第27話 東西重賞
全竜一団となって四角を回りました!
チクシンシャ逃げる!
チクシンシャが二竜身ほど前!
ハナビシホネオウギが徐々に差を詰める!
チクシンシャ、軽快に内を逃げる!
サケカイライが来た!
サケカイライが一気に外を上がってくる!
だがチクシンシャの脚色が良い!
直線残り半分。
ハナビシホネオウギが一気に差を詰める。
チクシンシャは一杯か!
外からサケカイライがハナビシホネオウギに並びかける!
おっと、一頭大外を駆けあがってくる!
ユキノペテガリだ!
ユキノペテガリが一気に大外を駆けあがって来た。
直線残りわずか!
ユキノペテガリ、届くのか!
先頭まだチクシンシャ!
その横にハナビシホネオウギ!
ユキノペテガリ凄い脚だ!
ユキノペテガリ、サケカイライを捕らえた!
ユキノペテガリ、先頭に並びかける!
抜けた!
ユキノペテガリが抜けた!
ユキノペテガリ、先頭で終着板を駆け抜けた!
見事な殿一気、世代で最も速い竜はこの竜、ユキノペテガリ!
――
競技場では『ユキノペテガリ』を蒲生がゆっくりと走らせている。
前日まで、『新月賞』を勝った『ユキノペテガリ』と、『新竜賞』を勝った相良厩舎の『チクシンシャ』、どちらが強いのかという議論が白熱していた。興味深い事に、ここまで『チクシンシャ』は全て逃げ切り勝ち。一方の『ユキノペテガリ』は全て後方一気。大方の予想は、前を行く『チクシンシャ』が圧倒的に有利で、『ユキノペテガリ』は追いつけないだろうというものだった。
そのせいか、一番人気は『チクシンシャ』。二番人気は最終予選で直線抜け出しの横綱姿勢で勝ち上がった内田厩舎の『サケカイライ』。三番人気は『新竜賞』で『チクシンシャ』と叩き合った『ハナビシホネオウギ』。『ユキノペテガリ』は大きく人気を落として五番人気であった。
「くそっ! あれが届くんかいな! なんや、あのえっぐい脚は!」
「ほんまやな。新聞読んで、うちもちと期待しとったんやけどな。何の事は無い。向こうは全然詰んどる内燃が違ったわ」
「内田君がこっち来ん言うてた訳がようわかったわ。普通にバケモンやんけ」
相良調教師と『ハナビシホネオウギ』の武田調教師が大声で悔しさを吐き出している。そんな二人と同様に厩務員たちもがっかりした顔で『チクシンシャ』たちを出迎えた。
「また息子さんにチクチク言われてまいますね」と、厩務員が武田に声をかける。武田は『ハナビシホネオウギ』の首筋を撫で、小さくため息を付いた。
その後、皇都で『内大臣賞』が発走となった。『ユキノタンチョウ』に柿崎が、『ユキノサロマ』は先輩の杉目から田原騎手を借りて出走してもらった。
四角で『ユキノサロマ』は『サケウラカゼ』と一緒に先頭に踊り出たのだが、残念ながらそこからの末脚勝負で歯が立たず後退。先頭を行く『サケウラカゼ』は、一旦は『クレナイスザク』に並びかけられたものの、すぐに引き剥がし伸びて行く。
『ユキノタンチョウ』も直線でかなり伸びたのだが、四着止まりだった。
◇◇◇
月が替わり四月。
いよいよ、高山厩舎最大の挑戦が始まった。
昨年の十一月、『ユキノエゾリス』は中距離の新竜戦に出走。その時点では走破時計も平凡で、何の話題にも上らなかった。単に外国産の竜が新竜戦に勝ったというだけ。
一月休んで一月。同じく中距離の能力戦に出走。ここでも何の話題にもならなかった。いくら能力戦を勝っても『瑞穂優駿』の出走資格が得られずかわいそう。そういう声がちらほら聞こえた程度。
翌二月。『ユキノエゾリス』の名が広く知られ始めたのはここからであった。
能力戦二に出走し、並み居る古竜を跳ねのけて見事に勝利。この時から、「もしかして『蹄神賞』に出すつもりなのでは?」と噂されるようになった。
そして先月。能力戦三に勝利し、見事古竜重賞への出走資格を得た。
だが、ここまで三月連続の出走。しかもここからは一月で三戦しないといけない。よほど体が頑丈でなければ、途中で故障してしまうだろう。
これまで世代竜が『蹄神賞』に出走した例が無いわけではない。ただし、片手で事足りる程度しか無い。だがそのいずれも予選で古竜の壁に阻まれてしまっている。
そのため、予選を突破できたら、それだけで快挙だと新聞は書き立てている。
一週目の水曜日、竜柱が事務棟から各厩舎に配られた。それを見た高山は思わず拳を握りしめた。呂級の開催は木曜日と金曜日。木曜日の最初の競争に『ユキノエゾリス』の名があった。
これで一週休める。そう厩務員たちも言い合った。
だが、もちろん勝たなければ意味が無い。
発走した『エゾリス』は、一頭ぽんと良い飛び出しをし、そのまま先頭に躍り出た。
道中後続を引き連れる状態で進み、四角を過ぎてから加速開始。軽い斤量を活かして、見事逃げ切り勝ちを収めた。
一週あけて、最終予選。
ここで世代竜に勝たせるわけにはいかないと思ったのか、他の竜たちが先頭を走る『エゾリス』に何度も並びかけて来た。そのせいで全体的に非常に流れが早くなった。
ところが『エゾリス』は直線に入ると、早い流れでバテてしまった他竜を嘲笑うように置き去りにして終着。見事に決勝に駒を進めた。
さすがにここまで無理が過ぎたらしい。
最終予選の翌日、『エゾリス』が熱発(=体温が通常より高い)を起こしていると報告があった。
ここで断念か、それとも様子見か。高山は非情に悩んだ。悩んだ末、緊急の会議を開き、厩務員たちの意見を聞く事にした。
厩務員たちの総意は「様子見」。月曜日まで様子を見て、体力が戻らないようなら断念という判断を高山は下した。
ここで諦めてなるものか。そう言い合って豊島と師岡は付きっきりで看病した。その結果、金曜日に発生した熱発は土曜日には治まり、日曜日からは餌もちゃんと元通り食べるようになった。
こうして、金曜日の決勝当日を迎えたのだった。
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