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【完結】競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
呂級編

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第20話 十市調教師

 じりじりと日差しが照り付ける八月。止級の最大の競争である『海王賞』の月がやってきた。

 残念ながら、高山厩舎はまだ二頭共に自己条件戦を戦っている最中。そのうちの一頭『リュウヒョウ』が一週目に能力戦三に出走した。


 止級は伊級と呂級の合同で行われる。だが両者には何の差別化もされていない。その関係で呂級厩舎所属の竜は非常に勝ちづらい。能力戦でも伊級厩舎所属というだけで人気になるし、実際人気通りになる事が多い。なので、自己条件戦も三まで来ると呂級厩舎の竜はぐっと数が減ってしまう。出ても一頭。全てが伊級厩舎の竜という事も珍しくない。


 そんな状況の中、三番人気に推された『リュウヒョウ』は非常に注目を浴びる事になった。それについて伊級の調教師たちは「珍しい白肌だから」と言い合っていた。

 発走前の展示泳走でも白肌というだけで、観客席から歓声が沸く。神々しいと拝む姿がちらほらと見える。展示泳走での泳ぎだけを見ても、好気配だと感じた者が多かったようで、三番人気は変わらないが、その倍率はかなり下がった。だが、一番人気の竜は断トツの人気であった。


 八頭立ての五枠。本来であれば中枠であるから、発走位置は中団を選ぶところだろう。実際、外の六枠の竜はそうした。だが蒲生は後方からの加速発走を選択。しかも外の竜が加速をしているのに加速を始めず、中団の竜たちよりは早いという程度で加速を開始。ところが、そこからぐんぐんと加速し、発走線では周囲に追い付いてしまった。


 当然他の竜より加速が付いている。一角手前で大きく内に切り込んで、膨らみ気味に一角を回ると、早くも後続との距離は覆しがたいものとなっていた。結局そのまま四周を先頭で泳ぎ切り、二着に大きく差をつけ圧勝。


 『リュウヒョウ』が終着した時、観客席は大歓声であったが、それとは対照的に検量室は全員言葉を失っていた。


「これだから止級は面白いよな。こういう呂級の逸材が発掘できるんだもん」


 そう言いながら後ろから高山の肩にポンと置く人物がいた。振り返ってその顔を見た高山は、超大物の登場に、驚きのあまり思わず一歩後ずさってしまった。会派順位第二位、紅葉会の筆頭調教師、十市康遠が立っていたのだった。


「高山って誰だろうって思ったけど、最近こぞって新聞が『三名人』って書き始めた、あの高山か。岡部たちの期に匹敵する俊英だって噂の。どおりで」


「いやそんな。『五伯楽』の方々と比べられたら、うちらなんて足元にも及びませんよ」


「同期と呂級で戦えるというだけで凄いんだぞ。他の期を見てみなよ。うちはそれでも吉良君が伊級に上がって来たからマシだけど、中には出世頭が八級なんて期だってあるんだから」


 そんな風に笑っていると検量室に『リュウヒョウ』が帰って来た。その竜体を見て、十市が思わず「おっ!」と声をあげる。


「これは凄いね! これなら今月の『海王賞』に出しても結構良い勝負ができたかもなあ。まだ自己条件なのが惜しいよ」


「仕方ないですよ。去年は新竜戦しか出せなかったんですもん。条件戦は一足飛びってわけにいかないですからね。来年に期待です。十市先生は『海王賞』はどうな感じなんですか?」


「壁が高いんだよな。まず調教師会長殿が席を確保しやがるだろ。さらに松井、松本の五伯楽。そこに櫛橋女史、それでもう半分席が埋まるんだよ。だから、最終予選までは行けるけど、そこから先はなかなか難しいんだ。そこに今年は海外勢も来るってんだから。まいっちゃうよな」


 『リュウヒョウ』をまじまじと観察しながら十市はそんな情けない事を口にした。


「秋山先生もやはり同じ状況なのでしょうか?」


 そうたずねた高山に、十市がぐいっと首を動かして表情を確認した。


「奴も同じような状況だよ。それがどうかしたの?」


「もし最終予選で浜名湖に来るようであれば、少しお話がしたいなって思いまして」


「その感じ、訳ありみたいだね。あいつはこっちに来たら必ずうちに顔を出してくれるから、その時に連絡してあげるよ」


 その時には、そうは言ってもその場だけの話だろうと高山は思っていた。だが、それならそれでも良いと考えていた。そこまで仲が良いのであれば、ふいに思い出した時に慌てて話をしてくれるだろうからと。


 ◇◇◇


 だが十市はちゃんとその話を覚えていてくれていた。

 予選二が終わり、最終予選に出走するために続々と竜が太宰府から輸送されてくる中、高山厩舎の電話が鳴った。


 大急ぎで向かおうとしたのだが、残念ながら十市厩舎の場所が良くわからない。そこで、とりあえず伊級の区画へ行って、その辺にいた調教師を捕まえて場所をたずねる事にした。すると、その調教師は大笑いしながらわざわざ厩舎まで案内してくれた。


「おい、十市。お客さんを連れて来たぞ」


「あ、山県先生! わざわざすみません」


 十市が目の前の男性を『山県』と呼んだ事で、それがかつて竜王と呼ばれた『クレナイアスカ』の調教師だという事に気が付いた。ちょっと声をかけたら有名人。これだから止級は怖い。そんな事を思いながら高山はペコペコと何度も山県に頭を下げた。


 十市に促されるままに事務室に入ると、目の前の応接椅子に細身でやんちゃそうな顔の人物が腰かけて、珈琲を飲んでいた。


 それともう一人。そちらの珈琲を堪能している男に、高山の視線は釘付けとなってしまっている。

 背は騎手上がりのように低く、頻繁に竜に乗るのか、体は筋肉質。首筋に薄っすらと黒い痣が線のように付いている。そして後光に照らされるかのような変な錯覚を覚える偉人特有の威圧感。

 一目見てわかる。『競竜の神』岡部調教師、その人であった。


 それまで岡部と楽しそうに談笑していたらしい秋山が、高山を見て露骨に不快そうな顔をした。


「十市さん、こいつですか。俺に話がある言うてた奴いうんは。いったい何の話があるんやら」


「お前なあ、そうやって初対面の人を威嚇しようとするんじゃないよ。まったく、相変わらず血の気の多い奴だなあ」


「別に威嚇なんてしてませんよ。くだらん話やったら、どついたろうくらいは思うてますけどね」


 かっかっかと豪快に笑う秋山を、十市が呆れ顔で見る。岡部もケタケタと笑っている。高山が顔を引きつらせていると、秋山は「冗談や」と取り繕って、応接椅子に座るように促した。

 だが、高山はそれを拒否した。


「およそ人前で話せるような話ではありません。できれば、どこかで内密に話をしたいんですけど」


 そう述べた高山に、岡部の鋭い視線が突き刺さった。

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