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1.戦利品として帝国に嫁ぎます

 ドラシア帝国が近隣諸国を支配下に収めるため戦争を始めたのは三年前だった。

 帝国は力と智慧で次々と支配国を増やしていった。

 ユーフィラシア王国もその一つであり、数ヶ月の戦いの末、敗戦した。 


 ユーフィラシア王国の第三王女ユリアは、敗戦国の戦利品の一つとしてドラシア帝国の第五皇子フレイムに嫁ぐことになった。

 ユリアは活発で利発な王女で先の戦争にも騎士として参戦していた。

 人を殺めることを良しとはしなかったが、強い相手と剣を交えることは好きだった。

 戦争でも無闇に敵を殺さず、戦意喪失する程度の傷を負わせるだけだった。

 惜しくも帝国に負け戦利品として嫁ぐことになったが、どうせ相手にされない何番めかの側妃に違いないと思っていた。


 ユリアを乗せた馬車がドラシア帝国の皇城に着いた。

 ユリアが馬車から降りようとすると、衛兵が止めて再び馬車に乗るように告げた。馬車は皇城の敷地内をしばらく走った。

 ユリアはどんな形で虐めてくるか、内心ワクワクしていた。

 馬車の窓から皇宮が見えたがどんどん遠ざかって行く。ユリアはオンボロ屋敷に案内されるのだろうと思った。


「どんなオンボロでもわたくしは平気よ。戦場の野営で何ヶ月も寝泊まりしていたんですもの」


 馬車が止まった。ユリアが馬車の扉を開けようと手を伸ばすと扉が開いた。


「ようこそ、ユリア王女。我が邸宅へ」


 精悍な顔つきだが優しく微笑んでいるその男はユリアに手を差し伸べた。

 我が邸宅ということはこの男が第五皇子フレイムなのねと思いながら、ユリアは差し伸べられた手に自分の手を重ねた。

 フレイムはそっとユリアの手の甲に口付けをした。ユリアは真っ赤な顔をして手を引いた。


「はは、我が王女様は勇敢な戦士かと思いきや、純情であらせられる」


 フレイムはそういうと再びユリアの手を取り、侍従侍女が玄関前で並ぶ屋敷に入って行った。

 ユリアはまず自分の部屋に案内された。質素だが、洗練された美しい調度品や家具が揃っていた。クローゼットの中にはドレスがたくさん並んでいる。

 フレイムが奥の扉を差して言った。


「あの扉の向こうはわたしの部屋になっている。行き来自由だから」


 ユリアは驚いた。


「えっ、わたくし側妃ではないのですか⁈」


 フレイムは目を丸くした後、微笑んで言った。


「わたしは側妃を娶るつもりはない。あなたはわたしの正妃だ」


 ユリアはありえないと思った。

 オンボロ部屋は?ボロ服は?侍女からの虐めは?それらを涼しい顔して華麗に回避して行くわたくしの生きがいある日々は?


 フレイムはユリアの前に跪いて、左手を自分の胸に右手をユリアに差し出した。


「ユリア王女。わたしはそなたの戦場での姿に惚れ込んでしまった。見事な剣さばき、敵に対する慈悲心、敵ながら称賛に値する。一国の王女が戦場に出向かなければならないなどと、国での王女の立場を考えるとわたしは胸が苦しい。これからはわたしがそなたの盾となろう。ここでのんびりと暮らして欲しい」


 ユリアは冗談じゃないと思った。勘違いもはなはだしい。


「いいえ、結構です!わたくしはサバイバル人生を謳歌したいのです!」


 ユリアは真剣な眼差しで懇願するように言った。

 フレイムは驚いた。一国の王女がサバイバルのような生活を望んでいるなんてそんな王女がこの世にいるのかと。


「ユリア王女。君はなんて素晴らしいんだ。贅沢や甘やかされるよりも困難に期してでも帝国のために頑張ろうと言うのだね。わかったよ。わたしも君と一緒にサバイバル人生を歩もうではないか!」


 フレイムはユリアの両手を握り、キラキラした目で言った。

 ユリアは困惑した顔で、放っておい欲しいのですがと心の中で叫んだ。


 侍女が湯浴みの準備ができていると告げにきた。


「長旅で疲れているだろうからゆっくり入っておいで。待ってるから」


 フレイムが微笑んで言った。


(いやいやいやいや、何で待ってるの⁈ここはゆっくり休んでっていうとこじゃない⁈)


 ユリアは侍女に連れられて浴場に行った。浴場は大理石で造られていて浴槽も広かった。

 侍女がユリアの身体や髪を丁寧に洗った後、ユリアは浴槽に浸かった。


「泳げそうね」


 ユリアがぽつりと言うと侍女が驚いた顔をした。


「あ、いえ、泳げそうなくらい広い浴槽ね?」


「はい、第五皇子殿下がお二人で入れるようにと最近改造いたしました」


 侍女が澄まして言った。ユリアは驚いて思わずお湯の中に頭を沈めた。


「ユリア王女様!」


 侍女が青ざめた顔で叫んだ。

 ユリアは勢いよくお湯から顔を出した。


「大丈夫ですか⁈」


 侍女がオロオロして聞いた。


「大丈夫よ。ちょっと聞きたいのだけれど、ドラシア帝国は婚前交渉って有りなの?」


 ユリアが聞くと侍女は顔を少し赤らめて言った。


「はい、愛し合っていれば自然な成り行きですので」


 わたくしとフレイムは愛し合ってないんですがとユリアは思った。


(仕方ない、長湯でのぼせたことにして倒れた振りをしましょう)


 ユリアはしばらく湯に浸かっていた。


(そろそろいいかしら?)


 ユリアは浴槽から出るとふらついた。


「ユリア王女様!大丈夫ですか⁈」


「いいえ、大丈夫じゃないみたいだわ。旅の疲れも出て目眩が酷いの」


 ユリアは動けない振りをした。

 侍女はユリアにガウンを着せて、急いで人を呼びに行った。


 一番に浴室に飛び込んで来たのはフレイムだった。

 フレイムはユリアを抱き抱え、寝室に運んだ。


「すぐに宮廷医が来るから」


 フレイムはユリアをベッドに寝かせると手を握った。ユリアは少し大袈裟すぎたかと後悔した。


「大丈夫です。眠ればすぐに良くなると思いますので」


「いや、だめだ。ちゃんと診てもらうんだ」


 フレイムは心配そうにユリアの顔を見つめた。

 ユリアは握られた手が気になった。


「あの、手を離していただいても……?」


「いや、医師が来るまでだめだ。君の意識確認のため握っておく」


 それって何の関係がと言いたくなったのをユリアは我慢した。


 しばらくして宮廷医が来た。診察の結果、脈も心臓も異常がないので旅の疲れが出ただけだろうと言って宮廷医は帰った。


「今日はゆっくり休んでくれ」


 安心したフレイムはそう告げて自分の寝室に戻った。


 ユリアは大きくため息をついた。


「はあ〜、今日のところは回避できた。でも妃になるのだからいつまでも避けられないわね。覚悟しなくては」


 ユリアはそんなことを考えながらいつのまにか眠っていた。


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