24.行方不明になっていることになっています
ヘイトは一人皇城に戻り、皇后と密かに謁見した。
皇后が謁見室に入ってくると人払いをして椅子に座った。
ヘイトは皇后の前で跪き挨拶をした。
「首尾はどうなの?」
皇后は淡々と言った。
「はい、完了いたしました」
ヘイトは頭を下げたまま答えた。
「何と!そなた一人で?」
皇后は本当はヘイトに期待していなかった。フレイムがそう易々と殺されるわけないと思っていたからだ。もし失敗してもヘイトに罪をなすりつければ済むと考えていた。平民上がりの男爵家など潰れても痛くも痒くもないと思っていた。
「はい。お忍びで海辺の街に旅行に行かれたので後を追って行き、傭兵を雇って襲わせました。崖まで追い込み切りつけてそのまま崖から海に落ちて行きました」
「本当?…まあ嘘でも真でも良いわ。建国記念祭がくればわかること。二人が現れなかったら信じて褒美をあげましょう。それまではわたくしの側から離れないように。嘘だったらすぐその場で処分します」
皇后は高笑いしながら謁見室を出て行った。
ヘイトは皇后が出て行くまで跪いた格好で俯いていた。皇后が出て行くと深く息を吸い大きく息を吐いた。
建国記念祭の前日、朝からフレイムの邸宅では大騒ぎになっていた。
昨日の夕方に帰ってくるはずのユリアたちが、護衛騎士共々帰って来なかったからだ。
侍従長の連絡でダイアナも駆けつけた。
「もしやあの子たちに何かあったのでは……?」
ダイアナは不安になった。
「今朝早く、殿下方の滞在先に騎士を向かわせました。夕方には戻ってくるでしょう。それまでは待つしかありません」
侍従長が震える声で言った。
「ええ……そうね……」
ダイアナは震える手を握りしめた。
早馬で滞在先に駆けたのはカウルだった。
「イーサンがいながらいったい何をしているんだ」
カウルは休むことなく馬を走らせた。
滞在先のコテージに着いたカウルはコテージの中に急いで入ったが誰もいなかった。
荒らされた様子もなく、荷物もなくガランとしていた。
「殿下、どこに……」
来る途中でフレイムの一行には会わなかったし、かなりの遠回りをしない限り他に道はない。帰る途中で事故に遭ったか、誘拐されたか。
カウルは街の人に聞き込みをした。
街の人の話では四日前ぐらいから置いてあった馬車も馬も見ていないということだった。
カウルが帰りかけたとき老人が話しかけてきた。
「あれは満月の夜だったから五日前じゃ。浜辺を散歩しとったらコテージ近くの浜辺で黒装束の男たちが大勢きてな、何やら揉めとった。剣で戦いが始まったからわしは急いで帰ったんじゃ」
カウルの心臓が早打ちを始めた。
「まさか、殿下が盗賊に……」
だからコテージの中は空っぽなのかとカウルは思った。
カウルは急いで皇城に向かって馬を走らせた。
フレイムたち一行は襲われた翌日の明け方前に海辺の街を出発した。誰にも知られないように街を通らずかなりの遠回りだが山道を通って首都郊外まで帰った。
郊外に今回護衛でついて行った騎士の家があった。幸い夫婦だけで暮らしていたのでサプライズイベントまでその家で世話になることになったのだ。
ユリアとフレイムだけが屋敷に寝泊まりし、騎士たちは庭でテント生活した。
「殿下、このようなむさ苦しいところで申し訳ありません」
騎士の夫人が申し訳なさそうに謝った。
「いや、こちらこそ迷惑をかける。申し訳ない」
フレイムが言うとユリアも謝った。
「夫人、突然押しかけて本当に申し訳ありません。今はお話できませんが、事がうまくいったら必ず詳細とお礼をさせていただきますので、我慢してくださると助かります」
「そんな、我慢だなんて。こんなところに殿下とその婚約者の方が泊まってくれたなんて、自慢になります。狭いですが寛いでください」
夫人は微笑みながら言った。
陽が沈みかけたころ、カウルは皇城のフレイムの邸宅に戻った。
カウルが戻ったという知らせを聞いてダイアナは急いで玄関に出た。
カウルの表情が暗いことに気づいたダイアナは倒れかけ、侍従長に支えられた。
「申し訳ありません。コテージはもぬけの空で殿下たちは見つかりませんでした」
カウルはここで老人の話をするのはみんなを不安にさせるのでやめようと思った。
「皇帝陛下に謁見してきます」
カウルはそう言うとまた馬に乗り皇宮目指して走った。
カウルは緊急の知らせがあると言って皇帝の謁見を申請した。
皇帝の補佐官が出てきて何事か聞いてきた。
「フレイム第五皇子殿下が婚約者並びに護衛騎士と共に行方不明になっております」
補佐官は驚いたが少し待つように言って出て行った。
しばらくして補佐官が帰ってきた。
「皇帝陛下からのお言葉です。明日から建国記念祭で各国の貴賓が大勢いる中、騒ぎを起こすわけにはいかない。そちらで対応するようにとのことです」
「……わかりました」
カウルは了承したが内心はかなり激怒していた。息子が行方不明と聞いて何の対応もしないなんてそれでも親かとはらわた煮えくり返った。
その様子を見ていた皇后の側近が皇后に報告した。
「そう、どうやらモーガンの息子が言ったことは間違いないようね」
皇后は薄ら笑いを浮かべた。
「まだ行方不明ということなので油断はできません。どこかに隠れているかもしれませんので」
側近が言うと皇后は怪訝そうな顔をした。
「そうだった。あの狡猾なフレイムのことだから身を隠している可能性も捨ててはならないわ。生きているなら結婚式に出ないわけはないだろうからその時にはっきりするはず」
皇后はフレイムが生きていたら次の策を練らなければと思った。




