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27.謹慎中です

 教会での幽霊騒動から一週間が経った。


 皇后は北の塔に永遠に監禁、皇后の側近たちは職を解かれ国外追放、実行犯であるヘイトはフレイムの助言により鉱山での強制労働、家門には一切のお咎めなしということになった

 思ったほど皇帝はフレイムに対して憤慨していなかった。むしろ皇后やその一派が我が物顔で振る舞うその目に余る行動に対策を取ろうとしていた矢先、皇后を失脚させたことで皇帝は喜んでいた。

 フレイムとユリアは皇帝から騒動の翌日に呼び出され褒められたが、貴賓たちの手前一ヶ月の謹慎という処罰を言い渡された。

 そして結婚式は謹慎が明けてから改めて行われることになった。


 この一週間、ユリアは疲弊していた。謹慎の身ゆえ邸宅から出ることも許されず、一日中フレイムがまとわりついてくるからだ。

 フレイムは一日のうち数時間だけ邸宅の執務室でどうしてもフレイムがなさなければならない仕事だけこなしていたが、それ以外はユリアにべったりだった。


「ああ……もう無理……」


 ユリアは自室のベッドに寝転がって言った。


「どうかなさいましたか?」


 ロザリーが心配そうにユリアの顔を覗いて言った。


「フレイム様よ……庭園を歩いていたら若い庭師が低い柘植の木を兎や猪なんかの形に見事に剪定していたので、褒めてたのよ。それをフレイム様が執務室の窓から見ていたらしくて、ものすごい勢いでやってきて抱きかかえられて執務室に連れて行かれたの。それでこれからはずっと側にいるように言われたわ」


 ユリアは大きくため息をついた。ロザリーは目をキラキラと輝かせて言った。


「まあ、溺愛されていますね、ユリア王女様。あのフレイム様が嫉妬だなんて…お顔を拝見してみたかったです!」


 ユリアはロザリーを横目で見てまた、ため息をついた。


「わたくしは溺愛されたくないの。何でも程々がいいのよ。つかず離れずの距離で生活できれば…一ヶ月もこの調子じゃ病んじゃうわ」


「ユリア王女様はまだ本当の恋をしたことがないのですね」


 ロザリーが腰に手を当てて得意げな顔で言った。

 ユリアは困惑したような顔をした。


「本当の恋…?」


「そうです!恋をするといつもいつもその人のことが頭から離れず、会いたいと思うのです。会えないと胸がギュッと苦しくて、会えば胸がドキドキして。そのうち触れてみたい、抱かれたいとなって身体が熱ったり、身体の奥がうずいたりするんです」


 ロザリーは目を閉じながらうっとりと話した。


「何よ……ロザリーは経験したことがあるの?」


 ロザリーは舌をを出して恥ずかしそうに言った。


「…ありません。全部恋愛小説の受け売りです。へへ…」


「なんだ……所詮空想の中のお話ですわね。実際にはそんなこと起きないと思いますわ」


 ユリアが呆れ気味に言うとロザリーは食い気味に言った。


「そんなことありませんよ、王女様!恋愛小説の作者だって体験なしには書けませんもの」


「そうかしら?」


 ユリアが言うとロザリーは少し膨れっ面で言った。


「ではユリア様、賭けをしませんか?ユリア王女様がこの一年でそのような気持ちになったら私の勝ち。ならなけらば王女様の勝ち、どうです?」


「いいわよ。勝つ自信があるわ。で、何を賭けるの?」


 ユリアは自信満々で言った。

 ロザリーは少し考えて答えた。


「一年もあるからそのときお互い何でも言うことを聞くではどうですか?」


「いいわ。一年後が楽しみね」


 ユリアはフフンと笑った。


「ユリア王女様のお気持ちですから嘘はつかないでくださいね。王女様はそういうところ上手ですから」


 ロザリーも負けずに鼻を鳴らしながら言った。


 それからというものユリアがフレイムを避けようとしているにもかかわらず、入浴の時間が被ったり、執務室にいると補佐官が呼び出されて二人っきりになったり、一日に何度も二人だけのお茶の時間を設けたりと、ロザリーはあの手この手で親密度を高めようと策略した。


「ロザリー逆効果よ。わたくしはかなりウンザリしているのだけれど?」


 ロザリーがユリアの部屋に内側から鍵をかけ、入浴から戻ってきたユリアをフレイムの部屋側から入室させようとしたので、ユリアはドアを蹴ってロザリーに抗議した。

 ロザリーが恐る恐るドアを開けて、俯き加減でユリアの顔を見た。


「申し訳ありません。度がすぎました…」


 ロザリーは怒った顔をして腕組みしているユリアに謝った。


「わかればいいのよ。人の気持ちは周りがどうこうして変わるものではないでしょう?」


 ユリアが強めに言うとロザリーはしゅんとした。

 それからはロザリーが何かと対策を講じることはなかった。


 結婚式の準備でも色々と忙しかった。幽霊騒動のこともあったので身内だけで簡単に済ませることにはなったが、ダイアナが張り切っていた。

 ユリアは教会で式をあげた後、フレイムの邸宅で近しい人たちでささやかな披露宴を考えていたのだが、ダイアナに猛反対された。


「フレイムはこの国のれっきとした皇子です。式の後は市街を馬車でパレードしなければなりません!披露宴も皇宮の大広間で皇族貴族を招待します!」


 と言って譲らなかった。

 フレイムはユリアの意向通りで良かった。フレイムとしてはとにかく早く婚姻を結びたかった。


「母上の言う通りにしていては結婚式がだいぶん先になってしまいます。わたしとしては簡易でもいいから早く婚姻を済ませたい。もう我慢の限界がきています」


 フレイムは強くはっきりと言い切った。

 周りで聞いていた者は皆驚いたり照れたりした。

 ユリアは俯き、ダイアナは不思議そうな顔をした。


「え、あなたたちもう深い関係でしょう?一緒に寝ているわよね?」


 ダイアナはユリアの方を見て言った。ユリアは俯いたまま首を横に振った。

 ダイアナはフレイムを見た。フレイムは赤らめた顔を手で覆っていた。


 そこに皇宮からの使いがやってきた。フレイムにすぐに皇宮に来るようにと皇帝からの命令だった。

 フレイムがすぐに皇帝に会いにいくと皇帝はイライラして待っていた。


「トワイト王国の王が財産を全て持って逃げたと残っていた騎士から報告が入った。どうやら影武者を仕立てて自分は城に出入りしている業者の荷馬車で逃げたらしい。騎士が後を追ったがすでに丸一日経っていて行方知れずだそうだ。フレイムすぐに向かってくれ」


「承知いたしました」


 フレイムはそう答えながらまた婚姻が伸びてしまうことに腹を立てた。婚姻が伸びることになったらトワイト王め、絶対に許すまいと思った。


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