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14.義母になるかもしれない方とのバトルは引き分け

 翌日、ダイアナから手紙が届いた。

 明日の午後からこちらにお邪魔するという内容だった。返事は必要ないということなので強引に来るつもりだろう。昨日突然に来たと嫌味を言ったので今度は連絡を入れてきたのだ。律儀な方だとユリアは可笑しくて笑った。

 それならばこちらもきちんとお迎えさせていただこうではないかとユリアは考えた。

 桃が好きだと言っていたので故国から持ってきた乾燥させた桃でお菓子を作ろうと思った。


 その日の午後はイーサンと鍛錬をした。二人は剣を交えながら話をした。


「明日また第七皇妃様が来られるけど、イーサンはまた外で待機していてね」


「王女様から目を離したことが殿下にバレると首が飛んでしまいます」


「じゃあわたくしに勝てれば一緒にいてくれて構わないわ」


 ユリアにそう言われてイーサンは本気で戦った。この間のような隙を見せないように片手で剣を持ち、蹴りが来ると空いている方の手で交わした。


「ちゃんと学習してるのね!じゃあこれはどう?」


 ユリアはいったんイーサンから離れて林の奥に入って行った。


「王女様!」


 イーサンは慌ててあとを追ったが、ユリアは木陰に隠れたので見失った。

 イーサンが気づいたときには遅かった。ユリアがイーサンの後ろで剣を背中に当てていた。


「…参りました。そのように気配を一切感じさせない方は初めてです」


「こどもの頃から培ったものよ。虐められていたので気配を消して行動することを覚えたわ」


 ユリアは笑いながら言った。

 イーサンはユリアの生きてきた境遇を思うと心が痛んだ。



 翌日午後、ダイアナがやって来た。

 今日こそは説得を成功させようという気合の表れか、ダイアナの顔は高揚したような面持ちだった。

 ユリアはダイアナを応接室に通し、昨日作っておいたドライフルーツのクッキーとドライピーチを練り込んだシフォンケーキを出した。

 お菓子が甘いので今日のお茶はレモンティーにした。


「どうぞお召し上がりください。桃がお好きだとおしゃっていたので桃のシフォンケーキを作ってみました」


 ユリアに勧められたが、ダイアナはシフォンケーキをチラリと見て言った。


「結構よ。食べ物なんかで釣られないわ。今日こそあなたには出て行ってもらおうと決めて来ていますから」


「そうですか。困りましたわね。わたくしもフレイム様と話をするまでは出て行く気はありませんので」


 ユリアはそう言ってシフォンケーキを一口食べた。


「桃の味がほんのりして美味しくできたわ。甘さもちょうどいい感じ」


 ユリアは次にお茶を飲んだ。


「レモンの少しの酸味がケーキに合うわ」


 ユリアはまたケーキを食べた。

 ダイアナはゴクリと喉を鳴らしたが、腕を組んで横を向いて言った。


「皇后様がフレイムの妃候補を見つけてくださってるのよ。皇后様のお里の公爵家の令嬢でとても美しい方よ。それをフレイムは会いもしないで断ってるのよ。でもその令嬢と婚姻を結べば、皇后様と縁続きになれるし、公爵家という後ろ盾もできるわ。フレイムにとって悪い話じゃないでしょう?」


 なるほど、皇后は自分の縁者と結婚させて天下無双のフレイムを皇太子の盾や剣にしようという算段ねとユリアは思った。


「悪いお話ではないと思います」


 ユリアが言うとダイアナは食いつくように言った。


「あなたもそう思うのね!だったらこの縁談がうまくいくようにあなたも協力してくれるわね?」


「それはフレイム様のお気持ちなので第三者のわたくしが勝手に協力などできませんわ。それに皇后様は上手く考えましたわね」


 ユリアは淡々と言うとお茶を飲んだ。


「それはどういうこと?」


 ダイアナは怪訝そうな顔をして言った。

 ユリアはカップをテーブルに置いて答えた。


「その令嬢を上手く使ってフレイム様を一生皇太子殿下に縛り付けておけますもの。帝国は力で国を保っていますわよね。皇太子がどのくらいお強いかわたくしは存じあげませんが、フレイム様は天下無双のお方、皇太子殿下はフレイム様の笠を着ることになりますわね」


 ユリアが言うとダイアナは何か考えるように眉間にシワを寄せて俯いた。

 ユリアは続けて言った。


「フレイム様のようなお方が一生皇太子殿下の影でいるなんてもったいないことですわね。彼の実力ならどこかの国を制覇して国王になることも夢ではありませんわ」


 ユリアはお茶を飲みながらチラリとダイアナを見た。ダイアナはドレスを握りしめて困惑したような顔で俯いていた。


「…皇后様…わたくしやフレイムを手玉に取ろうとしているの…?」


 ダイアナは青ざめた顔で呟いた。

 ユリアはダイアナにお茶を注ぎ直した。


「皇妃様、お茶を入れ直しましたわ。ピーチティーです。お飲みになってください、落ち着きますわ」


 ユリアに言われてダイアナは頭を上げ、カップを手に取って香りを嗅いで一口飲んだ。先程まで青ざめていた顔がみるみるうちに赤みを帯びた。


「皇妃様がフレイム様を思う親心は感動いたします。わたくしは生まれてすぐに母を亡くしましたので羨ましいですわ」


 ユリアは哀しそうな微笑みを見せた。

 ダイアナは憐れむような顔をしてユリアを見た。


「そうなのね……ケーキもいただくわ」


 そう言ってダイアナはピーチシフォンケーキを口に運んだ。

 よしっ、落ちた!とユリアは心の中で叫んだ。ダイアナは素直で単純な人だとユリアは思った。


「桃の香りがほんのりしてとても美味しいわ。あなたが作ったの?」


 ダイアナはケーキを頬張りながら聞いた。


「はい。お気に召していただいて嬉しいです」


 ユリアは愛想笑いを振りまいた。


「他にも料理とかできるのかしら?」


 ダイアナはユリアをじっと見て言った。


「はい。十五歳を過ぎると自炊することもが多かったので。この間薬草を使ったスープをフレイム様が召し上がって褒めていただきました」


 ダイアナは食いつき気味で聞いてきた。


「薬草を使った料理も作れるの?」


「はい。薬草を使った料理は身体にとても良いので。戦場で野営中にいろいろと覚えました」


 ユリアは少し照れ気味にしおらしく見えるように言った。


「まあ、戦場に⁈」


 ダイアナは驚いた。

 さあ、最後の仕上げ、このセリフで落ちること間違いなしとユリアは自信満々に話した。


「はい。わたくしの母は貧乏伯爵の出で、母を失ったわたくしには後ろ盾が全くございませんでした。戦いに出ることだけが唯一のわたくしの存在価値だったのです」


 フレイムも同じだと聞いたのでダイアナにも必ず刺さる話だろうとユリアは思った。

 ユリアはわざとに目頭を押さえた。


「あなたも苦労なさったのね…」


 ダイアナは今まで見られないほどの慈愛に満ちた顔をした。

 ユリアは完璧に落ちたと心の中でガッツポーズをした。別にフレイムと結婚したいわけではないが、戦いを挑まれては負けるわけにはいかない。

 ユリアは勝利に酔いしれそうになった。


「皇后様の縁続きのご令嬢は断ることに決めたわ」


(ほらきた!)


「その代わりわたくしがもっと相応しい相手を探します」


(えっ……?)


「あなたは良かったらわたくしの宮に来ない?」


(えーーーっ⁈)


「わたくしの宮で料理人として働いてもらいたいわ」


(……………………………………………………)


 ユリアの頭の中で引き分けのゴングが鳴った。


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