第22話 囮捜査
洞爺湖の麓、伊達町の薄雪牧場を発った竜運車が室蘭空港に向けて走っていく。
竜運車は大きなものだと荷台を牽引する形態となるのだが、今回は小型の一体型の輸送車。車体には薄雪会の文字と会旗が描かれている。その荷台には短期放牧していた『ユキノオキクルミ』一頭だけが乗せられている。
西国の竜だと室蘭空港から福原空港へ空輸される。だが、『オキクルミ』は東国石川厩舎の竜、そのまま空港を通り過ぎ、その先の苫小牧港へ向かった。
空輸の場合、重い竜運車ごと輸送というわけにはいかないので、載せ替えが必要になる。だが、海上輸送の場合、大型輸送船に他の荷物や乗客と共に車ごと乗せられる。
苫小牧港に到着したら、受付で申請書を提出し、輸送費を先払い。その後、輸送船の貨物置場に向けて竜運車を進ませる。
「お車の方はこちらに一列にお願いします。停められましたら、船に乗せるのは係員が行いますので、鍵をお預かりします」
契約書、同意書など書類一式の挟まった下敷きと共に、竜運車の鍵を係員に渡す。係員は書類を確認し、念のため竜運車の中を確認。状態を観察し、書類の中の貨物状態書に印を付けていく。
「では、石巻港に着きましたら、お名前をお呼びしますので、それまで船旅をお楽しみください。運転がありますので、くれぐれも飲酒は御自重ください」
定型の案内をして、係員は次の車へと向かって行った。
ボオォォと汽笛を鳴らし、輸送船が出港。
船内の待合室に到着時刻、天気、風の様子、波の予想などが案内される。船内には売店や軽食処まであり、狭いながらも客室の外に出て風を感じる事もできるようになっている。ただし、客室から貨物室へ続く階段は封鎖されていて、降りられないようにされている。
輸送船は苫小牧港を出港し、下北半島の東を航行。船内の案内では八戸の東の沖合を航行中という放送と共に、客室の画面に地図が表示された。
すると一人の船員が一人の乗客と共に、封鎖されている貨物室への階段を降りて行った。
それを見届けて、さらに三人の乗客がこっそりと同じ階段を下りて行った。
「そっちの銀のテープの竜とこっちの金のテープの竜だ。おれは金の方やるから、銀の方を頼む。強引に扱うなよ。暴れられてバレたら俺たちは明日にはフカの餌だからな」
内燃の音にかき消されそうな小声ではあるが、確かにそんな声が貨物室から聞こえてくる。
二人の男が、実に手際よく、二台の竜運車の詰まれた竜を交換している。
「よし。こっちの鍵はかけた、そっちはどうだ?」
そう言って振り向いた男は、信じられない光景を目にした。相棒の男性が見ず知らずの男に首を裸締めにされ、声が出せないようにされていたのだった。
「証拠は押さえさせてもらったよ。やはり、こういう事だったのか」
「何だお前たちは!」
「俺はその竜を所有する薄雪会の調教師の高山だ。こちらは調教師会長をされている岡部綱一郎先生。それと連合警察の刑事さんだ」
さすがは連合警察、手際が良い。裸締めされていた男性はあっさり気絶させられており、手錠がはめられている。
岡部が目深に被った帽子を取ると、男は腰を抜かさんばかりに驚き、ぷるぷると震える指で岡部を指差した。
「そ、そんな、ゆ、有名な岡部調教師が、こんなところに、な、何の用ですか? 俺はここで荷物の点検をしていただけで――」
「ほう。じゃあ、なんで薄雪会さんの『ユキノオキクルミ』がこちらの雷雲会さんの会旗の描かれた竜運車に積まれているんです? それと、その手にしている鍵はなんですか? そのあたり、どう言い訳するつもりですか?」
岡部が犯人の手にしている鍵の束を指差して睨みつける。すかさず連合警察の刑事が「公正競争違反の現行犯だ」と通告。
高山、岡部、連合警察、三人から詰め寄られ、焦った男は逃走を図ろうと降りて来た階段とは別の階段に向かって走った。だが、階段を上がったところで何者かに蹴り落とされてしまい、そのまま取り押さえられてしまった。
「誰か知らんが、よくも稲妻の看板を汚してくれたもんやな! 石巻に着いたら洗いざらい吐いてもらうからな!」
「あ、秋山先生! なんであなたまでここに?」
「黙れ! コソ泥が気安く俺の名を呼ぶなや!」
秋山が男を殴りつける。それを見た刑事が「暴行罪ですよ」と冷静に秋山に指摘。男に手錠をはめ、気を失っている男のところへ連行した。
刑事が気を失った男の背に膝を当て、両肩をくいっと後ろに引っ張ると、男は意識を取り戻した。
「名前を名乗っていただきましょうか」
二人に岡部がたずねた時であった。急に客室の方から騒ぎ声が聞こえてきた。
閉鎖されている階段を一人の男性が慌てて駆けおりてくる。
「岡部! 大変だ! 例の生産監査会の奴が船から飛び降りやがった!」
「ちょっと、十市さん! 見張っててくださいって言ったじゃないですか!」
「見張ってたよ! 鞄を持ったまま席を立ったから押さえようとしたら、振り切って逃げられちまったんだよ! そんで、そのまま鞄抱えて海に飛び込みやがったんだ!」
その十市の報告を聞き、手錠をかけられた二人の顔がみるみる青ざめていく。ガチガチと歯を鳴らし、完全に怯えきっている。
「船が着くまで、この二人はどこかの部屋に監禁しておく方が良いでしょうね。同じように海に飛び込んで自殺されたらたまらないし、まだ他に仲間がいて救出に来るかもしれませんからね」
高山の指摘を受け、刑事は犯人の二人を竜運車の運転席に監禁した。
こうして、船は石巻港へと到着。
港には連合警察の警察官が数人と三浦調教師、石川調教師が待っていた。
輸送船から乗客の車が次々と降ろされている。その傍らでは、警察官同士で報告を行い、犯人の二人を近くの警察署へ連行しようという話をしていた。
警察車両に犯人を乗せようとしていた時であった。
突然、船から降ろされていた車の一台が、キュルキュルと音を立てて、犯人の一人に向かって真っすぐ突っ込んで来た。警察官は共に逃げようと犯人を引っ張っているのだが、抵抗していて動こうとしない。そこに暴走した車が突っ込んだ。
間一髪警察官は逃げたのだが、犯人の一人は警察車両と暴走車に挟まれて即死。暴走車はそのまま真っ直ぐ海に向かって走って行った。なぜか海に飛び込む前に車が不自然に爆発。慌てて消火活動をしたのだが、乗っていた人物は丸焦げであった。
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