第17話 黒い関係
個人牧場は古河牧場になんやかやと手数料を取られていて、元々構造上利益が出にくい。そのせいで借金漬けのようになってしまっている牧場も少なくない。
そんな個人牧場で払下げの竜が事前に窃盗されてしまうと、現役の競竜ではないという理由で満足に保険が下りず、資金繰りが急速に悪化してしまう事になる。
元々経営状態が良好ではないため、経営継続の気持ちが折れてしまい、倒産という選択を取られてしまう事になる。
そうなると、貸していた資金は棒引きとなってしまい、古河牧場の経営にも影を落とす事になってしまう。古河牧場としては、経営健全化のために、引退竜の繁殖入りの話を取りやめにするという判断を下さないといけなくなる。
そうなると、購入会派は本来入るはずだった収入が消える事になる。最終的に竜が安く買い叩かれる事になり、個人牧場の経営がさらにさらに悪化する。
たかが一頭の竜の盗難と思われるかもしれないが、そういった流れで負の連鎖が続き、古河牧場の経営の根幹を揺るがす事になってしまうのだと、長沼支部長は滔々と説明した。
「もしかしたら、どこかがうちの牧場を潰すためにやってきてるんでないかと訝しんでしまいますよ。本社は大した問題でないと思っているようですが、いくらなんでも危機意識が薄いんでないかって思いますね。あいつらは現場を知らなさすぎる。本当に腹立たしい!」
長沼は怒りを露わにし、椅子の手すりに拳を叩きつけた。
「長沼さんの方では、この窃盗事件について、何か調査のような事はされてはいないのですか?」
「殊更そんな聞き方をするという事は、高山先生もこの件が単発の事件でないと考えているという事ですか?」
「じゃあ、長沼さんも組織的な犯罪だと」
長沼はコクリとうなづくと、執務机に行き、大きな茶封筒を持って戻って来た。その中から二枚の写真を見せる。どちらも八級の竜の写真。しかもどちらも栗毛。さらによく見ると目の形なども同じ。
「この写真を見比べて、先生は何を感じますか?」
「全兄弟(=両親共に同じ兄弟)……いや、全兄弟でも普通ここまで似ないか。同一の竜なんじゃないんですか?」
「ですよね。私もそう思います。片方はうちの傘下の個人牧場から盗まれた竜の写真。もう片方は……海外に輸出される別の竜の写真です。そして、その竜の元の写真がこれです」
そう言って長沼はもう一枚の竜の写真を机に置いた。同じ栗毛ではあるが、二枚の写真とは似ても似つかない。
「たまたま、どちらもうちの個人牧場産で、写真が手に入ったんです。この輸出される竜は能力戦二級だった竜です。そして、盗まれたのは重賞で最終予選に残った竜です」
「取り違え……」
「そういう疑いが出ますよね。竜障害が盛んになり始めて、海外から練習用の竜の購入依頼が増えているそうで、結構頻繁に生産監査会が品定めに来るんですよ。実はその裏に何やらおかしな企みがあるんでないかって、私は思っているんです」
ここでも出てきた生産監査会の名。遠山と大石は顔を見合わせ、「生産監査会……」と同時に呟いた。
「先生。これって、先生の言っていた推測を裏付ける事になったんじゃないですか? 先生も取り違えて、本来の竜より良い竜をどこかに送るためじゃないかって言ってましたよね」
遠山がたずねると、高山は腕を組み、じっと三枚の写真を見つめた。
「確かに、それはそうなんですけど、生産監査会だけではこの事は難しいと思うんですよ。最低でも輸送会社を巻き込まないと」
「輸送会社っていうと北国海洋開発ですよね。表沙汰になってはいませんけど、あの会社は真っ黒ですよ。社長の土方が六花会というやくざと繋がっているって苫小牧出身の者が言ってますから」
「え!? そうなんですか? じゃあ、なんで各会派はそんな会社に大切な竜の輸送を任せてなんているだろう。輸送費が安いという話は聞きましたけど、安かろう悪かろうでは意味が無いでしょうに」
その高山の疑問に、大石が一言「儲からないから」と答えた。
「大石さんの一言に尽きるんですよね。竜の輸送というのは頻繁にあるように見えて、思ったほどでは無いんです。港や空港から牧場までの陸路を竜運車で運ぶ程度なら自前でやった方がマシですけど、空路、海路となるとね」
「つまり、一社独占の既得権益になってしまっているという事ですか。そこと生産監査会が裏で繋がって悪事を働いてるとなったら、事態は最悪ですね」
「あまり大きな声では言えませんけど、私はそこに稲妻牧場も噛んでいるんでないかって思ってるんですよ。昔からあの牧場はうちを目の敵にしてますからね」
だが、それについてはまだこれといった証拠が無い。そう高山は言おうとしていた。ところが長沼は「私怨でこんな事を言ってるんでない」と言い出した。
「以前、潮騒会さんが竜を潰された時、あれを運んでいたのはうちの傘下の輸送会社だったんです。その時の運転手が、船に乗り込む際、稲妻牧場の人が船員と何やら話していたのを見たと言っていたんですよ」
「でも、それって、たまたま同時に乗り込んだってだけで、挨拶していただけなのでは?」
「後方の鏡で見ていたら、二人が自分の竜運車を指差していて、何だろうと運転手は思っていたそうなんです。さらに、乗る時には貼っていなかった小さな蓄光のテープが、降りる時に竜運車に張られていたそうなんです」
もしそうだとすれば、以前白詰会の八木調教師が言っていた事と整合が取れてしまう事になる。だが……
「非常に怪しいですが、もう少し決定的な証拠が無いと軽々な判断はできないですね」
「私たちもそう感じています。最終的には現行犯で押えないと厳しいでしょうね。『白浜賞』で有力となる稲妻牧場以外の竜が出るようなら、その時が絶好の機会となるのですが」
「私の方でももう少し探ってみますよ。古河牧場さんが同じように思ってくれているとわかれば心強いというものです。何かわかり次第連絡を入れますね」
応接室を出て、そろそろ牧場に帰ろうという話をしていた一行は、成田の姿を探した。だが、探すまでもなく簡単に見つかった。信じられない事に事務室に入る前と全く同じ場所におり、隣には百合が座って、楽しそうにくすくすと笑っている。
その姿に大石が呆れ果て、吐息を漏らした。
「おいおい、あいつ、あれから、ずっとあのお嬢さんと話し込んでいやがったのかよ。会って二日で、よくもまあ、そんなに喋る事があるもんだな」
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