12.第五皇子が隣国討伐に行きました
フレイムがユリアに話しがあると言って早めに皇宮から戻ってきた。
二人は応接室に入り向かいあって座った。
フレイムはあまりいい顔をしていなかった。ユリアとも目を合わせようとしない。
ユリアはいよいよ婚約はなかったことになるのかもと思った。それならそれで侍女として働かせてもらえれば問題ないと思ったが、そう考えると胸の奥が何かにギュッと掴まれる感じがした。
「…しばらくの間戦に出ることになった。西の領地に隣接するトワイト王国がおかしな動きを見せているらしい。あの王国とは前から貿易が盛んな入江の町を巡って争いが絶えなかった。皇帝がそれを治めてくるようにと。正式な婚約はその後だそうだ」
「どのくらいかかるのですか?」
ユリアは自分も行きたくてウズウズしていた。
「はっきりはわからないが、間違いなく一ヶ月以上はかかるだろうな…記念祭には間に合わないと思う。残念だよ、ユリアと初めての記念祭に参加したかったが…」
「わたくしもお供させてください!戦力になると思います!」
ユリアは身を乗り出して言った。フレイムは一瞬嬉しそうな顔をしたが、首を横に振った。
「ダメだ、ユリア。気持ちは嬉しいし、君の実力も知っている。だが、わたしが嫌なんだ。ユリアを危険な場所には連れて行きたくない」
「でも……」
ユリアは言いかけたが、フレイムの頑固たる瞳が恐ろしいほどにユリアを見つめたので何も言えなかった。
「……いつ出立なされるのですか?」
「明日の朝、出なけらばならない。早く行かないとトワイト王国がどう仕掛けてくるかわからないからな」
フレイムは言いながら目を細めてユリアを見つめた。
「ユリアの護衛にわたしの片腕を置いていく。イーサン・アデライトといって伯爵家の次男だ。彼なら信頼して任せられる」
「とんでもございません!そのような方に護衛されなくてもわたくしは大丈夫です。それよりもフレイム様に付いていてもらいたいです」
ユリアは慌てて断ったが、フレイムは聞き入れなかった。
「わたしが安心して出立できないのだ。それと何かあったら皇宮のわたしの執務室に行きなさい。わたしの補佐官であるオスカー・ペリゴール男爵に相談するといい」
フレイムはそう言いながら立ち上がり、ユリアの側まで来た。
フレイムはユリアの手を取り軽く口付けた。その顔は憂いを帯びていた。
「フレイム様。わたくしのことは心配なさらず、トワイト王国討伐に集中してください。フレイム様もご存知でしょう?わたくしがどういう人間か」
ユリアはソファから立ち上がり、フレイムの両手を自分の両手で包んだ。
「さあ、夕食に行きましょう、フレイム様」
「……そうだな」
ユリアはフレイムの腕に手を回し、二人でダイニングへ向かった。
フレイムはユリアに言っていないことがあった。
今日皇帝とユリアとの婚約証明書を早く発行して欲しいと話をしたときのことだ。
皇帝自身はフレイムが誰と婚姻を結ぼうが気にしていない様子だったが、皇后はユリアとの婚約を反対している様子だった。おそらくフレイムの母親の差し金だろう。
皇帝は皇后に言われるがままユリアとの婚約を承諾しかねていた。
そこでフレイムは前々から皇帝が気に食わなかったトワイト王国を属国にしてみせる代わりにユリアとの婚約を承諾して欲しいと皇帝に談判した。
皇帝は考えることもなくトワイト王国が手に入ったらすぐさま婚約どころか婚姻を結んでもいいと言った。
皇后は反対をして皇帝に進言したが、「お前は黙っていろ!」の一言で片付けた。
翌朝、西の領地に行く前にフレイムはユリアにイーサンを紹介した。
「はじめまして、イーサン・アデライトです。殿下が戻られるまで王女様の護衛をさせていただきます」
イーサンもフレイムに劣らず精悍な顔立ちだった。
「ユリアです。よろしくお願いしますわ」
「ではユリア、行ってくる。イーサン頼んだぞ」
フレイムはそう言うと馬にまたがり、騎士団の先頭になって出立した。
ユリアは怪我することなく無事に帰ってくることを祈りながら見送った。
「さて、アデライト卿、剣の鍛錬をしたいからつきあって欲しいのだけれど」
イーサンは少し驚いたが、フレイムからユリアのことは聞いていたので実力を測れるチャンスだとも思った。
「イーサンとお呼びください。王女様は剣の達人だと殿下からお聞きしております。わたしでよければお相手させてください」
ユリアはにっこり笑って言った。
「達人かどうかはイーサンがその腕で確かめてください。着替えてくるので待っていてください」
イーサンは頷き、ユリアは着替えのために部屋に戻った。
ユリアは部屋に戻るとシャツとズボンに着替えた。
ロザリーが慌てて何をするのか聞いてきた。
「裏の林でイーサンと剣の鍛錬をしてくるわ」
ロザリーは驚いた。
「いけません、王女様!皇子殿下がお留守の間に何かあったら叱られます!」
「大丈夫よ、ロザリー。それに剣術の鍛錬はフレイム様ともしたことがあるから、彼は文句は言わないわ」
ユリアはクスクス笑いながら言った。
「ではわたしもついて行きます」
ロザリーはそう言うと薬箱抱えてついて来た。
ユリアとイーサンは木刀の剣で一戦を交えた。
イーサンはフレイムの片腕というだけあってユリアは苦戦したが、フレイムほどの剣術はないようだった。
イーサンが両手で剣を持ち上からユリア目掛けて振り下ろしてきたとき、ユリアはチャンスだと思った。ユリアも両手で剣を持ちイーサンの剣を頭の上で受け止めた瞬間に、イーサンの脇腹を左足で蹴り入れて、イーサンが怯んだ隙にイーサンの剣を右に回してお腹を蹴りイーサンが倒れたところで剣をイーサンの喉に突き立てた。
「まいりました!」
イーサンが手を上げて言った。
ロザリーは目まぐるしく動く2人を目で追うのがやっとだったが、ユリアの勝利に大絶賛した。
「女だからと手加減なさったのではないですか?」
ユリアは剣を腰に片づけながらイーサンに言った。
「…はじめは確かにそうでした。しかし途中からは全力を出さないとすぐにやられてしまいそうだったので、全力を出しました。殿下が褒めていただけあって王女様はお強いです。完璧にわたしの負けです」
ユリアはにっこり笑った。
「イーサンもさすがフレイム様の片腕だけのことはありますわ。また鍛錬つきあっていただいてよろしいかしら?」
「もちろんです。こちらこそお願いします」
イーサンは立ち上がりユリアに深々と頭を下げた。




