第24話 皇都大賞典
四角を回り最後の直線へと入りました!
おっとクレナイスザクが内に垂れた!
ユキノタンチョウ、柿崎が後ろに下げる!
審議の青灯が点灯!
先頭はサケウラカゼ!
その外ジョウホムラ!
外から一気にハナビシトリイ!
内からニヒキタイシャク!
直線半分を過ぎた!
サケウラカゼが先頭を譲らない!
大外から一気にマツカサレンザンとサケサロマ!
ここで急坂に差し掛かる!
後続が一気に差を詰める!
坂を上りきり、残りわずか!
マツカサレンザン、前を捕らえた!
サケウラカゼ粘る!
ジョウホムラが差し返す!
抜けた、抜けた、マツカサレンザンが抜けた!
マツカサレンザン、今、先頭で終着板に到達!
今年最後はこの竜! 長距離王マツカサレンザン!
――
「うっしゃぁ! おらぁぁぁぁ!」
終着した瞬間、内ケ島の雄叫びが検量室に響き渡った。隣では三渕会長が両拳を固く握りしめて勝利を噛みしめている。
赤根会としては、創設以来初の伊級調教師の誕生。それも呂級を首位突破。三渕会長としても、こんなに嬉しい事は無いであろう。
『南条調教師しかいない会派』『万年最下位』『明日にも消える会派』赤根会は、これまで散々に言われ続けてきた。だが、三年前に最下位を脱してから、徐々に順位を上げている。それが、最近では注目の会派と言ってくれる人までいる。そんな事をぶつぶつと呟き、三渕会長はほろりと涙を零した。
興奮冷めやらぬという感じの内ケ島がくるりと振り返り、高山と内田の肩に手を置いた。
「先に行って待ってるから。来年ちゃんと上がってくるんやで。俺たちは三連星なんやから。高山はあの不利が無かったら二頭とも掲示板やった。内田はうちのがおらへんかったら勝てるやろ。来年二人で重賞を総舐めにしたってくれ!」
内田と高山はちらりとお互いの表情を確認し、無言で頷いた。
◇◇◇
翌日の夜、大井町駅近くの行きつけの居酒屋『すずらん』で忘年会を開く事になった。
当初は厩舎だけでささやかな忘年会のはずだった。ところが忘年会の打ち合わせをしていた所に、成田会長と筆頭秘書の遠山が年末の挨拶にやってきてしまった。当然のように話を聞かれてしまう。すると二人は自分たちも参加させろと言ってきたのだった。
厩舎の忘年会ごときに会長にお越しいただくわけにはいかないと、高山はやんわりと断っていた。だが、それが倉賀野主任には気に入らなかったらしい。すっといなくなったと思ったら、師岡と一緒に帰ってきやがった。
「先生、会長さんがいらしてくださったら料理の質が一つも二つも上がるんですよ? 何の不満があるんです? 良いじゃないですか。いらしていただきましょうよ」
「師岡、お前ねえ。会長をお財布扱いするんじゃないよ!」
「財布扱いなんてしません。せっかくこうして会長さんが私たちと呑みたいっておっしゃってくださってるんですよ? 嬉しい事じゃありませんか!」
成田と遠山まで「そうだそうだ」と乗っかってしまい、結局参加する事になったのだった。
高山の挨拶、会長の挨拶、その後、乾杯の音頭を倉賀野が取り、豪勢な食事を肴に忘年会は始まった。
ある程度お酒が入ると、遠山が急に愚痴を言い始めた。
「聞いてくださいよ、先生。北国海洋開発に連合警察の捜査が入れないっていうんですよ。共犯なのは明らかなのに、馬鹿げてる! 俺は未だに納得がいきませんね」
「あれから情報が出なくなったと思ったら、やっぱりそんな話になってるんですか」
「ここだけの話ですけどね。あの会社の後ろに『六花会』って反社が付いてるらしいんですよ。しかも北国議会、連合議会にも馴染みの議員がいるらしくって。今回もどうやら議員経由で警察に揉み消しをしてきたらしいです」
瓶を傾けて麦酒を注いできた遠山に、高山はため息で返した。
「正直、古河牧場で話を聞いた時、そうなるんじゃないかって思ってました。で、生産監査会の方はどうなったんですか? そっちも話が聞こえてこなくなりましたけど」
「あの機関は、支部はともかく本部は天下りの職員でいっぱいですからね。当然のように隠蔽の方針ですよ。報道の興味が無くなるのを黙ってじっと待ってるみたいです。ですけど、竜主会で騒ぎ続けてやりますよ」
「それでも難しいでしょうね。海外からの横やりもあるでしょうから」
その高山の指摘に、成田と遠山が同時に「え?」と声をあげた。
「それはどういう意味ですか? この一件の裏に海外の工作機関がいるって事ですか?」
「それは、どうなんでしょうね。俺が思うに、この一件、恐らく発端は、もっと良い竜をまわせって海外から言われたところからだと思うんですよ。それで、金なら出すからって言われ、それに儲けの臭いを感じちゃったんじゃないかって」
「国内の規約で、現役竜は能力戦級しか海外に輸出できない事になってるから、出してきた金でもそこまで良い竜はまわせない。ならば安い竜と良い竜をこっそり交換しようとなって、差額を自分の懐にってなったわけですか」
二人の会話に、なるほどと頷きながら、成田は麦酒をくいっと飲んだ。あくまで推測に過ぎないと高山は言うのだが、遠山も筋は通っていると納得の表情であった。
「今の話だと、この話は稲妻牧場の社員と事務長を何人か逮捕しただけで幕引きという事になってしまいそうなんですか?」
「現状はそんな雰囲気を感じますね。ですけど、私たちにも馴染みの政治家というのがいますから、あの海運会社を直接糾弾できなくても、捜査を打ち切ろうとしている連合警察の方を糾弾してもらいます」
「会長。この件は浜名湖で厩務員が一人殺されているんですから、絶対に手は緩めないでくださいね」
話を振られた成田は、ぽんと胸を叩き「任せてください」と微笑んだ。その後麦酒の瓶を持って厩務員に注いで回った。
そんな楽しそうな成田を見て、遠山が鼻を鳴らす。
「先生。会長ですがね、近々結婚するそうですよ」
「例の紅藍牧場のお嬢さんですか?」
「ええ。余程気に入ったんでしょうね。会長、あのお嬢さんを小田原に呼んだんですよ。どうやら、そのまま同棲しちゃってるみたいです」
あまりの急展開に、高山は開いた口が塞がらなかった。
「相談役もこれで一安心ですね」
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