13.義母になるかもしれない方とバトルの始まりです
フレイムが出立してニ日が経った。
ユリアはいつものように(イーサンが少し離れてついて来ているが)早朝ジョギングをして邸宅に戻ると、ロザリーが慌てて玄関まで出てきた。
「大変です、王女様にお客様が…」
ロザリーが言い終わらないうちに邸宅の奥から声がした。
「敗戦国の王女はどこにいるの!隠れていないでとっとと出てきなさい!」
ユリアはロザリーの顔を見た。
「皇子殿下の母君様です…」
ロザリーは小声で言った。
「まあ、そう。突然ね」
ユリアは面白くなりそうだと思った。
ユリアは奥に入りフレイムの母親に挨拶をした。
「第七皇妃様。お初にお目にかかります。わたくしが敗戦国の第三王女ユリアです」
「まあ、あなたが!どこに隠れていたのかしら?こんなにも客を待たせるなんて!」
第七皇妃ダイアナはフレイムにどことなく似ていて美しかった。
イーサンがユリアの前に出てきて立ちはだかった。
ユリアはイーサンに下がるように言うと、イーサンはユリアのすぐ後ろに立った。
「申し訳ありません。日課のジョギングに出ていましたもので。まさかこのような早朝に突然来客があるとは微塵も考えていませんでしたわ」
ユリアはにっこりと笑って言った。
ダイアナはユリアを睨みつけただけで何も言えなかった。
「わたくしは着替えてまいりますので少しお待ちいただけますか?ロザリー、第七皇妃様を応接室にご案内して差し上げて。それでは第七皇妃様、後ほど。失礼いたします」
ユリアはダイアナにお辞儀をすると階段を登って行った。
ユリアが着替えているとロザリーがノックをして部屋に入ってきた。
「王女様、もう大変だったんですよ。朝早くから訪ねて来て、王女様を出せって言って屋敷の中を見てまわって。鬼のような形相をしていましたわ」
ロザリーはダイアナの顔の真似をして人差し指で角を作って言った。
「ふふ、そうなの」
ユリアが笑うとロザリーは笑っている場合ではないと言わんばかりの顔をした。
ユリアは着替え終わると侍女にお湯とフルーツティーの茶葉を全種類用意するように伝えた後、応接室に向かった。
ユリアは応接室のドアをノックしてからドアを開けて入った。イーサンも入ろうとしたので部屋の外で待機するように言った。イーサンは渋々外で待機した。
「お待たせして申し訳ありません」
ユリアはそう言いながらダイアナの向かいに座った。
「あなた、本気でフレイムと婚約できると思っているの?」
ダイアナは嫌悪剥き出しで言った。
「申し訳ありません、わたくしからはなんとも言えません。わたくしが望んだことではありませんので」
ユリアは淡々と言った。ダイアナはユリアの言葉に少し安堵した。
「あなたが望んでいないのならフレイムがいないうちに荷物をまとめてさっさとお国に帰ってくださるかしら?あの子には、あの子にもっと相応しい妃を娶ってあげたいのよ。敗戦国の王女にはなんの力もないでしょう?」
「そうですね。わたくしには後ろ盾というものがありません。戦利品としてこの帝国に来たので国に帰るわけにもまいりません」
ユリアはまた淡々と言った。
「それはあなたの事情でしょう。わたくしが力のない男爵出だったばかりにフレイムには苦労をかけさせてしまったの。あの子の正妃には皇太子にも負けないぐらいの後ろ盾をつけてあげたいのよ」
ダイアナがそう言ったとき、ドアがノックされてお茶が運ばれてきた。
ユリアはダイアナの目の前で茶葉をティーポットに入れ、お湯を注いだ。しばらくしてからカップにお茶を入れ、ダイアナに差し出した。次に自分のカップにも入れ一口飲んだ。
「どうぞお召し上がりください」
ユリアはダイアナにお茶を勧めた。
ダイアナは目の前で注いだお茶をユリアがはじめに飲んだので安心してカップを手にした。
「あら、いい香り」
ダイアナは独り言のように言ってお茶を飲んですぐに一瞬目を丸く見開いた後、再び香りを嗅いでからまた飲んだ。
ダイアナは本当にフレイムのことを想っているのだなとユリアは思った。自分も母親がいればこんな風に大事に想って守ろうとしてくれただろうかと。
「いかがですか?これは故国の特産品の茶葉でアップルティーと言います」
「……りんごなの……美味しいわ……」
ダイアナは飲み干してホッとひと息をついた。
「他にもピーチ、オレンジ、レモンがあります。召し上がりますか?」
ユリアは微笑んで聞いた。
「…そうね、わたくし桃が好きなの。ピーチをいただこうかしら」
ユリアは頷いて新しいティーポットにピーチティーの茶葉を入れてお湯を注いだ。
「桃のいい香り……」
ダイアナは目を閉じて呟いた。
ユリアはカップにピーチティーを入れダイアナに渡した。
ダイアナはカップを受け取り、香りを嗅いでから一口飲んだ。
「桃の芳醇な味がお茶に溶け込んでとても美味しいわ」
「喜んでいただけて良かったです」
ユリアが言うと、ダイアナはハッと我に返ったように険しい顔つきになった。
「お茶は美味しかったけれど、こんなことでわたくしの考えは変わりませんわ。とにかくフレイムとの婚姻は諦めてちょうだい。国に帰れないのならわたくしの実家で侍女として雇ってもらえるように父に言ってあげるわ」
「お気遣いありがとうございます。フレイム様がお帰りになったら相談して決めますわ」
ユリアはにっこりと笑って言った。
「それはダメよ!あの子は頑固なの。何度言っても聞かなかったのよ。だからあの子がいないうちにあなたが消えてちょうだい!」
ダイアナは焦ったように言った。
「それはできません。フレイム様のお帰りを待つと約束しましたので、帰ってくるまではここで待ちます。約束を破ることはできません」
ダイアナは唇を噛み締めた。
「もういいわ。今日はとりあえず帰ります。あなたをここから追い出すまで何度でも来ますから!」
ダイアナはそう言うと応接室を出て行った。
ユリアは大きくため息をついた。
ダイアナとのバトルは楽しみだが、子を思う親の気持ちを踏みにじってまで勝利を掴んでそれで満足するのだろうかと考えた。




