29.皇太子妃からお願いされました
ユリアとオスカーは向かい合って座り、ロザリーはユリアの後ろに立った。
「それでお話とは?」
オスカーは困惑しながら聞いた。これまでのユリアの行動を考えると突拍子もないことを言い出すのではないかと気が気ではなかった。
「わたくしリンドバード公爵家のお茶会に誘われていまして、お受けするつもりで返事の手紙を出しましたの。でもわたくしは他国の人間でしょう?公爵家で何が起こるかわからないので護衛をお願いしたくて」
オスカーはそんなことかとホッとした。
「ええ、かまわないでしょう。フレイム様の騎士で残っている者に声をかけましょう」
「ありがとうございます。それでですね、二十名ほどお願いできますか?」
ユリアはしれっと言ってにっこり笑った。
「えっ、二十名⁈」
オスカーは目を見開いて驚いた。
「何故それほど必要なのか聞いてもよろしいでしょうか?」
「わたくしの側で二人、公爵家の屋敷外周りに十名、邸内に八名で二十名ですわ」
ユリアはまたにっこり笑った。
オスカーは一瞬言葉が出なかった。ユリアが考えていることがさっぱりわからなかった。
「……王女様、それは無理かと。リンドバード公爵が許すはずありません」
「そうよね、騎士だと無理よね。でも、ほら、屋敷の外周りは通行人のふりして、中は庭師だとか、使用人に化けていたら大丈夫じゃないかしら?」
オスカーはまた言葉が出なかった。ますますユリアの考えていることがわからない。
「……王女様、はっきりと聞きます。何を企んでいらっしゃるのですか?」
オスカーは上目遣いでユリアを見て言った。
「あら、わたくしの護衛と言ったでしょう。もしものことを考えているだけですわ。もしかして大捕物があったらいけないし…もしもの話よ。あくまでもわたくしの護衛よ」
オスカーは公爵家に何かあるとユリアは考えているのだと思った。大捕物ということは犯罪者か危険な人物が公爵邸にいる可能性があるということだろうが、何もなかった場合に備えてあくまで護衛で通したいのだとオスカーは思った。
オスカーはしばらく考えてから返事をした。
「屋敷内に八名は多すぎてバレてしまいます。庭師三名、使用人二名まででしょう。王女様に護衛で三名、残りは屋敷の外周りでどうですか?」
「それでいいわ。さすがフレイム様の第一補佐官ね。話が早いわ」
ユリアは立ち上がってオスカーに頭を下げた。
「王女様、わたしなどに頭は下げないでください。それより王女様が誰を狙っているのかだけ教えてください」
ユリアは少し黙ったままオスカーを見て、息を大きく吐いた。
「フレイム様と同じよ」
オスカーは驚いた。まさかリンドバード公爵邸にトワイト国王がいるわけがないと思った。
ユリアの後ろでロザリーも驚いて言った。
「まさか皇太子の剣からその発想が生まれたのですか?」
ユリアはロザリーを見て微笑んだ。
「皇太子の剣って皇太子妃が贈ったという剣ですか?」
オスカーが聞いた。
ユリアは黙って頷いた。
確か皇太子妃が皇太子に贈った剣はトワイト王国でしか採れない鋼材で作られたと聞いている。リンドバード公爵がトワイト王国と密輸をしていたとしたら?しかしそれだけでお尋ね者の王を匿うなど反逆ともなりかねない行動をリンドバード公爵がするだろうかとオスカーは考えた。
「わたくしは今からエレノア様に会おうと思っているの。少しでも確信を得るためと公爵邸に隠し部屋がないか探るためにね。急な話で申し訳ないのですが、エレノア様にペリゴール卿から連絡とっていただけないかしら」
オスカーは少し考えてから言った。
「……承知致しました。ただしわたしも同席させてください」
「ダメよ。今度のことはわたくし一人の判断のもとに行うの。事情を知る人間を作るわけにはいかないの」
ユリアは鋭い目をしてオスカーを見つめた。
オスカーは顔を片手で覆い大きくため息をついた。
「……わかりました……では今からお伺いを立ててきますのでしばらくこちらでお待ちください」
オスカーが談話室から出ようとしてユリアが止めた。
「ペリゴール卿、もしエレノア様が会わないと答えたらこう言ってください。わたくしがトワイト王国で戦った後、王国の取引先の名簿を見たと」
オスカーは一瞬固まった。
「……本当に見たのですか?」
ユリアはにっこり笑った。
「そんな物があったらフレイム様が公爵家をとっくに潰してると思わなくて?」
オスカーはユリアの聡明さに恐ろしさも感じた。
ユリアはエレノアに会えることになった。
オスカーはユリアの言った切り札を出さずに済んだ。なぜならエレノア自身がユリアと話をしたがっていたからだ。
ユリアは一人でエレノアの部屋を訪れた。
エレノアは待ちかねていたようにユリアを部屋に招き入れた。
「ユリア様とお話をしたかったのよ。本当にいいタイミングでしたわ」
エレノアは何か焦っているようだった。
「こちらこそ急な訪問に応えていただきありがとうございます」
ユリアは丁寧にお辞儀をした。
エレノアはユリアにソファーに座るように勧め、侍女がお茶を淹れると全員に下がるように伝えた。
「ユリア様、今日はどういった用件でわたくしに?」
エレノアはお茶をユリアに勧めながら聞いた。
「いえ、わたくしのことより先にエレノア様から。何かわたくしに話があるのですよね?」
ユリアが言うとエレノアは下唇を噛んで視線を落とした。
「……皇后陛下があのようなことになって……皇帝陛下は皇太子殿下を見下した言い方をするようになって……殿下が自暴自棄になってしまわれたのです……わたくし見ていられなくて……」
エレノアは涙を目に浮かべながら話した。
ユリアはエレノアには同情はするけれども、次期国王になるような方がそんなことでと心が折れていたんでは国を背負うことなど到底無理だと思った。
「それで、ユリア様から第五皇子殿下に皇太子殿下の側近になってもらえないかお願いしてもらいたくて、皇帝陛下は第五皇子殿下のことを一番信頼しているようだし、頼りにしているようなので、第五皇子殿下が皇太子殿下側についてくれれば、皇帝陛下も見直してくれるのではないかと思って……」
(はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ⁈)
ユリアは心の中で思いっきり叫んだ。何を言っているのかしらこいつと腹が立った。
フレイムが皇帝の信頼を勝ち取ったのは本人がそれだけ苦労して努力して頑張ったからだ。それを努力もせずにフレイムの威を借りて自分が上に立とうなんて言語道断、いい加減にしろと罵って部屋を出たい衝動にユリアはかられた。
しかし、これを盾にリンドバード公爵家に探りを入れやすくなるかもしれないと思い、ユリアはグッと堪えた。




