28.貴族からの招待状が届きました
フレイムがトワイト王国に向かってから一ヶ月の謹慎も終わり、十日が過ぎた。
フレイムからは度々手紙が届いた。トワイト王は行方知れずのままだ。
ユリアは考えた。
王として君臨してきたものがたった一人で逃げているはずがない。だが、王の家族も側近も城から出ていないという。
他の誰か、他国にいる血縁者か、知人が匿っている可能性が高い。そうでなければ手配書も各方面配られているのだからもう捕まってもおかしくない。
しかし血縁者や知人ならとっくに調べ尽くしているだろうから、匿ったとしてもフレイムが強制的に屋敷内を探しているに違いない。
となるとどこかの国の王族か貴族が金で匿っている可能性もあるとユリアは思った。
ロザリーがたくさんの手紙を持って来た。
「ユリア王女様。正式な婚約者になったから、謹慎が明けてからかこんなにたくさんのお茶会の招待状がきています。どうされますか?」
「まあ、どうせ敗戦国の王女に恥をかかせてやろうと企んでいるのよね。全部はいけないわね。ロザリーなら招待状をくれた家のこと詳しくわかるかしら?」
ユリアは全部で八通ある招待状を机に並べて言った。
「そうですね…この男爵家子爵家は四通はボツですね。仮にも皇子妃になられるお方に、面識もないのにこんな格下の家柄が招待するなんて馬鹿にしている証拠です」
「あら、それは面白そうじゃない?間違いなくわたくしを見下してくるわよね」
ユリアは久々にワクワクしたがよく考えた。
「あー、でもこっちが格上だと示しただけで引いてしまいそうな家柄ね。すぐにバトルが終わったのでは面白くないわ。やっぱり却下」
ロザリーは次の一通を取って言った。
「こちらの侯爵家ですが、第四皇子殿下の婚約者のイザベラ様の実家です。皇族のお茶会のときの仕返しでも企んでるのではないでしょうか?」
「イザベラ様ね。あの方とのバトルはたいしたことなさそうね。それも却下」
ロザリーは残りの三通をよく確認した。
「残りはリンドバード公爵家とカルロニス公爵家、サンバレル伯爵家ですね。リンドバード公爵家は皇太子妃エレノア様のご実家です。カルロニス公爵家は第二皇子妃フローラ様のご実家ですね。この二つの公爵家は仲が悪いです。お互い牽制しあってます。サンバレル伯爵家は……お薦めしません。ここの令嬢が第五皇子殿下にご執心で妄想癖もあるのか、まるで婚約者のように振る舞っていましたから」
ユリアはダイアナがフレイムの花嫁候補として皇后に薦められていた公爵家の令嬢のことを思い出した。
「皇后陛下のご実家の公爵家は?」
「カルロニス公爵家です。皇后陛下のこともあってユリア王女様を取り入れようとしているかも知れませんね」
ロザリー憤慨した言い方をした。
「そこにまだ未婚のご令嬢はいらっしゃるの?」
「フローラ様の妹君がいます。お名前は確かアリエル様だったと、まだ社交界デビューしていません」
ユリアは皇后はかなりの策士だと思った。自分の実家と仲の悪い家門の令嬢を自分の息子に次期皇后の座をちらつかせて嫁がせ味方にし、第二皇子に自分の実家の令嬢を嫁がせて第二皇子派を味方に引き入れたのだろう。そして誰よりも強いフレイムもと考えたが失敗した。
それだけの策士、皇后は他にも色々と考えていたのではないだろうかとユリアは思った。
このドラシア帝国の一番脅威だったともいえるトワイト王国を皇后は放っておいただろうか。
もし皇后がトワイト王国と何らかの取引きをしていたとしたら?まさか帝国にいるだなんて誰も思わないだろうからトワイト王国の王が頼って来てどちらかの公爵家が匿っている可能性があるとユリアは考えた。
「……それは飛躍しすぎよね……」
ユリアはその考えを打ち消した。
「何が飛躍しすぎなのですか?」
ロザリーが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「あら、わたくしったら声に出していたのね……ロザリーは社交界のことはよく知ってるけど、トワイト王国と懇意にしていた貴族がいたなんてことないわよね?」
ユリアが聞くとロザリーは少し俯いて考えた。
「……これは単なる噂かも知れませんが、皇太子が皇太子妃からプレゼントされたとても大事にしている剣があるそうで、その剣はトワイト王国でしか採れない鋼材を使っていると聞いたことがあります」
ユリアは打ち消した考えを再び浮上させた。
「ロザリー、あなたって本当に優秀なわたくしの側近ね。お茶会の招待リンドバード公爵家に決めたわ」
ユリアは招待状の返事を書いてロザリーに渡した。
「さて、敵陣に乗り込むための準備は万端にしておかないといけないわ」
ユリアは侍従長に馬車を用意してもらい、ロザリーと皇宮に向かった。
「ユリア王女様、急に皇宮に出向くなんてどうなさったのですか?」
馬車の中でロザリーがユリアに聞いた。
「皇太子妃エレノア様に会いに」
ユリアはそう言うとほくそ笑んで窓の外を見た。
ロザリーはその笑顔に生唾を飲み込んだ。また何かしようと企んでいるのだと思ったが、それ以上聞くと心臓がもたないかも知れないと思い聞くのをやめた。
皇宮に着くとユリアはまずフレイムの執務室を訪ねた。フレイムの補佐官オスカー・ペリゴール男爵に会うためだ。
ユリアは皇宮の入り口にいた衛兵に名を名乗り、フレイムの執務室への案内を頼んだ。
衛兵は別の衛兵に声をかけてユリアたちの案内をするように伝えた。
ユリアとロザリーは衛兵に案内されてフレイムの執務室の前まで来た。
衛兵が執務室のドアをノックし、中から返事があったのでドアを開けた。
ユリアは衛兵に笑顔を向けて軽く頷いた。
衛兵は一礼をして戻って行った。
「ペリゴール卿、お久しぶりですね」
ユリアは中に入ってオスカーに声をかけた。
「ユリア王女様!このようなところにどのようなご用件で?」
オスカーはソファーに座るようにユリアを誘導しながら聞いた。
「とても大事な話があって……お人払いできるかしら?」
ユリアは他の補佐官たちをチラリと見て言った。
「仕事が滞ってはいけないので隣の談話室でもよろしいでしょうか?」
ユリアが頷くとオスカーはユリアを談話室に案内した。
ユリアはロザリーにも付いてくるように言った。ロザリーは聞いていい話なのか戸惑ったが、ユリアとオスカー二人っきりにするわけにはいかないのでついて行った。




