第30話 会葬
浜名湖入りした日には、『リュウヒョウ』は『さざ波賞』に出して、それから『海王賞』に向けて調整して行こうと首脳陣で話し合っていた。だが、相談役が亡くなってしまった事で、葬儀やら会葬やらと、何かと忙しくなってしまい、それどころでは無くなってしまった。
『シシャモ』の方は条件戦なので出走をさせており、鞍上の蒲生に勘を取り戻させている。
会派の相談役ともなると、葬儀にはとんでもない人数が弔問に訪れる。会派以外の弔問は会葬でという案内がされているのに、会派内だけでも丸一日弔問に費やした。高山厩舎からは高山と倉賀野主任が出席。本社の人たちに混じって焼香をした。
筆頭調教師である高山は会派の取締役。その為、翌月行われた会葬では、会長や大石、佐野といった会派の社長たちと同じ主催側の席に着席。彼らと共に弔辞も読む事になった。
そんな中、成田の弔辞が参列者の涙を誘った。
「『会長になってもらえないか?』そう言われた時、私は『無理です』と断ったんです。『私みたいな若造に務まるわけがない』と言って。だけど相談役は言いましたよね。『私だって無理だって言ったんです』って。『でも、なんとかなりました』って」
無茶は百も承知。すぐにどうこうできるなんて全く思っていない。だけど人というものは不思議なもので、例えヘンテコな服でも、着続けていると変に思わなくなる。人が地位を作るのではなく、地位が人を育てるんだ。だから、最初は会長の椅子に座っている事に違和感を抱かれても、徐々に見慣れてくるし、あなたも会長然としてくる。人というのはそういうものだと説得をされた。
会長職を引き受けてからは、何かと言うと「お爺さんに会うのに何か一つでも土産話が無いと」と言われた。今にして思えば、あの頃から相談役は体調がすぐれなかったのだろう。それを聞く度に私は「もうすぐ高山先生が伊級に上がるから、それを土産にして欲しい」と言っていた。相談役は毎回嬉しそうに「お爺さんに自慢ができる」と笑っていた。
「史上初、世代竜による『蹄神賞』制覇。その日、夢を見たそうですね。豊氏会長が現れて『ようやった。これで薄雪会は安泰だ』そう言って褒めてくれたそうですね。だけど、できる事ならもう一年頑張って欲しかった。高山先生が伊級に昇級するのを見届けて欲しかった」
そこまで喋ると、成田は感極まって泣き出してしまった。恐らくまだ原稿はあっただろうに、そのまま下がってしまった。
◇◇◇
月日は過ぎて八月。止級が始まった頃は六月で、外気はジメジメしていただけだったのだが、すっかり熱を帯びて蒸し暑い。季節は盛夏。
いよいよ止級最大の祭典『海王賞』の月となった。
海外からは二人の調教師が参戦。一人はパルサのマフムード・アル・ザハビー調教師。もう一人はデカンのナラシンハ・マトゥーラ調教師。
岡部がゴールで『グランプリ』に勝利してから、主三国、準三国という特別枠は撤廃となっている。海外遠征した竜は全て最終予選からの出走。その代わり、国内の最高峰の競争で三着以内に入った竜しか遠征できないという規約になった。
さすがに国際競争、しかも国際三冠の一冠、予選一からほぼ全てが伊級調教師の竜。呂級調教師の竜は高山の『ユキノリュウヒョウ』と内田の『サケシンド』のみ。
当然のように『リュウヒョウ』の人気は低かった。内田の『サケシンド』は最低人気だったのに対し、『リュウヒョウ』が六番人気だったのは、単に珍しい白肌だからというだけだろう。だが、そんな前評判を覆し、『ユキノリュウヒョウ』も『サケシンド』も予選一を楽々突破。
続く予選二。
さすがに予選一ほど楽ではなかったが、それでも二頭共に突破。
ここから先、最終予選からは全てが浜名湖での開催となる。そのため、西国の竜は浜名湖に輸送しないといけない。最終予選を前に、西国の有名どころの調教師と共に、続々と竜たちが輸送されてきた。伊東、国重、秋山、松井、池田、松永、そして岡部。伊級でも上位で活躍している、いわば競竜界の頂点を争う調教師たちが、浜名湖に集結している。
迎え撃つ東国も、藤田、織田、十市、櫛橋、宇喜多、平賀、松平、松本、櫛橋とこちらも伊級上位の調教師が全て残っている。
そんな中で、ただ二人、高山と内田だけが呂級。
新聞が最も注目しているのは、先日『ジーベックステークス』を勝利したアル・ザハビーの『ダランデダリヤ』。短距離も長距離も惜しい着ばかりだったのだが、中距離で勝利してからは全戦全勝。すでに開催が通年化したパルサで、これまで圧倒的な強さを誇っている。
同じく通年化しているデカンの竜『サムドリーシカリ』は短距離竜で、ここまで七戦して全勝。こちらもデカンでは圧倒的な強さを誇っている。
対して瑞穂は、岡部の『サケスイアツ』と櫛橋の『サケセンコク』が注目視されている。『サケスイアツ』はすでに前哨戦の『藤波賞』を勝っている。一方の『サケセンコク』は『海王賞』直行なのだが、昨年の『海王賞』で二着しており、今年は昨年よりさらに成長していて、かなり期待ができそうと記事には書かれている。
両者共に、勝てばデカンの『ナーガステークス』への挑戦を表明している。
最終予選の竜柱が発表になると、高山厩舎では戦慄が走った。同じ競争に国重の『ニヒキハネモ』、藤田の『イナホイセ』、松平の『タケノインノシマ』が記載されていたのだった。いずれも止級では実績のある厩舎。そして、決勝への椅子はわずか二脚のみ。
当然のように最低人気の『リュウヒョウ』だったが、持ち前の推進力で発走は三番手。
そこから蒲生は、並み居る伊級の最高峰の騎手たちと互角に渡り合った。だが、なかなか前の二頭、国重の『ニヒキハネモ』と、藤田の『イナホイセ』が抜けない。さらに松平の『タケノインノシマ』がすぐ隣にいる。
最終の反転角で急旋回を決め、そこからの急加速で前の二頭に追いついたものの、三頭並んで終着という感じであった。
着順掲示板を蒲生がじっと凝視。『ニヒキハネモ』の折井騎手、『イナホイセ』の松田騎手もその場に止まって掲示板を凝視している。
終着時の写真が表示される。だが、それでも三頭横並びにしか見えない。
次の瞬間、観客席から「うわっ!」という大歓声が沸き起こった。一着に『ニヒキハネモ』、二着に『ユキノリュウヒョウ』を表示したのだった。
思わず両拳を握りしめ「おっしゃっ!」と叫んだ蒲生に、折井が声をかけた。
「おいおい、蒲生。まだ最終予選やで。その喜びは次の決勝まで取っとけよ」
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