19.正式に婚約いたしました
夜が明けてテントの中が明るくなったのでユリアは外に出た。
テントの側で見張りをしていた衛兵が背筋を伸ばし、ユリアに敬礼した。
ユリアは衛兵に微笑んでお辞儀をした。
衛兵は少し照れたようだった。
「女神様!勝利の女神様がお目覚めだぞ。誰か朝食をお運びしろ!」
騎士の一人が叫んだ。
騎士や衛兵が我先にとユリアのもとに集まった。
「なんと、こんな可憐な方があの無双の騎士なのか!」
「バカ、勝利の女神様だ!」
「女神様、なんてお美しい!」
「お強くてお美しくてまさに女神様だ!」
ユリアの周りが人だかりになった。
「え、えっと……」
ユリアが身動きとれずどうしようかと思っていたら、急に蜘蛛の子を散らすように騎士たちはいなくなった。
ユリアが振り返るとフレイムが立っていた。
「おはよう、ユリア」
フレイムはユリアの手を取り甲に口付けて優しく微笑んだ。
その様子を陰から見ていた騎士たちは殿下のあんな顔は見たことないと驚いた。
「おはようございます、フレイム様。お身体の調子はいかがですか?」
ユリアが心配そうに聞いた。
「昨日ユリアが一緒に寝てくれたおかげでもう大丈夫だ」
フレイムが言うとユリアは少し照れながら言った。
「わたくしのおかげではありませんわ。フレイム様が頑強だから早く回復したのです」
「おはようございます、殿下、王女様。朝食をお持ちしました」
イーサンが焼いたソーセージとパンを持ってきた。
「おはよう、イーサン。ありがとう」
ユリアがそう言って朝食を受け取ろうとすると、フレイムが素早くイーサンから取った。
「イーサン、わたしがいない間ユリアの護衛ご苦労だった。今からはわたしがいるからもう護衛はしなくていい」
フレイムは威厳ある言い方をした。
「かしこまりました」
イーサンはお辞儀をして去ろうとしたが、ユリアが引き留めた。
「待ってイーサン。いろいろわたくしの我儘に付き合ってくださりありがとう。また手合わせお願いしますわ」
ユリアが言うとすかさずフレイムが言った。
「手合わせならわたしがやる。イーサンに頼む必要はない」
周りにいた騎士たちはその様子を見てフレイムが嫉妬をしていると囁き合った。
「フレイム様にもお願いしますが、フレイム様ばかりだと型に嵌ってしまいますわ。たまには違う方と手合わせしませんと。あっそうだわ、騎士団の訓練に混ぜていただけないかしら?」
ユリアは嬉しそうにフレイムに言った。フレイムは複雑な顔で答えた。
「その話は皇城に戻ってからしよう。それより朝食を食べよう」
フレイムはそう言ってテントの中に入った。ユリアは後を追ってテントに入った。
「フレイム様、お外で食べませんか?空気が澄んでいて気持ちいいですわ」
ユリアが言うとフレイムは首を横に振って言った。
「わたしはユリアと二人だけで食べたい。他の連中にユリアを見せたくないね」
ユリアはため息をついてからフレイムに向かって微笑んで、朝食を一緒に食べた。
朝食を食べ終わると準備をして帝国の首都に向かって出立した。
人数が多いので二晩とも野営で夜を明かした。
ユリアはフレイムの絶対的に譲れない意向で二晩とも同じ寝床だった。
フレイムに何もしないとユリアは約束させた。
「帰ったら正式に婚約できるから今は我慢するよ」
フレイムが嬉しそうに言った。
「ダメです。婚姻を結んでからと言ってあるでしょう」
ユリアは断固として譲る気はなかった。
「参ったと言わせればいいはずだったな?」
フレイムはニヤニヤしながら言った。
「う………」
ユリアは何も言えなかった。
三日目の夕刻に皇城に着いた。
フレイムと上位貴族の騎士たちが皇宮の謁見室で皇帝に報告に行くことになっていた。
「ユリアも一緒に行くぞ」
フレイムが言ったがユリアは自分が行くのは場違いだと断った。
「何を言っている。ユリアがいたからこそ早くケリがついたんだ。堂々と皇帝に会うべきだ」
フレイムが言うと他の騎士たちも賛同した。
ユリアはフレイムと共に謁見室に向かった。
謁見室では皇帝と皇后と皇太子が待っていた。
「この度の勝利見事であった。長年苦しめられていたトワイト王国を属国にするとはさすがフレイムだな」
皇帝は手放しで喜んでいた。
「いえ、わたしは途中から怪我で動けませんでした。部下たちの活躍とユーフィラシア王国第三王女ユリアが参戦してくれたおかげで勝利できました」
フレイムはユリアの方を見て言った。
「ユーフィラシア王国の王女とはそなたが婚約したがっている者のことか?」
「はい、この者がそうです」
フレイムはユリアを自分の隣に座らせた。
「帝国の太陽にご挨拶申し上げます。ユーフィラシア王国第三王女のユリアでございます」
「ふむ……参戦したというのは誠か?」
皇帝は疑わしげな言い方をした。
「はい」
「女の身でありながら剣を振るって戦ったと?」
皇帝は怪訝そうな顔をした。
「恐れながら陛下。ユリアの活躍はその場にいた者が皆承知の事実です。部下は皆ユリアのことを勝利の女神と呼んでいました」
フレイムはユリアを擁護するように言った。
ユリアは勝利の女神は恥ずかしいからやめて欲しいと心の中で叫んでいた。
「ふむ、では二人の婚約を正式に認めよう。約束だからな。婚約証明書をすぐに持ってくるように」
フレイムとユリアの後ろにいた騎士たちはガッツポーズをしたり、手を合わせたりして無言で喜んでいた。
しかし苦虫を潰したような顔をして喜んでいない人物が二人いた。
皇后はユリアを睨みつけながら、まだ諦めないと思っていた。
皇太子はトワイト王国を制したフレイムへの嫉妬とユリアを娶ることでフレイムが独立を考えるかもしれないという不安でいっぱいだった。
婚約証明書が届き、フレイムとユリアはその場で署名をし、最後に皇帝が署名をした。
「これで晴れて正式に二人は婚約を結んだ。ユリアと申したな?これからもフレイムを支えて帝国のために働くことを誓ってくれ」
皇帝はユリアの肩を叩いて言った。
「はい、皇帝陛下。フレイム皇子殿下と共に帝国を支えていくことを誓います」
ユリアは跪いて言った。
皇帝との謁見も終わり、二人は邸宅に戻った。
邸宅では使用人たちが玄関前で並んで待っていた。
「おかえりなさいませ。よくご無事で」
侍従長が言うと皆拍手で出迎えてくれた。
ロザリーが泣きながらユリアのもとに来てお湯が沸いているから入るように言ってくれた。
ユリアはフレイムもすぐにでもお湯に浸かって疲れを取りたいだろうと思い、先に入るように勧めたが、ユリアが先に入るように言われ、断固として譲らなかった。
ユリアは仕方ないので一緒に入ることを提案するとフレイムは小躍りしそうなほど喜んだ。
その様子を見ていた侍従侍女たちはフレイムとユリアの変わりように何があったのかと驚いた。




