20.二人きりの夜を過ごしました
ユリアは浴槽が泳げるほど広くて良かったと思った。
フレイムには十分後に入って来るように言ってある。ユリアはその間に急いで髪と身体を洗いタオルを身体に巻き付けて浴槽に入った。
久しぶりのお風呂は身体も心もリラックスさせた。
「ユリア、入るよ」
十分が経ったらしい。フレイムが声をかけた。ユリアは急いで浴槽の奥の端に寄った。
「どうぞ!」
フレイムが浴室に入って来た。フレイムにはユリアがどこにいるか湯気でわからなかった。
「ユリア、いるのか?」
「いますわ!」
ユリアの声が浴槽の奥から聞こえてきて、フレイムは安心した。
フレイムは全身を丁寧に洗い、浴槽に浸かった。
浴槽に入るとユリアの姿が見えた。フレイムは静かにユリアに近寄って行った。
「フレイム様、それ以上はダメです!」
フレイムの姿がハッキリと見えてユリアは慌てて言った。
フレイムは艶やかなユリアの肌に釘付けになった。ほんのり赤く染まった頬に湯気のせいか魅惑的に見える眼差し、フレイムは自分を抑える自信がなくなった。
「ゆっくり浸かるといい」
フレイムはそう言って浴室から出て行った。
「気を悪くされたのかしら?」
ユリアは申し訳ないと思いながらも一人で気兼ねなく堪能できることを喜んだ。
ユリアが浴室から出ると侍女がが着替えを手伝ってくれた。いつもより少し派手気味の夜着にガウンをかけてくれた。
ユリアが脱衣室を出るとロザリーがフレイムが待っているとフレイムの部屋に案内された。
フレイムの部屋に入るとフレイムはナイトローブを一枚羽織っただけの姿でソファに座って待っていた。
「ユリア、風呂は楽しめたかい?」
フレイムは微笑んで言った。
「はい、おかげさまで。フレイム様はわたくしのせいでゆっくりできませんでしたでしょう?申し訳ありません」
ユリアは頭を下げた。
「ユリアのせいじゃないよ……いや、ユリアのせいか……」
フレイムの言葉にユリアはバトル勃発かと構えた。
「ああ、いや…ユリアが可愛すぎて我慢できそうになかったからだ」
フレイムはユリアの緊張した顔を見て付け加えた。
ユリアは違う意味でまた緊張した。
「今日は戦の勝利と正式に婚約できたことを祝ってワインで乾杯しようと呼んだ」
フレイムはワインのコルクを開け、グラスに注いだ。
ユリアがフレイムの向かい側に座ると、フレイムが自分の隣に座るように言った。
ユリアは渋々フレイムの隣に座った。
「乾杯!」
二人はグラスを軽く当ててワインを飲んだ。
フレイムは一気に飲も干した。ユリアも風呂上がりで喉が渇いていたのでほぼ飲も干した。
フレイムは二つのグラスにまたワインを注いだ。
「あんなに広い浴槽わたくしのために作ったと侍女から聞きました。ありがとうございます。でもなぜあんなに広くしたのですか?」
ユリアは疑問に思っていたことを聞いた。
フレイムはユリアを見つめてから横を向き「秘密」と答えた。
ユリアは秘密なんて言われるとますます聞きたくなった。
酔えば話すだろうかと思い、ユリアはフレイムにワインをドンドン飲むように勧めた。代わりに自分も飲むのを余儀なくされた。
二人とも酔いが回って来た。
フレイムはポツポツと話し始めた。
「ユリアの国と戦っているときに、すごい騎士がいるなと思った……初めて見たときはそれが女性とは思わなかった…」
「ふーん、それで?」
ユリアはグラスにワインを注ぎながら聞いた。もう四本目のワインだ。
フレイムはワインを一気に飲んだ。ユリアも一口飲んだ。
フレイムはユリアが女性だと知ったときの衝撃を語った。
フレイムは国を落としにいくと割と簡単に降伏させることができていた。ところがユーフィラシア王国との戦いは国境から先に進むことができず、五分五分で長引いた。
国境付近は陽が沈むと暗くて、山の足場の悪いところでは危険で戦えないので両国とも一旦陣営にもどっていた。フレイムは国境から先に進めない焦りから、単独でこっそり敵陣営に偵察に乗り込んだ。
相手陣営の近くにあった湖まで来たとき、人影が見えた。月の光がちょうど照らし始めてフレイムは誰かわかった。あの小柄な無双騎士だ。湖で水浴びでもするつもりだろうか、腕の鎧を外し始めた。
フレイムはチャンスだと思った。彼さえいなければこちらに分がある。彼を捕えるか殺してしまおうと思った。
フレイムはそっと近寄った。無双騎士が兜を外した瞬間、フレイムに電撃が走った。
女じゃないか!それも相当な美しさだ。
ユリアは全てを脱ぎ、月明かりの中、湖で泳ぎ始めた。
「そのときの光景は今でも目に焼き付いている。女神か天使かと見間違えるほど月明かりに照らされてキラキラして幻想的だった」
フレイムは見つからないように急いで自分の陣地に戻った。
翌日、フレイムは参謀長官からこのままでは埒が明かないのでこちら側の山からユーフィラシア王国に流れている川に猛毒を大量に流す作戦を伝えられた。
フレイムは反対し、結局脅すだけになった。その効果はあり、ユーフィラシア王国は降伏した。
「湖で泳いでるユリアが衝撃的でもう一度見たいと思ったことが浴槽を広くした理由だ。まさか湯気が邪魔をするとは考えが及ばなかったが」
フレイムが言ったときにはユリアはもう目を閉じていた。
フレイムは微笑みながらため息をついた。
ユリアを抱え、自分のベッドに寝かせた。フレイムもそのままユリアの横で眠りについた。
翌朝、ロザリーがユリアの部屋に行くとベッドで寝た様子がなかった。日課のジョギングに行っている様子もなく、ロザリーはもしやとにやけながらこっそりフレイムの部屋に続くドアを開けて除いた。
ロザリーの予想通り二人はフレイムのベッドで爆睡していた。
ドアをそっと閉めてロザリーは急いで階下に降り、喜び勇んで使用人たちに報告をした。
使用人たちは両手をあげて喜んだ。
そこへダイアナが訪ねて来た。
「フレイムは部屋かしら?昨日帰って来たでしょう?」
ダイアナが二階に上がろうとするのを侍従たちが止めた。
「殿下はお疲れでまだ眠っていらっしゃいます」
侍従長が言うとダイアナは憤怒した。
「昨日は皇帝の謁見があったから会うの控えたのに今日も会えないの?息子が怪我をしたと聞いて心配している母親を蔑ろにするつもり⁈」
ダイアナは侍従たちを振り切ってフレイムの二階に上がり、フレイムの部屋のドアを開けた。
「フレイ…ム……」
ダイアナは一瞬固まったが、すぐに部屋のドアを閉めて後を追って来た侍従長に言った。
「二人が起きるまで応接室で待たせていただくわ」
その声はまるで二人を気遣うように小声だった。




