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【完結】競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
呂級編

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第15話 一目惚れ

 翌週、高山は成田会長、秘書の遠山と共に北国へと向かった。

 表向きの目的は古河牧場の競りに参加するため。だが、裏の目的があり、それは竜の輸送事故についての話を聞くため。


 北国に向かう飛行機の中で、遠山が例の話を会長から聞いたと話を振ってきた。


「話を聞いて、私もちょっと調べてみたんですよ。確かに犯罪の臭いがしますね。どうやら表に現れていない盗難事件もあるようで、引退して竜術部に払い下げになるはずの竜が盗まれたという事象が最近増えているんだそうです」


「それって八級ですか? 呂級ですか?」


「どちらもあるようですけど、昨今は八級が多いみたいです。それが何か?」


 その遠山の問いには答えず、天井を見上げ吐息を漏らした。高山もここまで色々な話を聞いてきた。それらを結びつける事で、ある程度は事件の概要のようなものを想像している。遠山の回答はそれを裏付けるような内容であった。


「うちの牧場でもそういう事って過去にあったんですか?」


「薄雪牧場の本場からはそういう報告はあがってませんね。ですけど、傘下の個人牧場からはちらほらと報告が上がっているみたいです」


「それってどう処理したんですか? まさかとは思いますけど、残念でしたで済ませたわけじゃないですよね?」


 高山の質問に遠山は「まさか」と言って噴き出してしまった。


「竜は高価ですからね、一頭一頭保険がかけられているんですよ。その中には盗難保険もありましてね。そこからある程度は戻ってくる事になっています。とはいえ、評価額というわけではありませんから、痛手は痛手ですけどね」


「その保険ってどこがやってるんですか?」


「窓口は生産監査会ですね。実際には提携している保険会社がやっているんですけど」


 生産監査会という単語に、高山が眉をぴくりと動かし、顔つきが険しいものとなる。


「つまり、牧場側にも補填はあるという事ですか。そういう場合って生産監査会ってどう処理するんですか?」


「詳しく聞いた事はありませんけど、普通に考えれば書類上で死亡扱い、つまり登録抹消にするんでしょうね」


「なるほど。竜自体は生きていても、書類上この世にはいない事になるのか。もしそんな竜に書類が付けられたら……」


 高山が想像している犯罪の一端が見えた気がして、遠山は目を見開いて驚いた。思わず大声をあげてしまいそうになる口に手を当て、必死に押えている。


「今回も古河牧場には行く事になっています。場長にその辺りの事を聞いてみましょう。何か新しい情報が得られるかもしれません」


 無言で頷くと、高山は窓の外から下の景色を覗き見た。



 前回来た時には大石場長は何をしに来たんだという態度を成田にとっていた。だが、あのペヨーテ出張でかなり距離を縮めたらしい。態度は相変わらずそっけないものの、「遠いところをよく来た」と声をかけている。あの時購入した『ユキノペンケ』が好走したというのが、それなりに二人のわだかまりを溶かしてくれたのだろう。


「すまないな。ちょっと今、紅藍くれあい牧場の担当者さんが来ているから、そこの菓子でも齧って待っててくれないか」


「この時期だと種付けの話ですよね。うちの竜に紅藍さんが種付け依頼だなんて珍しいですね」


「今年生まれた『ユキノペンケ』の仔の評判を聞きつけて来たんだと。一頭二頭じゃないんだぞ。しかもさ、『サケニッコウ』の種付けを値引きするからって言うんだよ。交渉が上手だよな」


 そう言って大石場長は成田たちに手を振って部屋を出て行った。

 ぱたんと扉が閉められると、成田と遠山は先を争うように北国土産として定番のお菓子に同時に手を伸ばした。それを見て高山も手を伸ばす。牛酪に干し葡萄を練ったものを焼き菓子で挟んだもので、干し葡萄が実に良い仕事をしており大変美味。


「しっかし、看板種牡竜の値引きを交渉に出してくるなんてなあ。系列への言い訳をちゃんと用意してくれるとか、紅藍牧場さんも大したもんだね」


「それが無いと、後で清流会さんや双竜会さんに何を言われるかわかったもんじゃないでしょうからね」


「なんというか、うちより一枚も二枚も上って感じがするね」


 成田が舌を巻き、遠山はただただ関心している。


 思ったよりも交渉は早くまとまったようで、紅藍牧場の担当者の声が聞こえてきた。どうやら女性らしい。成田が来ているという話を聞いたようで、挨拶をしていきたいという声が聞こえる。

 それを聞いて、さっきまでだらけきっていた成田と遠山が焦って身なりを整えた。


 こんこんと扉を叩く音がし、「失礼します」という可愛い声が聞こえる。

 椅子から立ち上がり、襟締めを整え、「どうぞ」と声をかける成田。


 扉が開き、そこに現れたのは二十代くらいの背の低い可愛い系の女性であった。

 成田がぽうっとした顔で女性を見ている。女性も成田を見てすぐに俯いてしまい、軽く唇を噛んでちらちらと見ている。

 遠山が肘で成田を突くと、成田はびくりとして遠山を睨んだ。顎で挨拶しろと促す遠山に、成田は頬を凹ませて、恥ずかしそうに女性に視線を移した。


「あ、私、薄雪会で会長をしております、成田長茂と言います」


「わ、私、あ、あの、紅藍牧場の氏家百合と申します」


「紅藍牧場さんがいらしているというので、どんな方かと思ったら、まさか、こんな可憐な方だとは。むさくるしいところで恐縮ですが、よろしければまたお越しください」


 照れて目を合わせられない成田に、大石が「むさくるしいところで悪かったな」と呟く。そんな大石を百合はくすくすと笑った。その耳は真っ赤に染まっている。


「後日また。その、もしよろしかったら、今度うちの牧場にも遊びにいらしてください」


「ぜひぜひ! 明日は古河牧場に行って、その後は小田原に帰らないとなので、後日、きっと」


「えっ、明日古河さんに行かれるですか? 奇遇ですね。私もなんです。じゃあ向こうでお会いできるかもしれませんね」


 何だか急に二人だけの桃色空間が広がり、遠山と高山、大石は居心地の悪そうな顔をしている。だが、成田と百合の二人はお構いないし。明日は何時に行くのかやら、どれくらい滞在予定なのかやら会話が弾んでしまっている。

 さすがに遠山が、「紅藍牧場さんも帰って報告があるだろうから」と成田をたしなめた。


「では、明日、古河さんで」


「はい、楽しみにしていますね」

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