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23.サプライズイベントを計画しました

 フレイムは男の顔をじっと見て言った。


「皇后の専属の近衛兵だな。皇后に命令されたのか?」


 男は目を閉じ口を一文字に結んで黙っていた。

 ユリアは男の前に立った。


「皇后専属の近衛兵だとどこかの貴族のご令息ですわね。皇子殺害の首謀者が家門から出たとなるとお家は間違いなく潰されてしまいますわ」


 ユリアが言うと男は青ざめて肩を震わした。


「……家門は関係ない、誰も知らない……わたし一人が犯したことだ……」


 ユリアは男が家族を大事にしていることがわかったので、そこから攻めることにした。


「きっとあなたに命令を下した人はトカゲのしっぽ切りをするでしょうね。全てを捕まったあなたになすりつけて簡単に家門一つを消滅させてしまいますわ。皇族殺害ですもの、罪のないご家族まで処刑されてしまいますわね」


 ユリアはわざと悲しそうに言った。

 男は声を殺して泣き始めた。

 ユリアはフレイムを見た。フレイムは頷いた。


「家門を助けたければお前がこちらに寝返ることだ。そうすれば家門はお咎めなしにしてやろう」


「……本当ですか…?本当に家門はお咎めなしにしてくださいますか?」


 男は懇願するように言った。


「ああ、約束する」


 フレイムが真剣な眼差しで言った。

 男は泣きながら頭を下げ、詳細を話した。


 男の名はヘイト・モーガン、モーガン男爵の次男だ。

 モーガン家はもともと平民だったが、先代の男爵が剣術の腕に長け傭兵として雇われていたが、先代の皇帝にその腕を見込まれ衛兵として戦争に出向き、功績を上げ男爵の称号を貰った。

 本来ならば一代限りの称号だが今の男爵も若かりし頃父親と共に活躍をしたのでそのまま受け継いだ。

 ヘイトはその伝手で近衛兵団に所属していて、皇后の護衛をしていた。

 腕はそこそこ立つが周りからは平民の成り上がりと言われて蔑まれていた。

 フレイムが遠征から戻った翌日、皇后に呼び出され、フレイムに謀反の疑いがあるので今のうちに目を摘みたいと言われた。

 騒ぎにしたくないので皇帝や周りの者には秘密裏に行動するようにと指示された。やり方は任せると言われたので、フレイムの行動をずっと監視していて今日がチャンスだと思い、昼間のうちに傭兵を雇い暗くなってから襲撃した。


「ほう、わたしに謀反の疑いがあると信じたのか?証拠でも見せられたか?」


 フレイムは淡々と言っていたが顔は怒りに満ちていた。


「も、申し訳ありません!皇后陛下の命に逆らえなかっただけです!殿下が謀反を企てているなど思っておりません!」


 ヘイトは頭を床につけて謝った。


「そもそも近衛兵は皇帝陛下に従うべき者だ。なぜ皇帝陛下に言わなかった?」


 フレイムはヘイトを睨みつけて言った。


「わたしの言うことなど信じてもらえないと思ったのです。皇帝陛下に話したことがバレると皇后陛下に何されるかわからないと恐ろしくて……」


 ヘイトは床に頭をつけたまま言った。

 フレイムは大きくため息をついた。


「さて、これからどうするか……」


「わたくしたち死んだことにしましょう。死んで海に流されたことにすれば遺体がなくてもおかしくはないでしょう?」


 ユリアはニコニコしながら言った。


「死んでどうするんだ?」


 フレイムは訝しげな顔で言った。


「逃避行でもしますか?」


 ユリアが言うとフレイムは少し頬を染めた。


「それもいいな。愛の逃避行か……」


 フレイムは腕を組んで頷きながら言った。


「冗談です!逃避行なんて致しません!サプライズをするんです。わたくしたちが亡くなったと聞けば結婚式がお葬式に変わるでしょう?そのお葬式の席にフレイム様とわたくしがタキシードとウエディングドレスを着て登場するんです」


 ユリアはワクワクしながら言った。


「それが何になるんだ」


 フレイムはまた訝しい顔つきになった。


「ただ登場するだけではありません。演出するんです。わたくしたちは思い残した結婚式をするためにあの世から戻ったことにするのです」


 ユリアは低い声で幽霊が話しているような言い方をした。


「つまりわたしたちが幽霊になるということか?」


「そうですわ。わたくしたちを始末したと思っている皇后陛下はさぞかし驚かれるでしょうね。きっと口走ってしまいますわよ、『許して!』って」


 ユリアはにっこり微笑んだ。


「なるほど、それは面白いな」


 フレイムが言うと騎士たちが首を横に振ってありえないという顔をした。

 ユリアの計画はこうだ。


 ヘイトは皇后陛下に始末したと報告に戻ってもらい、何食わぬ顔で皇后の護衛をする。葬儀のときは必ず皇后の近くでいること。

 二人が亡くなったと証言するために騎士が一人生き残っていたことにし、式の前日に怪我が癒えてやっと戻ることができ、二人が亡くなったことを証言する。

 教会での結婚式が葬儀に変わるはずだから、皇族や貴族が参列し終わったら照明を消してタキシードとウエディングドレス姿の二人が現れる。

 実行役だったヘイトは皇后の前で大袈裟に怯える。


「そうね……生き残り騎士はイーサンがいいわ。イーサンは表情がないからバレにくいでしょう。イーサンは結婚式前日に戻ってもらってわたくしたちは切られて海に流されたと証言して欲しいの」


 それからユリアはそれぞれの役回りを細かく指示した。

 教会の照明を消す係、効果音を流す係、亡くなった騎士の亡霊係、変装して葬式に参列し、大袈裟に亡霊に驚く係。

 騎士たちははじめは無理だろうと考えていたが、ユリアの話を聞いているうちにやれそうな気持ちになってワクワクしてきた。


「建国記念祭最終日のサプライズイベントだ!」


 みんな面白がって盛り上がり、リアルな演出になりそうだった。


 フレイムはヘイトの肩に手を乗せて言った。


「上手くできるか?お前が失敗したら全てが無駄になる。やめるなら今のうちだ」


 ヘイトは俯いて家族のことを考えた。そして決意したように頭を上げた。


「必ず皇后陛下を上手く騙して見せます。家門のことよろしくお願いします」


 ヘイトは深く頭を下げた。

 フレイムは頷いてヘイトの肩をトントンと叩いた。


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