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【完結】競竜師・外伝  作者: 敷知遠江守
呂級編

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第13話 会派

 最初、成田は高山が何を言いたいのかよくわからなかったらしい。


 会長にしろ筆頭秘書にしろ、竜主会の会合に出ねばならず、その内容に頭を付いていかせないといけない。そこで、会長に就任してから成田は、遠山と共に競竜部に入り浸って競竜について色々と学んでいる。同じ競竜の知識と言っても、学んでいる分野が異なるので単純比較はできないが、今では知識量だけで言ったら高山と同程度まで上がってきている。そんな成田に投げられた高山の質問内容『取り違えは可能か?』は、完全に成田の分野の知識であった。


「何が聞きたいのかはわかりませんけど、高山先生もご存知の通り、基本は生産監査会が徹底管理しているから無理ですよ。ですけど、人類の作ったものに完璧なんてものはありません。難しいでしょうができなくはないでしょうね」


「それっていうのは、お金でどうこうなる問題ですか?」


「こんな事を言ってしまったら元も子もないですけど、買収で動く人間というのは一定数います。これは道徳の問題で、賢さとは無関係の話です。金に弱い賢い者がいれば、秩序ってのは簡単に壊れますよ」


 どうやら何か事件が起きているらしい。成田もここまでの短いやりとりですぐにその事は察した。だが、あまりにも断片的過ぎて、いまいち話が見えてこない。


「なんでそんな不穏な事を聞くんです? そんな競竜の体制への不満のような事を」


「先日、馴染みの記者と話をしたんですよ。競竜の組織って五つありますよね。競竜協会、竜主会、執行会、生産監査会、労組。そのうち、これまで大きな問題が起こって無いのは生産監査会だけだって言ってたんですよね」


「競竜協会は天下り、竜主会は不正会計、執行会は収賄、労組は保険の不正契約と大規模な未払い事件。確かに、これまで生産監査会だけが、そういった大きな醜聞がありませんでしたね」


 会長就任前の成田であれば、それがどうかしたのかと切り捨てるところだろう。だが会長に就任してから、『組織というものは勝手に形を保つものではない』という事を北条相談役から口酸っぱく言われている。


「つまり、何も無いという事は、それだけ強固な隠蔽力が働いているはずだと。そう言いたいわけですか」


「あれだけの大きな組織で、これまで大きな問題が一回も起きなかったなんて、ありえないと思いませんか?」


「なるほど。それで生産監査会も大きな問題が起きていて、それを隠しているはずだと。で、なんでそれが取り違えなんですか?」


 ここまでの会話で、成田が思った以上に理解が早いと感じた高山は、八級で発生しているかもしれない何か大きな事件の事を話した。憶測を交え、あくまでそういう噂だとして。


 話を聞いた成田も、あまりに大きな問題すぎて何と返答すべきか悩んだ。だが、妄想と片付けるにはあまりにも筋が通り過ぎている。


「この事は、とりあえず私の胸中に止めておきます。北国に行った時に、古河牧場さんにそれとなく話を聞いてみましょう。もしかしたら何か勘付いている事があるかも。それ次第で何かしら行動を起こしてみましょう」


「行動は起こさず、調査だけに止めておいた方が良いかもしれませんよ。出羽先生のところ、厩務員が一人殺害されてしまったそうですから」


 その情報に成田は眉をひそめた。


「……妙ですね。例えばうちでしたら、仮にうちの八級の厩務員が殺害されたとなったら、犯人が捕まるまで警察に圧力かけ続けますけどね。なんで潮騒会はそうしなかったんでしょうね」


「会長が血の気が多いから競竜部で話を止めてるんじゃ?」


「高山先生でしたら、同僚が殺されてるのに何事も無かったかのように処理する会派の下で働きたいですか? 私は会派に所属する者は全員家族だと考えます。だから、害されれば徹底して対処を求めるし、問題を起こせば厳正に処分するんですけど」


 「それが会派という組織というものだと思う」と言い切って、成田は胸を張った。

 その成田の主張は非常に理解できる。だとしたら、恐らくはどこの会派も同様に考えてるはず。


「だったらなんで潮騒会は……」


「可能性は二つでしょうね。一つは自分たちではどうにもならない相手だった場合。そしてもう一つは……それによって周囲に多大な迷惑がかかる場合」


「周囲に……多大な迷惑……」


 このまま高山がこの件を探り続けたら、他の会派に多大な迷惑がかかるかもしれない。そう成田は暗に示唆したのだろう。

 表情を険しくした高山を見て、成田がにこりと笑みを作る。


「どういうわけか、私は斎藤会長と一条会長に可愛がられているんですよ。今度の会合でそれとなく探りを入れてみますよ」


「あくまで探りだけに止めてくださいね。大事になってしまうと先手を打たれてしまうかもしれませんから」


「気を付けます。そんな事より、来月の邪気払いの話をしましょうか」


 相談役は無事手術が終わり、現在は退院して、邪気払いに参加できるほどに体力が戻ったのだそうだ。「たとえ飲酒がダメでも、邪気払いには可能な限り出たい」「皆の元気な顔を見ながら豆まきがしたい」と口にしているのだとか。


「相談役は肺癌だって事でしたけど、その後転移とかは無さそうなんですか?」


「どうなんでしょうね。こればかりは何とも。無い事を祈るばかりです。斎藤会長の話では、若い頃は先代の紅花会の会長夫人と共に、病気の方があの方たちを避けていく印象だったって言ってましたよ」


「その言いっぷりからすると、やんちゃしてて、お二人にこっぴどく叱られたといったところでしょうかね」


 「目に浮かぶようだ」と成田が大笑いした。「そんなに笑ったら悪い」なんて言いながらも、高山も大笑い。


「何とかして今年の『優駿』をもぎ取りたいですね。『優駿』の杯を相談役に持たせてあげたいです」

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