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【完結】競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
呂級編

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第18話 瑞穂優駿

四角を回り最後の直線へと入りました!

先頭はサケハヤシモ、すぐ後ろにジョウエンピ!

内からマツカサレップウも伸びている!

ジョウエンピが足を伸ばす!

サケハヤシモは一杯か!

マツカサレップウ、じりじりとジョウエンピを追い詰める!

サケハヤシモが再度伸びて来る!

マツカサレップウ、ジョウエンピに並んだ!

前三頭が叩き合う!

来た来た!

最後方から大外一気にユキノシマエナガ!

純白の竜体が大外を駆け上がって来る!

先頭代わってマツカサレップウ!

ユキノシマエナガ、異次元の末脚!

ユキノシマエナガ、一気に前三頭を捕らえた!

抜けた!

先頭ユキノシマエナガ!

直線残りわずか!

ユキノシマエナガ、後続を突き放す!

これは強い!

ユキノシマエナガ完勝!

今年の世代の頂点に立ったのは牝竜ユキノシマエナガ!

――



 照明を浴びながら、『ユキノシマエナガ』を蒲生がゆっくりと走らせる。

 正面にやってくると、純白の竜体が光に照らされ、輝いて光の塊となる。その神々しい姿に観客は大歓声を送った。


 検量室に成田、筆頭秘書の遠山と共に北条相談役がやってきた。その後ろに妻の静花。相談役の横には高山の娘の綾芽。余所行きの桃色のワンピースを身に纏い、相談役の手をその小さな手で掴んでいる。

 ただ、現在の時刻は夜の九時。どうやらかなり睡魔に襲われているらしい。少しぐずったのだろう、鼻が赤い。

 父の姿を見て、だっと駆けてきて、両手を広げて見上げる綾芽。屈んで抱っこしてあげると、ぎゅっと高山の首にしがみついた。

 その姿を見て妻の静花と北条相談役が高山に微笑む。


「お約束通り、『シマエナガ』に重賞を取ってもらいましたよ!」


「素敵です! 一日だけって無理を言って病院を抜け出て来た甲斐があったというものですよ。実は昔からの私の夢だったんですよね。純白の仔で重賞を取るって。それが『優駿』だなんて。こんなに嬉しい事はありませんよ!」


「まだまだ勝ってもらおうと思ってますから、この程度で満足しないでくださいね」


 まるで子供が親に褒めてもらいたい時のように、嬉しそうな態度を取る高山を見て、静花がニコニコと微笑んでいる。そんな高山に北条もご機嫌である。


 そこに蒲生が帰って来た。


「気持ちぃぃぃぃ! 殿一気しんがりいっきはやっぱ最高っすね!」


 竜から降りて、開口一番、蒲生が興奮のままに言った。その声に驚き、綾芽がびくっと体を震わせ、ぎゅっとしがみ付く。「怖くないよ」と声をかけて背中をぽんぽんと叩くのだが、綾芽は高山にしがみ付いたまま。その姿を見て、蒲生が少し冷静になった。


「先生。勝つには勝ちましたけど、かなり疲労が溜まってます。この感じだと、もしかしたら『皇后賞』は間に合わないかもしれないですね」


「そうか。限界寸前だったもんな。いやあ、よくそんな状態であれだけの能力を引き出せたな」


「柿崎さんにしごかれまくった成果ですよ。今日は終始、あの仔と一体になれた気がしています。会心の騎乗ってやつですね」


 にこっと微笑み、蒲生は綾芽の頭を優しく撫でた。その後、鞍を受け取り、成田、北条の順で握手をして検量へと向かって行った。



 どうやらそこで綾芽の眠気が限界になってしまったらしい。高山が抱っこしていると急に泣き出してしまった。

 子供の鳴き声を聞くと竜は暴れてしまう。それを北条から聞いた静花が、綾芽を抱っこして、すぐに検量室から離れて待機所へ向かった。


 綾芽はそのまま夢の世界の住人と化してしまったらしい。本当なら北条と手を結びながら写真を撮る予定だったのだが、静花の腕に抱っこされたまま口取り式に現れた。その状態で相談役と手を結び、寝顔を写真に撮られる事になってしまったのだった。


 ◇◇◇


 翌日、夕方から浜松の大宿で祝賀会が開かれた。

 呂級に昇級して最初の重賞が『瑞穂優駿』とあって、参列者の話題はその先の話、伊級へと飛んでいる。恐らくはそういう話をしたいと思っていたのだろう。南国の牧場長の佐野俊綱も駆けつけた。


 佐野は相談役の夫、北条豊氏の弟氏俊の娘、華絵の夫である。相談役からみれば姪の夫だが、成田からするとかなり遠縁。

 華絵の兄の北条氏雄は薄雪会の柱の会社の一つ『薄雪商事』の社長を務めている。あまり竜主業に興味が無いらしく、会派の役員のくせに竜を一頭も所持していない。祝賀会には出席しているものの、役員だからという事で形だけ。


 祝賀会が始まると、佐野が大石と一緒に高山の元へやってきた。

 仁級時代、高山は南国の牧場に一度も足を運ぶ事は無かった。その頃は毎日が必死であり、そこまで余裕が無かった。それと、すぐに八級に上がれそうであったため、それほど必要性を感じなかったというのも大きな理由であった。


 大石に紹介され、佐野が握手を求める。その手を高山は笑顔で取った。


「いやあ、噂では聞いておりましたが、昇級二年目で『優駿』を勝つなんてねえ。大したものだ。私も見てましたがね、最後の直線は震えましたね」


 麦酒の瓶を傾けながら佐野が言う。「私も震えた」と大石も上機嫌。すると佐野はその笑顔をすんと消し、急に真顔になった。


「つかぬ事を伺うのですが、高山先生は、伊級はやられる意志はあるのですか? それによっては我々も色々と牧場に手を入れないといけなくなるんですが」


「え? それはどういう? このまま行けば近日中に伊級に上がる事になると思いますけど」


「いえね。ほら、先日、国際競竜協会から止級と呂級の国際競争の話が出たじゃないですか。その件で、新聞に書かれていたんですよ。伊級、呂級、止級で一つか二つを選択する事になるんじゃないかって」


 もしそうなった場合、高山が呂級と止級を選択してしまうと、せっかく牧場で伊級の施設を新築しても、すぐに無駄になってしまいかねないと佐野は説明した。


「なるほど。そういう事情ですか。ならば明言しておきますけど、俺の第一希望は伊級です。以前は漠然とという感じでしたが、あの『グランプリ』の『サケジュエイ』を見て、はっきりと決めました」


「じゃあ、ゆくゆくは海外に?」


「当然です! それは、どの調教師も同じだと思います。まあ、それがいつになるかはわかりませんけどね」


 少年のような茶目っ気のある笑顔を浮かべる高山に、佐野の頬が緩む。


「そういう事でしたら、帰ってすぐに放牧場だけでも整備しないといけませんな」 

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