侍女をつけた。
侍女は西の突き当たりの部屋の前まで行くと扉を開けて入って行ったが、すぐに何も持たずに出てきた。
ユリアは迷った振りをして侍女に近づいた。
「お手洗いはどこかしら?」
侍女は少し慌てていたが、案内しますと言ってお手洗いの場所までユリアを連れて行った。
「ありがとう。もう一人で大丈夫ですわ」
ユリアが言うと侍女は会釈をして去って行った。
侍女が見えなくなるとユリアは西の端の突き当たりの部屋に戻った。
ユリアは護衛を呼んでそっと扉を開けて中を覗いた。
あまり大きな部屋ではないが、北面の壁いっぱいに本棚があった。
侍女が置いていったはずのワゴンが見当たらなかった。
エレノアが言った通り、本棚の向こうに隠し部屋があるに違いないとユリアは確信した。
ユリアは護衛二人を西の端の突き当たりの部屋に置いて、いったん庭園に戻った。
庭園に戻る途中、庭師に扮した騎士に西の端の突き当たりの部屋を警戒するように告げた。
庭師に扮した騎士は頷いて、潜入している騎士と屋敷の外にいる騎士にも連絡した。
ユリアは席に着くと、ここからが勝負どころと気合を入れた。
「公爵夫人、このようなことお聞きするのは不躾かもしれませんが、皇后陛下を陥れてしまったわたくしのことあまりよく思われていないのでは?」
ユリアが聞くと公爵夫人も周りの婦人もびっくりしたような顔をした。
「……そうね。本来ならそうかもしれないわ。でもここだけの話、エレノアのことを思うと良かったと思っているの」
公爵夫人が小声で言うと他の婦人も頷いた。
「あの方は底知れぬ恐ろしいお方。自分の敵とみなした者には容赦がなかったわ」
男爵夫人が言った。
「第五皇子殿下やユリア様も命を狙われたのよね。何か気に入らないことでもあったの?」
伯爵夫人が聞いてきた。
「いえ、何も。ただ皇后陛下のご実家の令嬢を殿下に嫁がせようとしていたのに、わたくしが婚約したので気に入らなかったようです」
「まあ、それだけで⁈……ヴィオラが殿下に相手にされなくて良かったわ……」
伯爵夫人は青ざめて言った。
ヴィオラとはフレイムに執着している伯爵夫人の娘のことねとユリアは思った。
「エレノアは皇后陛下に頭が上がらず、怯えている節もあったの。元々我が公爵家と皇后陛下のご実家の公爵家とは仲が良いとはいえない関係でね」
リンドバード公爵夫人はため息を漏らした。
「公爵夫人、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ユリアは真剣な眼差しを向けて言った。
「何かしら?」
公爵夫人はユリアの真剣な眼差しに少し躊躇をしたが、平然を装って答えた。
「皇后陛下から厄介な荷物を背負わされていませんか?」
ユリアが言うと公爵夫人はギョッとした。
「……何のことかしら?」
公爵夫人は少し震える声で言った。
「わたくしお役に立てると思います。今ならまだ間に合います」
ユリアは真っ直ぐに公爵夫人を見て言った。
公爵夫人は少し考えて、ユリアを邸宅の応接室に連れて行った。




