25.首尾は上々です
建国記念祭二日目。
イーサンは予定通りフレイムの邸宅に戻った。
邸宅の使用人たちはイーサンを見て大喜びしたが、イーサンの話を聞いて皆ショックで動けなくなった。大泣きをするも者もいた。
「明日の結婚式を葬儀に変更して欲しい」
イーサンが侍従長に言うと、侍従長は涙を拭きながら頷いた。イーサンは本当にこれでいいのかとみんなが泣いているのを見ながら思い、心の中で謝った。
イーサンが帰って来たという知らせを聞いてダイアナがすぐにやって来た。
結婚式が葬儀に変わることを聞いてダイアナは泣きながら激怒した。
「まだわからないじゃないの!!遺体もないのに葬儀なんてやめてちょうだい!」
おそらくダイアナは遺体もないのに葬儀をすることを反対するだろうと、イーサンはユリアから言われた。そのときの対策も聞かされていた。
「皇妃様、生きているかもしれないからこそ葬儀をするのです。おふたりを狙った犯人は生きているとわかったらまた命を狙うため、おふたりを探すでしょう。大怪我を負っていたら殿下もユリア様も戦えません。それこそ本当に殺されてしまうかもしれません。葬儀をして確実に亡くなったと思わせておくべきです」
イーサンはダイアナに跪いてお願いをした。
「……そうね、あなたの言う通りね……ふたりはきっと生きているわ。そのために犯人を騙して安心させなければね」
ダイアナは皇后の顔を思い浮かべながら言った。
ユリア様あなたはなんて賢くて罪深い人なんだとイーサンは思いながらダイアナにも心の中で頭を深く下げた。
教会では空の棺が二つ用意され、ひとつの棺の中には結婚式で着ることになっていたフレイムのタキシードを、もうひとつの棺の中にはユリアが着ることになっていたダイアナのウエディングドレスを入れた。
侍従長をはじめ使用人全員泣きながら葬儀の準備をした。
その様子を見ていた皇后の側近がすぐに報告に向かった。
「使用人が泣きながら葬儀の準備をしていたと?」
側近の報告を受けて皇后がニヤリと笑った。
「はい、結婚式に着る予定だった衣装を棺の中に入れておりました。何でもたった一人だけ生き残った騎士が帰って来て、第五皇子とユーフィラシア王国の王女は刺されてそのまま崖下に落ちたと言っていたそうです」
「そうか。これで間違いなくフレイムはいなくなったのだな」
皇后はほくそ笑んで言った。
深夜、イーサンは教会にこっそりと忍び込んでいた。
「何でわたしがこんなことまでしないといけないんだ……」
イーサンはぶつぶつ言いながらフレイムの棺の蓋を開けてタキシードを取り出した革袋に入れた。蓋を閉めると次にユリアの棺の蓋を開けてウエディングドレスを取り出そうとしたとき、フラフラと教会の中に入って来る者が見えた。
イーサンは慌ててユリアの棺の中に身を隠し、ウエディングドレスで覆った。
「うっ…うっ…ユリア王女様……うっ…う…どうして…どうして………うわぁ〜ん!」
泣きながらユリアの棺に近づいて来た者は棺の蓋が開いていることに気づいた。
「……どうして棺の蓋が……?」
イーサンは焦った。とにかくこのまま眠ったふりをしようと目を閉じた。
「…え…?…誰⁈」
教会に入って来たのはロザリーだった。ロザリーは腰を抜かしそうになったが、勇気を出して顔を覆っているドレスをそっとよけた。
「!……どうしてアデライト卿がユリア王女様の棺に……?」
イーサンは寝たふりを続けた。
ロザリーはハッとした。
「もしかしてアデライト卿はユリア王女様のことを……?こんな棺に入ってまでユリア王女様のことを慕っていらしたなんて……」
イーサンは誤解だと叫びたかったが、棺の中に隠れた理由を言うわけにはいかないので仕方なくそのまま眠ったふりを続けた。
「アデライト卿のお気持ち察しますわ……わたしもユリア王女様が……うっ、うっ、うわあ〜ん……」
ロザリーはユリアの棺の前で跪いてしばらく泣いた後、
「アデライト卿、誰にも言いませんので思う存分ユリア王女の棺で寝てくださいませ」
そう言って教会を出て行った。
イーサンはそっと起き上がり誰もいないことを確認してから急いで教会を出て、首都郊外のフレイム一行が世話になっている騎士の家まで馬を走らせた。
イーサンが騎士の家について馬を降りるとすぐに声をかけてきた者がいた。
「イーサン、ご苦労だったな。それで、首尾は上々か?」
フレイムはイーサンが戻って来るのを家の外で待っていた。
「フレイム様、外でお待ちとは申し訳ありません。明日の教会での結婚式は葬儀に変更しました」
「そうか、結婚式と同じ時刻だな?それなら今から移動して準備に取り掛からなければな」
「大勢で移動すると目立ちます」
「今夜移動するのはわたしとユリアだけだ。あとのものは市民に化けて朝来ればいい」
「承知しました。これは頼まれていたタキシードとウエディングドレスです」
イーサンはそう言って革袋をフレイムに渡した。
「助かる。もう準備されていたのか?」
「はい。棺の中に入れていました」
「棺まで用意されているのか?………面白い、ユリアとわたしは棺の中に隠れていよう」
フレイムは早々に出発するためにユリアを起こしに家の中に入った。
フレイムはユリアが寝ている部屋へ行き、そっとユリアの寝顔を眺めてからそっと額に口付けた。それから耳元で囁いた。
「ユリア、出発するぞ。起きないと襲うぞ」
ユリアはハッとして飛び起きた。フレイムは笑いを堪えていた。
「もう、フレイム様!着替えますので出て行ってください!」
ユリアは膨れっ面をして言った。
着替えが終わったユリアはイーサンから皇城の様子を聞いた後、フレイムと馬に乗って教会へ向かった。
イーサンは皇城のフレイムの邸宅に向かった。




