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17.無事でなによりです

 翌日、夜明け前にユリアとイーサンは宿を出た。

 馬小屋に行って荷物を括り付けているとき、ユリアはこちらを伺っている人影に気づいた。


「王女様、お気をつけください。こちらを伺っている者がいます。馬小屋を出たらすぐに西へ向かって走りますので」


 イーサンも気づいているようで、小声でユリアに言ってきた。ユリアは黙って頷いた。

 二人は馬小屋を出るとすぐに馬に跨り西に向かって全力で走った。

 慌てて数人物陰から出てきたのがチラリと見えたが、人の脚では馬に敵うはずがないのですぐに諦めたようだった。


「あの者たちは何者?」


 ユリアは馬を走らせながらイーサンに聞いた。


「おそらくトワイト王国からの侵入者でしょう」


 ユリアはトワイト王国を絶対に潰さなければと思った。

 


 イーサンの予想通り正午には戦地の陣営に着いた。

 戦いは続いているようで見張りの衛兵が何名か残っているだけだった。

 ユリアは馬から降りると衛兵にフレイムがどこにいるか聞いたが、衛兵はユリアを見て怪訝そうな顔をした。

 イーサンが馬を繋いでからユリアのもとに来た。イーサンがフレイムの居場所を聞くと衛兵はすぐに案内した。


「あのテントの中です」


 衛兵がテントを指差すとユリアは一目散にテントまで駆けて行った。

 テントの前で衛兵に遮られた。


「わたくしはフレイム様の仮の婚約者です!通しなさい!」


 ユリアが怒鳴ると中からフレイムの声がした。


「ユリア…?」


 ユリアは衛兵を押し退けてテントの中に入った。


「フレイム様……」


 フレイムは肩から胸にかけて包帯を巻かれていて、熱があるのか赤い顔をして横になっていた。


「ユリア…どうしてここに…?」


 フレイムが起き上がると、ユリアは起き上がる元気があるのだとホッとした。


「フレイム様らしくありませんわ。どうして負傷なんか…」


 ユリアはフレイムの側に寄って行った。


「ユリア、どうしてここに?」


 フレイムはユリアの手を握りもう一度聞いた。


「わたくしのためにフレイム様が戦って負傷したと聞いたからです…」


 ユリアは涙がこぼれそうになるのを隠すために俯いた。

 フレイムはユリアの髪に顔を埋めた。


「…ユリア…こんな危険な所に来させて申し訳ない。喜んではいけないことはわかっているが、嬉しい…」


 フレイムはユリアの髪からおでこへおでこから頬に顔を擦り寄せた。

 そこに衛兵に状況を聞いていたイーサンが入って来た。

 ユリアは慌ててフレイムから離れた。


「殿下!大丈夫…………みたいですね」


 フレイムに睨まれたイーサンは横を向いて頭を掻いた。


 フレイムの話では相手の騎士と戦っている最中フレイムを狙って一斉に矢が放たれ、馬がやられて飛び降りたところに第二弾の矢が至近距離から無数の飛んできて避けきれず脇の下に刺さった。

 傷は浅かったのでそのまま戦い、その日は敵が撤退するまで何とか持ち堪えたが、毒が塗られていたので陣営に戻ったときには全身が痺れて動けなくなった。


「トワイト王国は味方の兵士がいるにもかかわらず矢を放ったせいで、あちら側もかなりの負傷者が出て撤退が早まった。まさかわたしが最後まで戦うとは思っていなかったのだろう」


 フレイムが言うとイーサンが衛兵に聞いたことを話した。


「我が陣はトワイト王国の首都近くまで攻め入っているようです」


「そうか、わたしが動けない間にそこまで行ったか」


「今はカウルが殿下の振りをして戦っているそうです。毒矢が刺さっても動いているので相手はおののいているようですが、正体がバレると向こうの士気が上がってしまいます」


 イーサンがそう言うとユリアが声を強めて言った。


「ではイーサン、わたくしたちも向かいましょう。正体がバレる前に一気にけりをつけるのです」


 フレイムもイーサンも驚いた。


「ダメだユリア!」


 フレイムは強い口調で言った。


「わたくしの実力はフレイム様が一番よくご存知のはず。怪我人は大人しく待っていてください」


 ユリアはそう言うとサッサとテントを出た。

 イーサンはフレイムの顔色をうかがった。


「ユリアは一度決めたら誰にも止められないだろう。イーサンユリアを守ってくれ」


 フレイムに言われ、イーサンは頷いてすぐにユリアの後を追った。

 フレイムは立ち上がりかけてふらついて倒れた。


「すまない、ユリア。動けるようになったらすぐに向かう。それまで無事でいてくれ」


 フレイムは苦渋の顔をして呟いた。



 ユリアとイーサンはトワイト王国の首都を目指して馬で駆けた。

 首都の手前まで来ると戦いが繰り広げられていた。

 ユリアは戦いで荒れた農地を見て胸が痛んだ。味方に向けて平気で矢を射るような国、早く戦いを終わらせてみんなが安心して暮らせる国にしなければと思った。

 もともとドラシア帝国が押していたが、ユリアとイーサンが参戦して戦いはかなり帝国に分があった。

 男にしては小柄な騎士が無双している姿に帝国側は士気が上がり、あっという間に敵陣を制圧した。

 トワイト王国側の歩ける兵士を縄で縛り、帝国軍は敵の兵士を連ねてトワイト王国の首都に入った。

 王城の前に行くと早々に白旗が掲げられた。

 帝国騎士たちは王城に入り、国王とその身内を拘束した。

 騎士たちは指揮官であるフレイムが不在の為、王国をどう処理してよいか悩んでいた。

 ユリアはイーサンに耳打ちをした。

 イーサンは頷いて、騎士たちに伝えた。


「今から殿下を迎えに行く。それまでここで監視を続けながら待機。決して略奪行為はしないこと。もしそのような者がいれば全員連帯責任を負わす」


 ユリアとイーサンは急いで帝国の陣営に戻った。


「フレイム様勝利しました!」


 ユリアはテントに入るなりフレイムに抱きついて報告した。


「さすがだな、ユリア」


 フレイムはユリアの頭を両手で掻き回した。


「みんなの力です。もちろんフレイム様も」


 イーサンが咳払いをしてから言った。


「殿下、動けますか?トワイト王国の国王と今後の話をしなければなりません」


「ああ、大丈夫だ。馬にぐらいは乗れる」


 フレイムは立ち上がったがふらついた。


「フレイム様はわたくしの馬の後ろに乗って手綱を握ってください。わたくしは前で手綱を横から握り馬を走らせますわ」


「なるほど、側から見たら殿下が王女を乗せているように見えますね」


 イーサンが感心したように言った。


 フレイムはイーサンに支えられて馬に乗り、ユリアはその前に乗った。

 フレイムはユリアの肩に頭を乗せ、呟いた。


「…すまない、ユリア。こんな格好悪いわたしを見せたくはなかった……」


 ユリアは微笑んで言った。


「大丈夫です、フレイム様。フレイム様の代わりにわたくしが格好良い役回りいただきましたから」


 ユリアはトワイト王国の首都を目指して馬を走らせた。


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