表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/14

10.サプライズ過ぎます!

 昼食はじゃがいもを茹で、バターで焼いてチーズをかけた。あと朝食の残りにベーコンやソーセージを林の中に生えていた薬草と煮込んでスープを作った。


「ん、うまい!」


 フレイムは美味しそうにパクパク食べた。

 ユリアも食べながら食材を褒めた。


「さすが帝国の特産品のバターとチーズですね。とても濃くがあって、そのくせまろやかで飽きのこない味ですわ」


「このスープも絶品だ。薬草を入れたから青臭くなるかと思ったが、さっぱりしているが味がしっかりしていて飲みやすい。ユリアはこんなこともできるのだな」


 フレイムはスープを飲みながら言った。


「戦場ではわたくしがほとんど作っていましたので。薬草はバターで少し炒めて臭みを取って、あとベーコンの塩気とソーセージの旨みがスープに溶け込んで美味しく感じるのですわ」


 皇子なのにこんな粗末な料理を喜んで食べているフレイムがユリアは微笑ましく思えた。


「さて、運動もしたし、お腹も起きたから、次は昼寝かな」


 フレイムはそう言ってユリアを抱きかかえた。


「フレイム様、何を…」


 ユリアが言う間にフレイムはユリアをハンモックに降ろした。そしてフレイムもハンモックに乗ってきた。

 フレイムはユリアの頭を自分の片腕に乗せ、もう一方の腕を自分の頭の下に置いた。


「フレイム様、ち、近すぎますわ!」


 ユリアは起きあがろうとしたがハンモックが揺れて落ちそうになり、思わずフレイムの胸にしがみついた。


「大丈夫。何もしないからこのまま寝よう」


 フレイムにそう言われてユリアは大人しく寝ることにした。ハンモックの寝心地も試したかったし、寝るにはちょうど良い気候だった。

 ユリアは目を閉じた。


 ユリアは夢を見た。

 まだこどもだった頃の夢だ。物心ついた時からユリアはいつも一人だった。一人で食事をし、一人で遊んだ。

 王女という立場上、どこへ嫁がせても恥ずかしくないように教育係はいたが、淡々と教えるだけでユリアに何の感情も持たない人だった。

 専属侍女もいたが、ユリアのような何もない王女の世話を押し付けられて不満ばかりこぼしていた。

 部屋から出て宮殿をウロウロすると腹違いの兄弟たちに虐められた。八歳で騎士団に剣を教わりに行くまでは、ユリアは部屋で一人で過ごすことが多かった。

 五歳ぐらいのときだった。嵐の夜、樹木の枝が折れてユリアの部屋の窓ガラスを割った。寝ていたユリアは驚いて飛び起きたが、ユリアにはどうすることもできない。 布団を被り震えて泣きながら朝が来るのをひたすら待った。


「ユリア、ユリア……」


 誰かの声がする。誰かが助けに来てくれたんだとユリアは手を伸ばした。その手をしっかりと握ってくれる温かい手にユリアは初めての安らぎを感じた。

 ユリアは頬をそっと撫でる指の感触に目が覚めた。

 フレイムが心配そうな顔をしてユリアの手を握り、もう片方の指でユリアの頬をつたう涙を拭っていた。


「フレイム様……」


 ユリアは自分を助けに来てくれたと思ったフレイムに縋りついた。ユリアはまだ半分寝ぼけていた。


「ユリア、大丈夫か?うなされていたぞ」


 ユリアはその声にはっきりと目を覚ました。


「きゃっ!」


 ユリアはフレイムを突き飛ばし、その反動で二人ともハンモックから落ちてしまった。


「大丈夫かユリア⁈」


 フレイムはユリアをすぐに抱き起こした。

 ユリアのせいで落ちたのに怒りもせず、ユリアのことを一番に心配してくれるフレイムにユリアは参りましたと言いたくなった。


「ごめんなさい、わたくしのせいで落ちてしまったのに…」


「いや、わたしのことは気にするな。それより痛いところはないか?」


 フレイムが心から心配してくれていることはその口調や顔でわかった。

 ユリアは心配をかけまいとして、いつもの調子で言った。


「わたくしを誰だと思っていらっしゃるの?戦場ではこれ以上のこと何度も体験しているわ。このくらい何ともありません!」


 ユリアは言ってからしまったと思った。フレイムは心から心配してくれているのに高飛車な言い方になってしまったとユリアは焦った。

 フレイムはユリアの様子を見てフッと笑った。


「可愛くて勇敢なわたしの姫。そろそろ夕食の時間なので邸宅に戻りますか?」


 ユリアは慣れない言葉に顔を真っ赤に染めた。


「か、可愛い……?……姫って……」


 フレイムはユリアの手を取りゆっくりと歩いて邸宅に向かった。

 邸宅に向かっている途中もフレイムから聞き慣れない言葉を囁かれ、ユリアは耳を塞ぎたい衝動に駆られながら、心を無にして平静を装った。


 邸宅に戻ると侍従侍女たちがびっくりして二人を見た。


「まあ皇子殿下、ユリア王女様!草だらけ泥だらけではありませんか!」


 ロザリーは言うとすぐに風呂に入る準備をした。


「ユリア王女様は野原を転げ回るのがお好きなのですね。そういえばこの間の泥だらけのときも皇子殿下とご一緒でしたね!」


 ロザリーはニヤニヤとしながら言った。


「ああ、そうだったわね……」


 ユリアは慣れないフレイムの言動にあまり思考が働いていなかった。

 浴室で侍女らがユリアの身体や髪を洗い終えると、ユリアは浴槽に入った。


「あー、気持ちいい。疲れが取れていくわ」


 ユリアが言っても誰も返事がないので振り返ると侍女は皆いなくなっていた。


「今のうちに泳ごうかしら」


 ユリアは平泳ぎで浴槽の壁際まで泳いだ。振り返って戻ろうとすると湯気の向こうに人影が見えた。


「ユリア?」


 フレイムの声だ。ユリアは思わず潜った。


「ユリア?おかしいな…入っていると聞いたんだが…」


 フレイムは自分で身体や髪を洗い始めた。

 ユリアはそっと顔を出した。


(今日はサプライズがありすぎじゃない⁈どうしよう?)


 フレイムが洗い終わって浴槽に入ってきた。ユリアは再び潜った。

 ユリアは潜ったままそっと動いて洗い場側まで近づき、勢いよく浴槽から飛び出した。


「ユリア⁈」


「見ないで!!」


 ユリアは猛ダッシュで浴室から出た。

 ユリアが浴室から物凄い形相で出てきて侍女たちは驚いた。急いでユリアにガウンをかけた。

 フレイムが後を追うように出てきたが、ユリアがピシャリと言った。


「来ないでください!」


 ユリアは急いで寝室に戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ