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【完結】競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
呂級編

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第31話 大勝負!

「目立つ白肌の竜がいるというだけで目を引きますよね」


 歯牙にもかけていないという感じの岡部の発言。高山はそれが悔しくてならなかった。ぎゅっと唇を噛み、目の前の机を睨んでいる。だが、記者会見が始まってから、歯牙にかけていない発言をしたのは岡部だけではない。最終予選で勝利している国重も同様の発言をしているし、松井、松本、櫛橋も同様であった。


 それもそのはずで、これまで呂級に席を置きながらこの『海王賞』を勝利した岡部、松井、櫛橋の三人は、いずれも最終予選を勝利している。それに対し高山は二着。


「高山先生、今回呂級調教師として格上の伊級調教師に挑むわけですが、勝算はどの程度あるとお考えですか?」


 この会場の雰囲気を見て、記者も「お前ごときが勝てると思っているのか?」と言わんばかりの質問を投げて来た。その顔もどこか馬鹿にするような感じを受ける。なぜ記者ごときから、こんな嘲笑を受けなければならないのか。実に屈辱的。

 恐らく他の調教師たちも記者の態度を嘲笑と感じたのだろう。一斉に高山の顔色を確認した。

 すると、バンという机を強く叩く音が会見場に響き渡った。


「かわら新聞さん、なんだ、今の質問は? 止級はね、伊級も呂級も無いんだよ。勝算があるかだって? あるに決まってるでしょ。無かったらここにはいないんですよ。私の言葉が少しでも理解できたら、高山先生に謝罪してください」


 高山が何かを言う前に、岡部がそう言って記者を黙らせた。松井と櫛橋も同様に記者を責める。

 かわら新聞の記者は岡部の威圧に屈して小声で謝罪。半笑いで高山を見ていた記者たちも、一様にバツの悪そうな顔をする。

 外国人の二人がここまでのやり取りを訳してもらい、満足気に頷いている。


 その後、改めて記者から意気込みを聞かれた。


「俺たちの期にとって岡部先生は研修時代から憧れの的でした。俺はその憧れの先生の竜に勝つ事を目標に、今日まで厩舎一丸となって精進してまいりました。だから、例え他の竜に負けたとしても、岡部先生の竜にだけは勝ちたいと思っています!」


 会場がシンと静まり返る。

 隣に座っている櫛橋が「よう言うた」とぼそりと呟いた。少し遅れて外国人の二人が拍手をする。それに合わせて記者たちも拍手をした。


「僕も君の事は内田さんからよく聞いている。三連星の一番星がどこまでやれるのか、今から競争が楽しみですよ」


 わざわざ高山の方に体を向けて岡部は言った。その瞬間、記者たちから一斉に発光器が焚かれた。


 ◇◇◇


 夜の八時が近づいてきた。

 電光掲示板に『海王賞』決勝の竜柱が表示されている。競技場では、係員の合図で一枠から展示泳走が開始されている。


 電光掲示板に単勝倍率も表示されている。

 一番人気は岡部の『サケスイアツ』、

 二番人気はアル・ザハビーの『ダランデダリヤ』

 三番人気がマトゥーラの『サムドリーシカリ』

 四番人気が櫛橋の『サケセンコク』。

 当たり前のように『ユキノリュウヒョウ』は最低人気。しかも七番人気の国重の『ニヒキハネモ』から大きく差の開いた最低人気。


 展示泳走を終えた『リュウヒョウ』を、他の竜の厩務員たちが物珍しそうに見ている。年配の厩務員が手を合わせる。それを見た師岡は、「ここでもそれなんだ」と呟いてくすりと笑った。



 しばしの緊張した時間が過ぎる。騎手たちは皆無言。張りつめた雰囲気に押しつぶされそうになっている。

 競技場に現れた発走者の旗が上がり、発走曲に合わせて、各竜が一斉に発走位置へと向かった。



――

夏の大一番、国際競争『海王賞』決勝の発走時刻となりました。

天候は晴れ、風状態は『微』、波はかなり穏やかです。

今年、久々に呂級調教師が参戦。

女性騎手あり、外国からの参戦ありと、まさに国際競争に相応しい一戦となりました。

天皇陛下も特別観覧席で注視しているこの一戦。

一枠ミズホコシナガ、二枠サケスイアツ。

三枠ダランデダリヤ、四枠ウミザトウ、五枠サムドリーシカリ。

六枠サケセンコク、七枠ユキノリュウヒョウ、八枠ニヒキハネモ。

進入隊形は二、三、三。


大時計が動き出しました!

外から順に加速していきます。

今、発走しました!

発走順は、二枠、七枠、六枠。

一角の攻防、八枠鋭く内に切り込んだ、四枠、五枠を弾く、六枠、七枠は大きく外!

先頭から二枠、三枠、一枠。

向正面、各竜飛越。

一枠、二枠、八枠潜航。

なお、発走は全竜正常です。

浮上して二角の攻防。

二枠最内で反転、三枠、一枠を抑え込み、四枠、六枠、七枠は大きく外!

正面直線、三枠、四枠、五枠、六枠、七枠潜航。

ここまでほぼ一団。

二枠サケスイアツが少し先行といった感じ。

浮上して二周目に入りました。

会場大歓声が沸き起こっています。

一角に向かいます。

三枠を二枠が弾き、その外一枠に接触、四枠、六枠、七枠は勢いのまま外!

先頭が三枠ダランデダリヤに変わった!

各竜、跳躍台飛越。

一枠、二枠、八枠潜航。

各竜浮上して二角の攻防!

二枠、三枠を弾き、その内に一枠が切れ込む、四枠、六枠、七枠は外!

三枠、四枠、五枠、六枠、七枠潜航。

最終周に入りました。

若干五枠、八枠が遅れ気味か。

大接戦の様相に観客席から大声援が飛び交っています。

まもなく一角の攻防!

二枠急旋回、三枠が膨らみ、一枠に接触、さらに一枠が六枠に接触、空いた中を七枠が突く!

先頭代わって二枠サケスイアツ。

各竜、跳躍台を飛越。

全竜一斉に潜航。

再浮上し、最後の反転角へ突入!

二枠、七枠急旋回、三枠、六枠、一枠が外!

最後の追い比べ!

サケスイアツをユキノリュウヒョウが追う!

ダランデダリヤ、サケセンコクもじりじりと差を詰める!

サケスイアツ逃げ切れるか!

ユキノリュウヒョウの伸びが良い!

ユキノリュウヒョウ並んだ!

サケスイアツか!

ユキノリュウヒョウか!

二頭並んで終着!

ここからでは全くわかりません!

ここからではどちらが勝ったか全くわかりませんでした!

――


 わあわあという歓声だけが騎手たちの耳に入ってくる。

 騎手たちがゆっくりと向正面を泳がせている。電光掲示板には終着時の写真が表示されている。水中にいるためよくわからないが、漆黒の『サケスイアツ』と純白の『ユキノリュウヒョウ』が並んでいる。三着と四着も並んでいる。着順掲示板には五着の五枠『サムドリーシカリ』だけを表示。


 着順掲示板が三着に三枠『ダランデダリヤ』、四着に六枠『サケセンコク』を表示。 その瞬間、観客席がどっと沸きたった。だが、まだ一着と二着が表示していない。


 向正面中央付近で『サケスイアツ』の畠山騎手と『ユキノリュウヒョウ』の蒲生騎手が並んで掲示板を凝視している。

 既に電光掲示板には三度目となる終着の映像が流れている。


 検量室でも、最上会長、岡部、成田会長、高山が横一列になって中継画面を凝視している。


 次の瞬間、観客席から衝撃波のようなものが飛んできた。周囲にいた鳥たちが驚いて一斉に飛び立つ。

 着順掲示板の一着に七枠『ユキノリュウヒョウ』が表示された。

 その瞬間、成田と師岡が感極まってぼろぼろと涙を流し、高山も瞳を閉じて顔を上げた。

 最上が成田に握手を求める。岡部も高山の肩に手を置いた。


 蒲生が『リュウヒョウ』を泳がせる。一頭だけで正面直線まで行き、そこで泳ぎを止め、特別観覧席に向けて丁寧にお辞儀。その瞬間観客席から大歓声が衝撃波と共に飛んできた。


 戻って来た蒲生は号泣であった。そんな蒲生に糟屋が抱き付いた。同じくボロボロに泣いている成田が握手を求める。高山が「よくやってくれた」と労いの声をかけた。その姿に一部の厩務員たちがもらい泣きしている。


 検量を終えると、報道の人が現れて蒲生を連れて行った。すぐに報道の人が戻ってきて、高山も連れて行かた。



――放送席、放送席、『ユキノリュウヒョウ』の蒲生騎手に来ていただきました。

『海王賞』優勝おめでとうございます!


「ありがとうございます!」


――最後、凄い追い比べとなりましたね!


「うちの先生は末脚を鍛えるのが上手ですから、絶対に届くと信じていました!」


――これで来年から伊級ですね!


「はい、念願の伊級です! 高山先生と共に土肥で研修した日がつい昨日のようです。先生を信じて付いて来て良かったと思っています!」


――では、引き続き高山調教師にお話しを伺いたいと思います。優勝おめでとうございます!


「ありがとうございます!」


――戦前は格下だと侮られる場面もありましたが、今の率直な感想をお聞かせいただけますか?


「そうですねえ。そういう輩を見返す事ができて、純粋にしてやったりと思っています」


――先生は薄雪会所属という事ですが、先日、亡くなられた相談役が背を押してくれたという事はあるのでしょうか?


「どうなんでしょうね。もしそうだとしたら、こう言ってあげたいですね。『相談役、見ていてくれましたか? あなたの竜が快挙を成し遂げてくれましたよ』って」


――きっと天国の相談役にも届いた事でしょう。今日は本当におめでとうございます!

以上、『ユキノリュウヒョウ』蒲生騎手と高山調教師でした。

よろしければ、下の☆で応援いただけると嬉しいです。

暖かいご声援、大変励みになりました。

次回作も引き続きお読みいただけましたら嬉しく思います。

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