18.勝利の女神になりました
フレイムとトワイト王国の国王との話し合いはスムーズにことが運んだ。
まずトワイト王国は帝国の属国になること。国王、並びに貴族の財産は半分没収、武器の製造、輸入禁止、奴隷制度の廃止、今まで平民に課していた税金は半分にすることを誓約書に盛り込んだ。
トワイト王国は貴族本位の国家で平民の税の負担が周辺国より遥かに高かった。
奴隷制度もどの国もなくなりつつあるにもかかわらず、王家が推奨していた。
「法整備が整うまで帝国の役人と衛兵を常駐させる。誓約書を反故にするような行為が見られた場合は即刻王家並びに加担した貴族全て処刑することを念頭に置いておくように」
フレイムは最後に言い放った。
帝国軍は百人ほどの兵士を監視目的で置いてとりあえず陣営に戻った。
フレイムはトワイト王国では一切隙を見せなかったが、かなり疲労しているらしく、テントに入るとそのまま寝床に倒れ込んだ。
「フレイム様!」
ユリアが心配そうにフレイムの顔を覗き込んだ。
「大丈夫、ちょっと疲れただけだ」
そう言いながらフレイムはユリアの頬を撫でた。
「ユリアが横で寝てくれたら元気が出そうだ」
フレイムはユリアの腕を取り、寝床に引っ張った。
ユリアは抵抗をせず、黙ってフレイムの横に寝そべってフレイムの頭を撫でた。
ユリアも疲れていたのでそのまま眠ってしまった。
フレイムはユリアの額に口付け、手を握って眠った。
その頃、陣営では食事をしながら小柄な無双騎士の話題で盛り上がっていた。
イーサンがテントに食事を運びに行こうとしているところをカウルに呼び止められた。
「イーサン、お前と一緒に現れた小柄な騎士は誰だ?今どこにいる?」
イーサンは言っていいものかどうか悩んだ。
「…あの騎士のことはわたしからは言えない。今は殿下のテントにいる」
「その食事は殿下のか?俺に運ばせてくれ!」
カウルはイーサンから食事を奪い取ろうとしたが、イーサンは拒否した。
カウルは食事を運ぶのは諦めたが、イーサンの後をついて行った。他の騎士も何人かついて来た。
イーサンがテントの幕を開けると騎士たちは隙間から覗いた。
二人とも寝ているのでイーサンは食事をそっと置いてテントを出た。
「おい、殿下と一緒に寝ていたのはあの小柄な騎士か⁈」
カウルが興奮したように聞いてきた。
「ああ、たぶん」
イーサンが答えるとついてきていた騎士たちが静かに沸いた。
騎士たちが食事をしているところに戻ると、皆口々に騒いだ。
「殿下があの無双の騎士と寝床を共にしていたぞ!」
「殿下は男色家だったのか!」
「なるほど、だからいつまでたっても女気がなかったんだな」
「婚約しないのもそのせいか」
イーサンが見かねて口を挟んだ。
「ただ寝ていただけだ。そんなんじゃない」
「イーサン、何言ってるんだ。ただの騎士が殿下と同じ寝床で寝ること自体あり得ないだろ」
「そうだ、何もなくて一緒に寝るわけない!」
イーサンは困った。殿下に変な噂が立つ前に真相を話すべきだと思った。
「あの小柄な騎士はユーフィラシア王国の第三王女ユリア様だ」
イーサンが言うと騎士たちは一瞬言葉を失った。
「えーー〜ーーー!」
みんなが一斉に驚いて叫んだ。
「あの戦利品と言われている王女か?」
「殿下の邸宅で一緒に住んでいる王女?」
「あの無双の騎士が王女なのか?」
イーサンは頷いた。
「ユーフィラシア王国と戦ったときそこにもいただろう、小柄な無双の騎士が」
イーサンが言うとみんな頷いて言った。
「いたいた。強すぎて俺は近寄ることも難しかった」
「怪我はさせても命までは奪わなかった奴だろ」
イーサンは頷いて言った。
「それが王女様だよ。そして今殿下の隣で寝ている方だ」
騎士たちは驚いた。
「なんと無双の騎士ではなく勝利の女神だな」
「こりゃいいや。これからは勝利の女神様と呼ばないと」
騎士たちは口々にユリアのことを勝利の女神様と呼び、ユリアの戦いを称賛した。
「おい、イーサン。お前王女様の護衛を殿下から頼まれたんだろ。どんな方だ?」
カウルがイーサンに聞いた。
カウル・ブラウンは平民の出だがその腕をかわれて子爵の称号を皇帝より賜り、フレイムの護衛騎士となった。イーサンに並ぶ凄腕騎士でフレイムのもう一方の片腕だ。
イーサンは少し考えてから答えた。
「……戦いに秀でているのは確かだ。わたしは鍛錬で何度も剣を交えたが勝ったことがない。強情だが人情がある。負けず嫌いで努力家だ。あとは…」
「はっはっは、それだけ聞けりゃもういい。殿下も面白い王女を押し付けられたな」
カウルは大笑いした。
「押し付けられたんじゃない。殿下は自分が望んで迎えたんだ。戦場で一目惚れしたと言っていた」
イーサンは真剣な面持ちで言った。
「えっ、殿下はあの姿を見て女だと思ったのか?」
カウルは不思議そうな顔をして言った。
「見る目があるんだよ殿下は。今なら殿下が惚れるのもわかるよ」
イーサンは微笑みながら言った。
テントの中でユリアはぐっすりと眠った。誰かが頭を撫でているのが心地よくぼんやりと目を覚ました。優しく見つめるフレイムの顔が見えた。ユリアはまだ寝ぼけていてフレイムの身体を撫で回しながら寝言のように言った。
「ああ、やっぱりこの筋肉思った通り硬いけど滑らかで素敵。一度触ってみたかったの……」
「…ユリア…一度だけでなく何度だって触って欲しいよ…」
ユリアはフレイムの声にハッとして目がハッキリ覚めた。
「きゃあ!ご、ごめんなさい……」
ユリアは寝床から出ようとしてフレイムに腕を掴まれた。
「大丈夫。まだ夜中だから寝なさい」
「でも……」
ユリアは目を逸らした。
「一緒に寝てくれる約束だ」
フレイムはニヤッとして言った。
「約束はしていません……もう元気になられたようなので外で寝ます」
ユリアはまた寝床から出ようとしたがフレイムに押し倒してユリアの腕を押さえた。
「ダメだ。外はガサツな男だらけだ。そんなところに行かせない」
「大丈夫ですわ。戦場ではいつもそうでしたから慣れています」
ユリアはにっこり笑って言った。
「そうじゃない、わたしが嫌なんだ」
フレイムは憂いの帯びた顔で言った。ユリアはフレイムの顔を見つめて胸が熱くなった。
「フレイム様……わかりました。今日は一緒に寝ます」
ユリアが言うとフレイムはホッと一息ついて腕から手を退けて横になった。
「おやすみなさい」
ユリアはそう言うとフレイムがいる反対側を向いた。
「おやすみ、ユリア」
フレイムはユリアの方を向いた。フレイムは音になるかならないかの声で呟いた。
「愛している、ユリア…」
ユリアは微かに聞こえたフレイムの声にドキドキして眠れなかった。




