第26話 立春賞
四角を回り最後の直線!
先頭はサケハヤシモ!
サケゼンセンの脚色も良い!
外からはクレナイヤクシ!
内からサラソウジュ!
サケゼンセン、柘植が懸命に追う!
サケハヤシモ、長野が抜かせない!
二頭が先頭を奪い合う!
大外からジョウエンピが迫ってくる!
直線残り半分!
ここで来た!
最後方から大外一気にユキノシマエナガ!
先頭まだサケハヤシモ!
クレナイヤクシはここで一杯か!
ユキノシマエナガが一気に伸びて来る!
ジョウエンピ、前二頭を捕らえた!
残りわずか!
ユキノシマエナガがさらに伸びる!
ユキノシマエナガ、前三頭を捕らえた!
サケハヤシモがもう一伸び!
サケハヤシモ、ユキノシマエナガ、激しい叩き合い!
ユキノシマエナガが抜けた!
ユキノシマエナガ終着!
古竜中距離戦の初戦は優駿竜ユキノシマエナガが戴冠!
――
蒲生がゆっくりと『シマエナガ』と共に競技場を走っている。照明の明かりで純白の竜体が美しく光輝く。その姿に観客が大声援を送っている。心なしか、いつもより歓声の声が高い気がする。『シマエナガ』は女性の人気が高いそうなので、恐らくは今日の観客席はいつもより女性が多いのだろう。
「やられたばい。完敗ったい。うちん『ハヤシモ』も『皇后賞』ん時からだいぶ鍛えとったっちゃけどなぁ。そいにしても見事な末脚やったばい!」
内田が高山の肩をポンと叩いた。
「なかなか引き下がってくれないから、内心冷や冷やしてたよ。古竜の中距離は三戦だからな。次の『蹄神賞』に向けて鍛え直さないと、このままじゃあ逆転されちまうかもしれない」
「うちも負けたまんまじゃおられんけんね。明日から鍛え直しばい。で、次はいつね? 来月んどっちかは決勝まで残れそうと?」
「『内大臣賞』は残れるだろうけど、それ止まりだろうね。もちろん『上巳賞』は取りに行くよ」
そう高山が言ったところで、続々と竜たちが検量室に戻って来た。
「ほんなら『内大臣賞』はうちがありがたくいただくばい。来月は幕府には来やろうけん、次に会うとは『蹄神賞』やね」
そう言うと内田は手を振って、『サケハヤシモ』と長野騎手の元へ向かった。
代わりに新婚ほやほやの成田が竜主席からやってきて、いきなり高山に抱き付いた。後ろには妻の百合がニコニコ顔で立っている。
「私たちの結婚を、ちゃんとこうやって祝福してくれるんですから。さすがは高山先生ですよ!」
「あ、えっと……そ、そうですね! 奥様の名が百合さんですから、白毛の竜で勝ってみせたんですよ」
「おっ! 嬉しいですね! 妻にまで気を使っていただいて」
あからさまなおべっかを使った高山を、厩務員の稲毛が背を向けて笑っている。百合も愛想笑いを浮かべる高山を見てくすくす笑っている。
「まあ、冗談はさておき」
「えっ、冗談だったんですか?」
高山と成田が軽く首を傾げて見つめ合う。その二人の反応に稲毛と百合が大爆笑。
「冗談はさておき、相談役が元気なうちに、一つでも相談役の竜で勝ち星を挙げたいって思ってましたから、勝てて嬉しいですよ」
「ああ、そうですね……相談役、もうずっと入院したままになっちゃいましたからね」
「来月は『エゾリス』で重賞と同じくらい話題をかっさらってやります。そして再来月には……」
『エゾリス』を『蹄神賞』に挑戦させるという方針は成田も聞いている。それが日程的に相当無茶な事だという事も重々承知している。さらに竜にかなりの負担がかかるという事も聞いている。それでも相談役が元気なうちにと言われ、成田も渋々承諾した。
「で、どうなんですか? ここまでの経過は」
「年始に体調を崩したのみで、極めて順調ですよ。ここまではほとんど疲れという疲れは見せてません。ただ、重賞は一月で三戦ですから、それが耐えられるかどうかですね」
二人無言で頷き合う。それまで笑っていた稲毛も、急に真剣な表情に変わった。その稲毛の表情の変化で、かなり困難な事に挑戦しているらしいという事を百合も察した。
そこに勝った『シマエナガ』と蒲生が戻って来た。
◇◇◇
月が替わり三月。
『内大臣賞』と『上巳賞』に、高山厩舎の三頭の竜が挑戦。『タンチョウ』と『サロマ』が『内大臣賞』に、『ペテガリ』が『上巳賞』に挑戦している。
一週目に『タンチョウ』と『ペテガリ』が勝利し、最終予選に駒を進め、その翌週に『サロマ』が予選に出走する事になった。
その二つ前の競争に『エゾリス』が出走する事になった。競争名は『六歳以上能力戦三』。だが、基本的にこんな時期に六歳の竜が能力戦三に出走する事など無い。勝てば六歳という世代戦の竜でも、古竜重賞に参戦できる。新聞はこの極めて珍しい挑戦を大々的に報じた。
普段であれば、決勝の日以外はそこまで観戦者がいるわけではない。だがこの日は満員に近い観客が幕府競竜場に詰めかけていた。
発走した『エゾリス』は、これまでのような後方策ではなく、果敢に先頭に立った。
想定よりも末脚が弱いと感じた柿崎は、高山に逃げでいきたいと申告。高山も同様に思っていたようで、ならば試してみようとなった。
十三頭を引き連れて向正面から三角へ。曲線に入ると一気に後続が並びかけて来る。曲線半ばから柿崎は徐々に徐々に『エゾリス』に速度を上げさせた。
四角を回り最後の直線に入ると、『エゾリス』は一気に後続を引き離した。元々斤量が軽い関係で直線では他竜より粘りが効く。最後まで後続との差は縮まらず、悠々と先頭で終着板を駆け抜けた。
翌週、最終予選の竜柱が発表になった日、高山は記者会見を受け入れた。
「『エゾリス』を『蹄神賞』に挑戦させます。『シマエナガ』とどちらが強いのか、二頭の走りが今から楽しみです」
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