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【完結】競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
呂級編

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第28話 蹄神賞

 夜の八時が近づいてきている。

 幕府競竜場には、例年の『蹄神賞』の決勝より、明らかに多くの観客が詰めかけている。


 小雨がぱらつく下見所では『エゾリス』の手綱を師岡が、『シマエナガ』の手綱を豊島が持って曳いている。照明に照らされ、雨に濡れた竜体がキラキラと輝く。白毛の『シマエナガ』は銀色に輝き、月毛の『エゾリス』も銀色に輝いているが、そこに金色を混ぜたような輝き。


 『ユキノエゾリス』は三枠六番、現在五番人気。

 『ユキノシマエナガ』はお隣四枠七番、現在一番人気。

 二番人気は『立春賞』二着の『サケハヤシモ』、六枠十二番。

 三番人気は『立春賞』で四角手前で致命的な不利を受けて着外に沈んだ『マツカサレップウ』、七枠十三番。

 四番人気は二年前の『瑞穂優駿』勝ち竜『ジョウエンピ』、五枠九番。


 直前で『エゾリス』が熱発を発症したという情報から、日程的に限界が来ているというのが新聞の全体的な論調となっていて、そのせいで少し人気を落としているという印象。


 騎手が下見所に現れ、駆け足で竜の元へと向かう。厩務員が鞍にかけられた合羽を取り除き、騎手を竜の背へと乗せた。

 柿崎が『エゾリス』の首筋をポンポンと叩く。それを受けて『エゾリス』が甘えて顔を師岡に寄せる。


「これを元気が無いとみるか、いつもより落ち着いてると見るか。判断が難しいところだな」


「私は落ち着いていると見ているんですけどね。いつもはどこかチャカチャカした感じですけど、今日は歩様もしっかりしている気がするんです」


「いつも見てる師岡ちゃんがそう言うんなら、きっとそうなんだろう」


 柿崎が『エゾリス』を歩かせると、隣に『シマエナガ』の蒲生が寄って来た。そこから二頭並んで競技場へ向かって行った。


 発走者が現れ赤い小さな旗を振る。発走曲が競竜場に響き渡り大歓声が巻き起こった。観客席に向けられていた照明の一部が競技場へと向けられる。



――

本日の大一番。

古竜中距離戦の二戦目『蹄神賞』決勝。まもなく発走の時刻となります。

天候は小雨、芝状態は稍重。

今年、ついに六歳の世代竜が初めて決勝に残りました。

『ユキノエゾリス』果たしてどんな走りを見せてくれるのか。


各竜、順次発走機に収まっていきます。

おっと、クレナイヤクシが発走機入りを嫌がっています。

係員が後方から追い立てて発走機入りを促していきます。

クレナイヤクシ、発走機に収まりました。

全ての竜が収まり体勢完了。

発走しました!

ぽんと飛び出したユキノエゾリス。

エイユウナカツカサも発走は良い。

何が行くでしょうか。

ユキノエゾリスがそのまま先頭を行くようです。

サケハヤシモ、エイユウナカツカサがすぐ後ろを追走。

サケゼンセン、チクウンモ、内サラソウジュ、外タケノタカツジ、内クレナイテンピョウ、外クレナイヤクシ。

少し離れてジョウムガイ、カナモクロク、内タケノレイゼイ、チクコクヨウ。

内ジョウエンピ、外マツカサレップウ、キキョウフゲン。

そこからさらに下がってユキノシマエナガ、最後方にロクモンロクハラ。

全十八頭、向正面直線を進みます。

隊列は若干縦長です。

前半の時計が出ました。

時計は平均です。

各竜三角を回って、曲線に入っています。

徐々に各竜が間を詰めて、一団となり始めています。

ここでユキノエゾリス、後続を突き放しにかかりました!

四角回って最後の直線!

あっと、クレナイヤクシが内に刺さった!

審議の青灯が点灯!

先頭ユキノエゾリス後続を引き離す!

サケハヤシモが懸命に追う!

外からサケゼンセン!

ユキノエゾリス独走か!

直線残り半分!

ジョウエンピとマツカサレップウが大外を駆け上がってくる。

マツカサレップウの脚色が良い!

ユキノエゾリスは一杯か!

サケハヤシモ、ユキノエゾリスに並びかけた!

来た、来た、来た!

大外一気にユキノシマエナガ!

先頭代わってサケハヤシモ!

マツカサレップウが並びかける!

直線残りわずか!

ユキノエゾリスがもう一伸び!

ユキノエゾリス意地を見せる!

大外一気にユキノシマエナガ!

ユキノシマエナガが脚を伸ばす!

ユキノエゾリスが粘る!

ユキノシマエナガが迫る!

二頭並んで終着!

やや体制はユキノシマエナガ有利に見えましたが、どうでしょうか?

――


 掲示板には一着と二着が写真判定となっている。さらに三着と四着も写真判定となっている。表示されているのは五着の九『ジョウエンピ』のみ。


 場内に放送が流れる。どうやら、直線に向かう場面で『タケノレイゼイ』の進路が狭くなった事に対する審議が行われているらしい。


「『エゾリス』は凄か竜やね。あんだけ話題になりながら、きっちり結果ば出して来るっち、たいしたもんばい」


「正直な事を言うと、熱発は致命的な気がしたんだよね。竜体重も大きく減っちゃったし。でも、気力で乗り越えてくれたよ。秋は走らせず、このまま引退だろうな」


「そうとね。まだまだやれそうっちゃ思うけん、ちぃと勿体なか気もするね」


 内田とそんな風に話をしていると、竜主席から成田が下りて来た。

 成田は感動で涙目になっており、無言で高山に抱き付いた。感動で言葉が見つからないらしい。そんな成田の背をポンポンと叩く高山も、また無言。


 そこに続々と競争を終えた竜たちが帰って来た。


 すると突然、観客席から大歓声が沸き起こった。

 検量室に係員が現れ着順掲示板に番号を書いていく。まずは四着に十三『マツカサレップウ』、次いで三着に十二『サケハヤシモ』を記載。その後、二着に七『ユキノシマエナガ』、一着に『ユキノエゾリス』を記載。それを見て、検量室でも「おお!」という歓声があがった。


 史上初、世代竜による『蹄神賞』制覇の瞬間であった。


 検量を終えた蒲生が酷く悔しそうな顔をしており、それを柿崎が煽っている。長野騎手がおめでとうと言って柿崎と握手を交わしている。


 感極まった師岡が『エゾリス』の前で号泣しており、豊島が座り込んだら蹴られるから危ないと冷静に指導している。


 二頭の竜を見て、成田の頬を涙が伝った。


「先生、ありがとうざいました。相談役に……いえ、祖母に最高の報告ができます」

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